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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―星魚の月20日― 日常と非日常
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焦燥

「えっと、そこに誰かいる」

「たぶんフリッツ君だと思うよ! さっきからずっとこっちを見てたもんね!」


「な……なんでわかるのリーズさん。バレてるなら早く言ってよ……」


 家の影からひょっこりと現れたのは、顔を真っ赤にしているフリッツだった。

 どうも彼はリーズたちの届け物があったみたいだが、二人がいちゃつき始めたのでタイミングを見失ってしまった。

 リーズはその気配に気が付いていたが、面白そうだったのであえて言わなかったようだ。


「村長に頼まれてたものができたから渡したかったんだけど、その……」

「タイミングを見失っちゃったわけか。それは悪かった」

「あっ! 頼んでた「精霊の手紙」もうできたんだ、早いね! さすがフリッツ君!」


 フリッツが二人のところに来たのは、アーシェラに作成を頼まれていた「精霊の手紙」を納品するためだった。

 これから先、王都にいるグラントや山向こうにいる協力者たちと綿密に連絡を取り合わなければならないので、あらかじめストックに余裕を持たせておこうというわけだ。


「助かったよ、ありがとうフリッツ君」

「いえ、お役に立てたのならうれしいです! …………近いんだね、山向こうに向かう日が。もっと先のことかと思っていたのに、最近は少し暖かくなってきて、いよいよ春が近づいてくると思うと…………」

「やっぱり不安になってくる?」

「それもあるけど、やっぱりどこかまだ現実じゃないような気がして」


 リーズがこの村に来てからもうすぐで4カ月ほどになる。

 そして、あと1カ月後にはいよいよ王国の諸問題と最後の決着をつけるべく、リーズとアーシェラは村を一時的に離れなければならない。

 いろいろとリスクの高い旅になることが予想されるが、その随行員としてフリッツとレスカも選ばれているのだ。


「そっかぁ、フリッツ君にとっては山向こうは2年以上行ってないもんね。リーズも向こうにいたころがすごく昔のことのように思えるのに、フリッツ君はもっと緊張するよね」

「う、うん! それはもちろんわかってるんです、でも……」

「?」


 珍しくフリッツの会話の歯切れが悪い。

 アーシェラはなんとなく、彼が何か別の不安があるものの、話していいことなのかどうか迷っていると感じた。


(リーズには悪いけど、お風呂はちょっと後回しにするか……)


 フリッツの悩み事が気になったアーシェラは、この後の予定を変更することにした。


「ねぇリーズ、お風呂入る前にフリッツと一緒にお茶にしようか。手紙を作ってくれたお礼も兼ねて」

「……! いいねシェラっ! フリッツ君お茶にしましょ!」

「えぇっ、そ……そんな、悪いよ!」


 アーシェラがリーズに目配らせしながらフリッツとお茶にしようというと、リーズもすぐにアーシェラの意図を感じ取った。

 それと同時に、フリッツも「しまった、村長たちに気を使わせてしまった」と感づいたようだがもう遅い。

 フリッツはあれよあれよと村長宅に連れ込まれてしまったのだった。




「さてと、フリッツ君は何か悩んでいるようだね、僕たちでよければ相談に乗るよ」

「あの……本当に話しにくいというか、その……」


 リーズとアーシェラは連携してあっという間においしいお茶とお菓子を用意すると、ほとんど尋問か何かのように話を促した。

 多少強引ではあるが、これから先フリッツには重要な役目を担ってもらうため、あらかじめ不安定になる要素はできる限り取り除きたいのだろう。

 それと、これもアーシェラの予想だが、フリッツの悩み事は「恋」なのだろう。

 それも姉と慕っているレスカのことだ。

 たいていの悩みであれば、フリッツはアーシェラやリーズよりもまずレスカに相談するのだが、それをしないというのはレスカに知られたくないからに他ならない。


 しばらくどう話したらいいか悩んでいたフリッツだったが、アーシェラとリーズが入れてくれたお茶を飲んでいるうちに心が落ち着いたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。


「僕……レスカ姉さんに、その……好きだって伝えたいんです」

「フリッツ君……」

「うぬぼれじゃなければ、レスカ姉さんだって、僕のこと……その、嫌いにはならないと思うんだけど……でも、今まで僕とレスカ姉さんは、姉弟だったから……この関係が壊れちゃわないか心配で」

「なるほど…………この前の港町の探索の道中で、いろいろ意識してしまったんだね」

「そ、そうなんだ! 今までもレスカ姉さんのことは、好きだったけど……自分たちはあくまで「姉弟」なんだって、心の中でどこか線を引いてたのに」

「なるほど……でも、ほかにもきっかけがあるんじゃないか?」

「……はい」


 どうもフリッツには悩みのほかにも「焦り」があるように感じた。

 フリッツにはなんとしても関係を進めなければならない理由があるのだろう。


「村長……僕は、一緒に山向こうに行くんですよね。そして、そこで大勢の移住志願者の人たちを受け入れるんだよね」

「そうそう。受け入れる人については、ロジオンの方で今選定してもらっている最中だけど」

「この前ウディノさんと話してた時に、こんなこと言われたんだ。その……僕みたいな男の子は、腕っぷしの強い女の人にとって格好の獲物だって」

「あぁ、そういう……」

「お姉ちゃん、そんなこと言ったんだ」


 この世界では基礎的な体力でいえば女性よりも男性の方が生物的に勝っているのだが、後天的な努力での伸びも著しいため、女性でも容易に男性を強さで上回ることが可能だ。

 現に今目の前にいるリーズは人類最強筆頭候補であるし、そうでなくても冒険者や兵士、肉体労働などでも女性が普通に活躍している、ある意味男女共同参画社会と言ってもいい。

 ただ、その分男性特有のはずの問題を女性も起こすという事例も発生している。

 この世界の「娼館」は、男性向けのみならず女性向けがあるという時点でいろいろ察するものがある。

 それでも、兵士や冒険者と言った職業は男性の割合が多い上に、近年では魔神王や邪神教団との戦いで男性が大勢亡くなっており、人口における男女比が偏り始めていることもあげられる。


 人間というのは利己的なもので、自分よりも弱い異性がいると奪いたくなる衝動に駆られるらしい。そうなった場合、戦闘能力がそこまで高くないフリッツは「強い女性」にとって、まさに格好の「獲物」であると言える。


「もちろん、僕自身が強くなるのが一番なんだけど! でも、レスカ姉さんともっとしっかりした絆が欲しいんだ…………リーズさんと村長みたいに」

「なるほどね……」


 リーズのとって公子リシャールや第二王子セザールが襲い来る脅威になったと同じように、フリッツにもそのような存在が現れないとも限らない。

 なんなら、リーズの姉ウディノがそうなりそうな気配すらある。


 故にフリッツは、自分はレスカの物だと強く主張できるような関係を欲しているのだった。


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