出しゃばり
突然、第二王子セザールが会議に首を突っ込んできたことで、グラントやフリム侯爵ら重臣たちは困惑するばかりだった。
「セザール殿下……我々は決して喧嘩をしているわけではありませぬ。お互いに国のことを思うゆえの、意見の衝突に過ぎません」
「はっ、建前がどうであれ、俺には見苦しい子供の喧嘩にしか見えんな。俺が王になった暁には、まずは家臣同士の争いがあった場合は双方問答無用で処罰という方を作るべきかな、はっはっは」
グラントは心の中で「この王子を教育した奴は誰だ」と叫びたかった。
確かに、あえて見苦しい権力争いを演じていたせいでそう思われるのは無理もないが、だからと言って立場を利用して臣下を面前で蔑むのは上に立つ者のやることではない。
数年前までは(内面はともかく外見は)非常に聡明な王子と感じていただけに、セザールの最近の傍若無人っぷりに臣下たちは辟易していた。
「たかが地方の反乱に何万もの軍を使うのか? 鎮圧に1年もかける予定なのか? 周辺国への示威だかなんだか知らんが、そんな面倒なことをしていては、俺とリーズとの結婚式に間に合わんではないか」
「で、ですが殿下……反乱を起こしたのは国境の領主ゆえ、国境守備の為にそれなりの兵力を持っております。その上、背後には大陸中部の中小諸国連合が加わっているとなれば、兵力の小出しは――――」
あまりにもトンデモなことを言い始めるので、フリム侯爵も慌ててグラントの側に立って王子を説得し始める。しかし、セザールは彼の意見をまた鼻で笑った。
「それこそ愚問だな。我が国にはたった数百人で数万人に匹敵する兵力があるではないか。それを使えば1カ月もかからないはずだ」
「まさか殿下……元勇者パーティーの方々を!?」
「せっかく高い金払って国が養ってやってるんだ。こんな時くらい王国の役に立ってもらわないとな、お前たちもそう思うだろ?」
そう言ってセザールは、この場に集まっている貴族たちに視線を向けた。
「なるほど、確かにセザール様の言う通りですな」
「勇者や聖女は不在とはいえ、あの魔神王を倒した歴戦の猛者たちであれば、人間の相手など造作もないでしょう!」
「使う物資も少なくて済むし、なによりも少数で王国の威光を天下に知らしめることができる。素晴らしいお考えです!」
グラントたちと違って事前に打ち合わせしているわけではないにもかかわらず、王国貴族たちはセザールの意見に次々に賛同した。
元勇者パーティー1軍メンバーたちは貴族たちの仲間という扱いの為、いけ好かない軍人たちの手柄を貴族たちのものにできるからだ。
「陛下っ、セザール様の意見にも一理ありますが、元勇者パーティーの者たちにはリーズ様が戻ってくるまで多数の仕事があるはずです。私とてそうなのですから、むやみに使うのは避けるべきです」
「さすがにこればかりはグラントの言う通りかと! 勇者パーティーの方々に、自国民を手にかけるような仕事をさせるわけにはいきません!」
グラントやフリムも必死で国王を説得したが…………国王はやはり息子に甘いのか、グラントたちの意見を退け、セザールの意見を採用した。
「うむ、セザールの意見はもっともだ。反乱の鎮圧に時間をかけるわけにもいまい。それに、外国からの干渉がある前に決着がつけられる可能性もあるだろう」
「さすがは父上! その柔軟な考えは、次期国王として私も見習いたいところ! では、肝心の総司令官ですが、ここはグラントを任じましょう」
「えっ」
まさかセザールが自分を指名すると微塵も思っていなかったグラントは、虚を突かれてやや間抜けな声が漏れた。
「あの、セザール殿下……そこはせめて先ほどの決定通り、私が指令を務めましょう。グラントは反乱のうわさがあるのですぞ、こやつが勇者パーティーを率いて丸ごと寝返れば、それこそ取り返しのつかないことに…………」
「はっはっは、フリム侯爵はこのような時でも己の権力にしがみつくか。問題ない、勇者パーティーの奴らは皆正義感にあふれる愛国者だ。たとえグラントが反乱を起こしても、彼らが止めるだろう。それに私は、グラントに噂を帳消しにするチャンスをやろうとしているのだ、嬉しいだろグラント」
「え、ええ、もちろんですとも!」
(正気か!? それとも第三王子と邪神教団の策略か? これでは計画が破綻してしまうぞ!)
立場上喜んでこの任務を引き受けざるを得なかったが、グラントは内心非常に焦っていた。何しろ、このような事態は完全に想定外だったし、想定外だったのもこの計画があまりにも破綻しているからだ。
確かに、反乱軍を倒す「だけ」なら、勇者リーズや聖女ロザリンデ、黒騎士エノーといった中核メンバーがいなくとも何とかなるだろう。
しかし、反乱鎮圧はただ単に敵兵を倒すだけでなく、占領地の維持や多方面への警戒などをしなければならず、それらは最終的に手数がものをいう。それをたった数百人だけでやるなど正気の沙汰ではない。
そして、そもそも元勇者パーティーを王国で抑えているのも、王国復興の名目でかつてない重税を課している王国住民たちをイベントや巡回などで不満を抑える役割を担っていることもあり、彼らをごっそり動員してしまうのは非常にまずい。
(ともあれ、今やれることは命令に従ったふりをして時間稼ぎだ。少なくともあと一月は、今の状態を維持しなければ)
グラントの計画は、すでに9割完成しつつある。
国への被害を最小限にしつつクーデターを決めるためにも、ここで台無しにされるわけにはいかなかった。




