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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―白虎の月2日― 旅立ちの日
231/272

喧嘩

「さあみんなできたよ! のったのった!」

「やったぁ、ブランコだ!」

「次僕がのりたい!」

「セティもノルノル!」

「20回やったら交代ね、お姉ちゃんは最後でいいから」


 村長の家で勉強会があった次の日、南の森に近いブロス夫妻の家の敷地に、新しい遊具――――ブランコができた。

 このブランコはなんとフィリルお手製で、頑丈な木材の支柱としっかりしたロープで二人同時に遊べる彼女の傑作遊具だった。


「すごいねフィリルちゃん! たった5日でこんな立派なブランコ作っちゃうなんて!」

「えっへん、すごいでしょ! もっと褒めてくれてもいいんですよリーズさん! それに先輩も!」

「まったくもう、この後輩はすぐに調子に乗るんだから。でも、新しい遊具を作ってくれたことには感謝するわ。うちの子たちは飽きっぽいから」


 フィリルはレンジャーとしての修行だけでなく、時々大工のデギムスを手伝って建築技術を学んでいた。その成果の一端として、彼女はたった一人で遊具を組み立てて見せたのだ。

 そして、その時に役に立ったのがリーズやアーシェラたちが教えてきた数学の勉強だった。


「計算を学んでおいてよかった! そうじゃなかったら、すぐ壊れるブランコができてたかもしれない」

「役に立って何よりだよ。教えたリーズや僕も、とてもうれしく思う」


 子供二人が同時に漕いでも壊れないブランコを作るには、基礎の設計から寸法を計算しなければならない。

 そうなったとき、フィリルは改めて今まで学んできたことを思い出して、きちんと図面から書いてデギムスに許可を取って作り上げた。やはり彼女は、実際にやってみることが一番の学びになるようだった。

 フィリルが作ったブランコは子供たちに大好評のようで、ブロス夫妻の子供たちだけでなく、パン屋の子供たちや交流留学(?)中のイムセティ、羊飼いのミーナまで順番を交代しながら大いに遊んでいたのだった。


「やっはっは、こんなに大好評だと、今から次に何を作ろうか楽しみだねぇ」

「あらあら、では今度は私も何か遊ぶものを作ってもらおうかしら♪」

「もちろんお安い御用で…………って、ええぇっ!? リーズのお母さま!?」

「私より母さんのほうが遊具に目を輝かせるなんて、小さい頃の反動かしらね」


 遅れてやってきたのが、リーズの母マノンと姉のウディノだった。

 マノンが心の底から楽しそうに遊具を見るので、付き添っているウディノはあきれながらも、母親が幼少期から教育漬けだったことを思い出して同情してしまっている。


「ふふふ、遊具が欲しいというのは冗談よ。今はリーズやウディノ、それにアーシェラがいてくれるだけで毎日楽しいわ。それにしても、この村の子供たちはずいぶんと仲がいいのね。みんなケンカしないで、きちんと順番を決めて遊んでいるわ」

「そういえば確かに……リーズもこの村に来た時から、子供たちが喧嘩してるのを見たことないかも。ねぇシェラ、やっぱりそういう風に喧嘩しないように教えてるの?」

「うーん、僕は何も…………将来はまだどうなるかわからないけど、ブロスさんやディーターさんたちがきちんと子育てをしている成果じゃないかな」

「それは素敵ね! リーズはあまり喧嘩はしなかった子だけど、フィリベルやウディノは小さいころ友達としょっちゅう喧嘩してたもの」

「うぅ……ハンセイシテマス」


 リーズの言う通り、この村の子供たちは珍しく喧嘩らしい喧嘩を全くと言っていいほどしない。

 アーシェラも別に特別なことはしていないので、単純にまだ喧嘩するだけの理由と、なにより人数がそこまでいないというのがあるのかもしれない。

 今もブランコで遊ぶ子供たちは、最年長者のミーナが決めたルールをきちんと守っている。

 誰一人わがままを言わないのは、やはり家族での教育が行き届いているからだろう。

 小さいころほかの家の子供と集まっては、しょっちゅう喧嘩して年上の男さえも叩きのめしていたウディノからしてみれば耳が痛い話だった。




「とりあえず、子供たちのことについては大丈夫そうだね。勉強のことも、僕たちの代わりにミーナやフィリルたちが見てくれる」

「えへへ、フィリルちゃんもすっかりみんなのお姉ちゃんになってたから、何かあっても大丈夫だよね、きっと」


 新しくできた遊具の視察もそこそこに、リーズアーシェラの村長夫妻は村の視察に戻った。

 二人がまた山向こうに行く日もそう遠くなくなってきた今、不在の間にきちんと村の生活が機能するか、何度も確認しているところだ。

 もっとも、リーズもアーシェラも、今まで二回ほど長期探索のために村を開けたことがあり、その間は特に問題は起きなかった。

 だが、今度は王国に乗り込んですべての問題に決着をつけに行くのだから、今までの遠征とは話が違ってくる。

 予定では2ヶ月以上、下手をすればそれ以上に時間がかかる上に、何か問題が起きてもすぐに戻ってくることはできない。そのため、念には念を入れて、少しでも不安を取り除いておきたかったのだ。


 そんな二人が村の中心まで歩いてくると、何やら言い合いのような声が聞こえてきた。


「ですからっ! 人として女神さまから生を授かった以上、日々感謝の祈りをささげることは当然のこと! それを怠るなんて言語道断です!」

「知るかよそんなこと。そんなの僕の勝手だろう」

「いいえ、今日という今日こそは、きちんと女神さまの教えを理解させてあげます」

「やだよ面倒くさい」


「ちょっとちょっと、二人で何喧嘩してるの?」

「やれやれ……小さい子たちは喧嘩しないけど、大きい子はこのありさまか」


 村の中心にある四阿あずまやで言い合いをしていたのは、はぐれ神官

 さっきまで「村の子供たちは喧嘩しない」と言っていた直後に、こうしてほぼ大人に近い年齢の青少年が喧嘩しているのは皮肉としか言いようがなかった。


「あっ、聞いてくださいよ村長さん! このティムさんはせっかく気配りのできる良き人であるにもかかわらず、女神さまへのお祈りは絶対にしないと言い張るんですよ! 確かにマナーを人に押し付けるのはダメってことは……以前、その、リーズ様や村長さんに教えていただきましたが…………それにしたって、限度というものがあると思うのです! この村の人たちは確かに自由ですが、少なくともお祈りは毎日していますよ!」

「っていう感じでうるさいんだよこの子。お祈りしたところで、何かいいことも悪いこともあるわけじゃないし」

「あー……なるほど」


 口論の原因自体は些細なものだったが、アーシェラはティムが「無神論者」であることに何か引っかかりを覚えた。


(ちょうどいい機会だ。昨日のこともあるし、ティムと少し話してみるか)


 とりあえずアーシェラは、ティムの言い分を聞くと称して、一度彼を村長宅に連れていくことにした。


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