報告 Ⅱ
『リーズ様がおめでた!!!???』
星魚の月1日――――この日できたばかりの村の集会所で、ヴォイテクたちやスピノラ、シャティア、セレンたちが滞在する最後の日の宴会を催していた。
そして、乾杯して間もなくリーズとアーシェラから重大報告があると言って、正式にリーズが妊娠したと報告したのだった。
「えっへへ~♪ リーズはお母さんになりました~!」
「実際にみんなの前で言うと……なんだか照れ臭いね」
「ロジオンに続いてリーズさんとアーシェラさんもかよ! こうめでてぇ知らせが続くとこっちの心臓がぶっこわれちまいそうだぜ! おめっとさん!」
「そうかそうか~、今すぎ飛竜に乗ってみんなに言いふらしに行きたいけど、やっぱりもうちょっと我慢しないと、だめかな?」
スピノラと郵便屋のシェマは、ロジオンに続いてリーズとアーシェラも親になったことが嬉しすぎて、聞いた瞬間からそわそわが止まらなかった。
この話はある程度仲間には内緒にしなければならないのだが、本人たちは今すぐにでもあっちこっち走り回って、二人の子供ができたことを言って回りたい気分だった。
「すっごくラブラブだって聞いてたから、やっぱり夫婦の営みはきちんとしてたんだろうなって思ってたけど…………今はもう納得しかないわね!」
「アーシェラさんは凄く真面目だったし、リーズ様もついこの前までは純粋無垢な方だと思ってたから、その……こういうこと、してるのかななんてちょっと心配してた」
元二軍メンバーたちの間では、アーシェラはどちらかと言うと生真面目でいつも仕事ばかりしている印象があったので、リーズと結婚してもストイックな夫婦生活をしているかもしれないと想像している人間も多かった。
魔神王討伐の旅の最中では「聖女様に告白されたのに振った」という噂がひそかに流れており、余計アーシェラが堅物だという印象が独り歩きしていた。
しかし、実際に二人に会ってみると、堅物だとかストイックだとか一切合切を通り越して完全なるバカップルと化しているのだから世の中分からないものである。
「あーあ、やっぱ俺も嫁さん欲しくなってきた! でも俺船乗りだし、一緒に船に乗ってくれる男のロマンがわかってくれる嫁さんいねぇかなぁ!」
「センチョー! セティがおよめさんじゃ、ダメ?」
「お前はまだ10年はえぇよ! おれはどっちかってぇと年上がいいんだ!」
ヴォイテクに懐いているイムセティが彼のお嫁さんに立候補するも、流石に幼過ぎて眼中にはないらしい。
そして、その光景を見たリーズとアーシェラは、昨日の夜に聞いた話を思い出してどこか気まずそうに顔を見合わせるのだった。
「ほ、ほらほら、質問攻めもいいけれど、せっかく僕とリーズでたくさんお料理を作ったんだ、たくさん食べていってよ!」
「お替りもたくさんあるし、余った分は帰り道で食べるために持っていけるようになってるからね!」
『おおっ!』
あまりの衝撃で酒を飲むのも忘れていた一同だったが、二人の言葉で用意してある山盛りの料理のことを思い出し、改めて皿を手に取って思い思いの食べ物をよそり始めた。
山積みになったハンバーグや、大きな鍋にどっしりと入ったシチューをはじめ、サラダやソーセージ、数々のおつまみなど、たった二人で作ったとは思えない料理が大量に並んでいた。
「相変わらず凄いよねこの量……! それでいて、こんなにおいしいなんて!」
「勇者パーティーの頃は、それこそ毎日300人分の料理を作っていたし、結構こだわりの強い人も多くて大変だったよ。でも、みんなの笑顔を見ることができるのが何よりの喜びだったからね!」
「えへへ、リーズもお料理作ってて、その気持ちがよく分かった!」
「でも、その~……お腹に赤ちゃんがいるのに、歩き回っても平気なの?」
「そ、そうだ! 昨日まであっちこっちつきあわせちまったけど、大丈夫だったのか? 知らんかったとはいえ、申し訳ねぇことをしたのかも……」
「まあ、そう思うのも無理ないよね。今のところはまだ平気だよ。でも、あらかじめ言っちゃうと、みんな気になりすぎて仕事に集中できないかなと思って」
