残党たちの夢の途中
「…………にわかには信じられん。ジョルジュ殿下が、本当に邪神教団の残党とつながりを持っているだけでなく……魔神王の再召喚をもくろんでいるとは!」
「私も……彼らの考えを少々甘く見ていました。てっきり、教団を壊滅させた王国への報復を望んでいるだけかと」
術式ランプの灯りがともる夜の執務室でシロンたちの報告を受けたグラントは、以前アーシェラに一杯食わされたとわかった時と同じような、苦々しい表情を浮かべていた。
シロンの言葉がフカシではないことは、同行した部下のフィリベルがその目で確かめてきている以上、現状を受け入れるほかない。
「奴らの真の目的を知れただけでも大きな成果だ。見せ札を使った甲斐があったというものだ」
「あのー……おまけ扱いの俺がこのようなことを聞いていいのかわかりませんが、グラント閣下が反乱を起こすとかいううわさがちらほら流れているようで……大丈夫なんですかね?」
ここで、シロンの幼馴染がおずおずと手を挙げて、グラントに質問する。
第三王子陣営を探るためとはいえ、謀反を企てるなどといううわさが流れるのは普通に考えてもかなり拙いことだというのは確かだ。
グラントが解任されて、最悪処刑などされようものなら、今までの行動はすべて水の泡だ。
「ははは、君の心配はもっともだ。だが案ずることはない、軍は既に大半を抱え込み、貴族どもにはいつもの利権対立でしかないと信じ込ませてある。まあ、万が一国王陛下や王子殿下たちがのせられたとしても、計画を一部修正するだけで済むようになっている」
「そ……そうなんですか」
「当たり前ですよ。何の考えもなしに、自分の隙をさらすようなことは普通しません。よっぽどの考えなしでない限りは」
「とはいえ、本当に最悪の場合はクーデターの前倒しも視野に入れていたが、現状はその心配はなさそうだ。むしろ…………今流れているささやかな噂は、かえって第三王子陣営に対抗するために都合がよいかもしれん」
「と、いいますと?」
グラントはクーデター計画を立てていた当初から、反乱のうわさが流れた時の対策を数多く練ってきていた。
権謀術数が跋扈する王国内でそれなりの地位に就いてそれを保持するためには、自分の足元の対策を施すのは必須と言える。
計画の為に半年以上も時間をかけているのは、そういった些細な不都合が起きても揺るがないようにしていたからに他ならない。
「私が反乱を起こす計画はデマとしつつも、念のためということで王国内の警備を厳重にする。もちろん、警備の指揮は密かに私の息のかかった者を責任者とする。そうすることで、邪神教団の残党どもの動きを徐々に締め付けてやるのだ」
グラントは王国の郡家印をほぼほぼ掌握しつつある。
もちろん、露骨にやると怪しまれるので、信頼できる人物に密かに話をつけて、彼を表向きの「グラントと仲の悪いライバル」に仕立て上げることで、名目上は権力のバランスが拮抗しているように見せかけている。
そして、今回の反乱のうわさを「ライバル」が監視することにして、ついでに王国内での怪しい動きを制限しようというのである。
「気持ち的には、今すぐにでもジョルジュ様の身辺を強引にでも洗い出し、計画を潰してやりたいものだが…………あの方の周囲の警備は厳重なうえ、第三王子の回し者がこちらの陣営に潜んでいる以上、動きはすぐに察知されることだろう。今の段階で、何の正当性もなく第三王子殿下に刃向かったらすべては台無しだ。向こうもそれがわかっているのだろうと思うと、少々悔しいものがある」
「しかし…………魔神王を復活させると言っても、一体何をどうする気なのでしょうね」
「それも問題だな。魔神王があのような辺境の地で復活したのも、たしかあの場所でなければ復活するための力が得られないという理由もあったはずだ。それを王国の真ん中で可能なのであれば、以前もそうしているはず。ふーむ……こればかりはもう少し調べてみるほかあるまい。シロンよ、すまないがもう少し手を貸してもらえないだろうか」
「…………お任せください!」
シロンは一瞬だけ逡巡したようだが、それでも力強くグラントの依頼を受諾した。
(次期権力者に取り入ったうえで、母親の仇を取ってやろうと考えていましたが…………まさか私が、この世界の危機を止めなければならないなんて)
まだ若いシロンにとって、想定外の重大任務によるプレッシャーは相当なものだったが、震えそうになる身体を必死に抑る。
かつて魔神王を倒し、今は行方知れずになっている勇者リーズも、かつてはこのような心境だったのだろうかと考えながら…………




