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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―王国情勢Ⅴ― 噓から出た実
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謀略の霧

「そうか、グラントどもの目論見がある程度わかったというのだな」

「はっ……真偽のほどは確実とは言い切れませぬが、現状を鑑みるにほぼ間違いないかと」


 話は少々さかのぼり、ロジオンがアロンシャムの町に帰ってくる少し前のこと。

 第三王子ジョルジュは、彼の手足となって働いている邪神教団の残党に命じてグラントたちの動きをつかもうと試みていたが、それがようやくある程度見えてきたと報告があった。


「して、奴らは何をもくろんでいる?」

「我が派閥の将軍たちがそれとなく聞き出したところ、どうも彼らは勇者リーズを王位につけようと画策しているらしいとのこと」

「…………なるほど、それは盲点だった。グラントの奴は骨の髄まで王家への忠誠を持っているはずだったが、内心では我々に舌を出していたということか」


 ジョルジュたちは以前から、第三王子派に属する軍人たちをあえてグラントの麾下に入れさせることで、密かに軍全体の内情を把握しようとしていた。

 邪神教団が放ったスパイも含めて大小さまざまな情報が集まり、その結果どうもグラントは王家から勇者リーズに王位を禅譲させようとしているのではないかと見られていた。


 配下からの報告を聞いたジョルジュは、ようやく長い間疑問だったことが腑に落ちたことで、表情が妙に晴れやかだった。

 そもそもグラントとその一家は昔から根っからの王党派重鎮であり、それがなぜクーデターをたくらんでいるのか、その理由がさっぱりだった。

 これがまだ第二王子セザールが第一王子レタンをないがしろにしているため、第二王子とその派閥を潰そうとしているという理由ならまだわからなくもないのだが、どうもそのような動きも見られない。

 むしろ最近のグラントは、第一王子をほぼ無視しているようにすら見えるし、なんなら第二王子が即位することにも特段異を唱えていないのである。

 だが、それらがすべてリーズを王位につけさせようとする動きだと言われれば、これほどしっくりくることはない。


「しかし、肝心の勇者がいないことにはどうにもならんではないか」

「まさしくその通りです。グラントも以前から必死になって捜索しているようで、黒騎士エノーと聖女ロザリンデまで動員している模様」

「くっくっく、滑稽なものだ。新たなみこしを担ぎあげ、権勢を振るおうと算段しているようだが、肝心の神輿が行方不明ではなぁ」

「…………」


 久々に上機嫌の笑みを浮かべるジョルジュを前に、報告を行った邪教信徒はジョルジュが気が付かない程度にほっと溜息をつく。

 最近この尊大なパトロンの機嫌が悪くなる一方で、仲間たちが無理難題を押し付けられている状況が、これで少しは良くなるだろうと思ったからだ。


(とりあえず今は……このお方を宥めなければ。なぁに、些細な思い違いがあろうと、最終的に計画を成功させればいいのだから)


 実は、この「グラントが新たな王としてリーズを擁立しようとしている」という情報は、グラント陣営が流した偽情報だった。

 少々リスクは高い作戦だったが、少しでも目立った成果が欲しい邪神教団たちは真偽が怪しい段階でありながらも食いつかざるを得なかったのだ。


「そうと分かれば話は早い。あの邪魔な連中を王都から剥がすいい機会だ。コドリアを呼んで来こい」

「承知しました」


 報告された情報から、ジョルジュは早速コドリアを呼ぶよう命令した。

 その後、やや時間がかかったが、黒いローブを纏った顔色の悪い老人が、息を切らせながら部屋の中に駆け込んできた。


「ぜぇ……ぜぇっ、およびでございまするか、ジョルジュ様……」

「はっはっは、随分と慌てているではないか。もう少し遅れていれば、その首をはねてやろうかと思っていたぞ」

「…………」


 先ほどまで別の任務にかかりっきりだったコドリアだったが、ジョルジュはあまりにも召集が遅いと不機嫌になるため、疲労でボロボロの身体に鞭をうって駆けつけてきたのだ。

 顔には出さないが、内心では協力関係になかったら今すぐこの暴君を生贄にしてしまいたい気分だった。


「して……どのようなご用件で?」

「うむ、そなたの部下から報告があった。グラントどもが画策しているのは、勇者リーズを王位につけるための反乱である可能性があるそうだ」

「それはそれは……まことであれば、あの男もずいぶんと狸ですな。今のままでは自身の地位も安泰ではないと理解しているのでしょうな」

「くっくっく、王国でも一二を争う忠臣ですらこのありさまだ。仕える主がいなくなったというのに、律儀に忠誠を尽くしているそなたらの爪の垢でも飲ませてやりたいものだ。…………と、話がそれたな。まずは宮中に、グラントの反乱のうわさを流せ、それと同時に例の貴族に反乱の決起をさせろ」

「……! いよいよ、動かれますかな!」

「ああ、もし情報が本当であれば、グラントどもは窮地に陥り、王国の混乱はより一層増す。しばらくはそなたらの負担もさらに増すだろうが、ここを越えれば貴様らの…………そして、わが願いの成就は目前となるだろう」

「お、おおぉ……我らの努力がようやく報われるのですな……! 改めて、皆の者に一層奮起するよう伝えます!」


 自分たちの苦労がようやく報われるとわかると、疲れ果てていたコドリアの瞳にみるみる生気が戻っていくのが見えた。

 今ジョルジュが命じた仕事も決して楽なものではなく、邪神教団たちはしばらく昼夜問わず働き詰めになるだろうが、ここが山場と分かれば彼らも奮起するだろう。


 この数日後、王国の辺境で地方領主が王国の離脱を宣言。

 事実上の反乱を引き起こした。


 それと同時に、王宮内で密かにグラントが反乱を起こす可能席があるといううわさが流れた。


 これがグラントたちの謀略であると知らずに――――――


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