「うっ、確かに!?」
赤ちゃんができたという報告をここまで後回しにしたのはやはり正解だった。
子供を持ったことがないメンバーたちは、母体の負担が赤ちゃんにどこまで影響するかどうかほとんど知らないので、どうしても慎重にならざるを得ない。
アーシェラの言う通り、彼らが村の周辺で活動する前に、リーズに赤ちゃんができたことを知ってしまったら、とても作業どころではなくなってしまっただろう。
「リーズ様、その……本当に平気なんですか?」
「うん、大丈夫! この村にはちゃんとその道のプロがいるから」
「まかせて。私は双子を含めて4人の子供の母親だから、経験は豊富よ」
「おっほっほ! いざとなったらおばさんたちもいるから、安心しとくれよ!」
「あら、でしたら私は出産の立ち合いの数ならここの誰よりも多いですわ」
「お姉ちゃん……それは羊の話だと思うんだけど」
とはいえ、この村には子育ての達人たちが揃っている。
羊専門のイングリット姉妹は別としても、ユリシーヌやパン屋の女将さんであるヴァーラという経験者がすぐに近くにいてくれるのはとても頼もしいことだ。
「リーズちゃん、あんなにみんなに祝ってもらえて幸せそうね。私も旦那様にお願いしてもう一人作っちゃおうかしら?」
「母さん……それはちょっとシャレにならないから」
そして、娘がみんなから祝福されるのを羨ましがるマノン。
表立って反対はできないが、これ以上ややこしい家族にしないでほしいと願うウディノであった。
「しっかしまぁ、ロジオンと言いアーシェラといい、真面目そうに見える奴ほど子供ができるのが不思議だよなぁ」
「ヴォイテクの言う通りだな。俺の故郷に伝わる「夫婦仲がよくなる酒」を持ってこようかとも思ってたんだが、飲ませたらむしろ毒だな」
「なになに? そんなお酒があるの? リーズも飲んでみたいっ! もっとシェラとらっぶらぶになれるかな~?」
「僕も噂には聞いたことがあるよ、それ。色々悪用されたから、あんまり作ってないって話だったけど、確かに一度試してみたいね♪」
「ヤッハッハ、やっぱり毒になりそうだね。かわりに私とゆりしーで試してみようか!」
「いい考えね」
「いや、お前らにも毒だろ! この村に持ってくること自体が危険だわこれ!」
酒が入ってくると、やはりどうしても下世話な話が増えるというものである。
船乗りのヴォイテクも、いい歳したおっさんのスピノラも、働き盛りのシェマもそういった話に目がないが……彼らをもってしてもリーズとアーシェラ夫妻のラブラブぶりには太刀打ちできないようだった。
「ねぇねぇ、リーズ様! お二人の恋模様はアンチェルから聞いたことがあるんだけど、もう赤ちゃんができたってことはやっぱり…………」
「うん! ミルカさんが言うには、もう1月になるんだって!」
「きゃーっ♪ 結婚してほとんどすぐじゃないですかー! すごーい! 初めての時はどんな感じだったんですか?」
「えへへ~♪ 初めてのデートの時に、告白してキスしてそのまま――――」
「やーん! リーズ様ってばだいたーん!」
「なあ、ご客人たち。盛り上がっているところ悪いが、ここにはフリ坊やミーナのような子供たちもいるから、少し自重してくれないか?」
そして、男子たち以上にきわどい話題で盛り上がろうとする女子たちに、聞いてて恥ずかしくなったレスカが、子供たちがいることを理由に止めに入ったのだった。
ミニ用語解説:「星魚の月」
時期:1/29~2/25
季節カラー:青
相性の良い月:緑風の月(9/10~10/7)
相性の悪い月:水瓶の月(5/21~6/17)
「星魚」とは実在する生物ではなく、南の方角に浮かぶ「星魚座」という星座のことである。
ひときわ輝く1等星の目を持つ大きな魚の星座と、それを取り巻く7種類の魚の星座があり、船乗りたちはこの星座の見える位置関係によって現在位置を知ることができる。
そのため、この星座は古くから「船乗りを導く神魚」として神聖視され、暗い空の向こうを優雅に泳いでいる魚に航海の安全を願うことも多い。




