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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―射手の月14日― 新たな仲間、新たな目標
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 宴があった次の日の午後、村長の家に村長夫妻に、ロジオンとマリヤンの商人二人、それにミルカ、ブロス、レスカといった村の重要人物が集まっていた。

 何やら重要な話が始まりそうな物々しいメンツだったが、緊張感のある雰囲気は全くなく、

それどころかミルカが淹れたハーブティーを飲みながら、のんびり雑談を交わしていた。


「いやー、ホント……何度来てもいい所だな、ここは。やっぱりアーシェラに村を任せて正解だったな」

「何と言いますか、ここにいると心の底から安心できますねぇ」

「いやいや、そう思ってもらえるのは、今までロジオンが支えてくれたおかげでもあるからね」

「うふふ、その通りですわロジオンさん。去年の冬はこれほどのんびりはしていられませんでしたし、あなたの物資がなければ、もっと苦しい生活をしていたかもしれませんもの」


 アーシェラとミルカの言う通り、こうして村人たちが穏やかに冬を越せるのも、商人たちが安心して休んでいけるのも、村が安定するために定期的に物資を運んでくれたロジオンの存在があってこそだ。

 そのうえ今年の冬はリーズがいるし、新しく入った若い二人もいる。たとえ想定外の困難に直面しても、力強く乗り越えていけることだろう。


「えっへへ~、シェラが作った自慢の村だもんねっ! それでロジオン、なにかリーズたちに話したいことがあるんだっけ」

「ヤッハッハ! 私はこのままのんびりとお茶を飲んでいてもいいんだけど、それだったらゆりしーも呼んでいいかい?」

「ふっ、まさか村長とリーズさんを返せとは言わないよな」

「そんな無茶は言わねぇよ。…………むしろ逆だ」


 もちろん、ロジオンがこれらのメンツを集めてほしいとアーシェラに頼んだのは、単に集まってゆっくりお茶を飲みたいという理由ではない。穏やかで平和な村の空気と、ミルカが出してくれた爽やかな味のお茶についうっとりしてしまったが、彼にはどうしても話さなければならないことがあった。


(そうだとも……リーズとアーシェラは、もう二度とほかのやつらに利用させちゃならない。と、そんなこと考える俺が、一番友情を利用している気もするが…………最終的に俺の提案に伸るか反るかはこの二人しだいだ)


 ロジオンがカップのお茶を一気にのどに流し込むわずかな間に、この村に来てからの出来事が彼の脳裏を次々と色鮮やかに横切る。

 アーシェラにぴったりと寄り添うリーズの笑顔……穏やかだが、一歩外に出れば危険が広がる村で助け合う人々……夜空の下で歌い踊る宴……開拓村はぐんぐん力強く伸びる若葉のようだが、同時に巨大な悪意にいつ踏みつぶされるかもわからない危険もはらんでいるのだ。


「アーシェラ、それにリーズも、覚えているか? まだツィーテン姉貴が生きていた頃に、ものすごい数の流れ星の下……5人でお互いの夢を語り合ったことを」

「お互いの夢を……?」

「流星群の下で?」


 リーズとアーシェラはふとお互いの顔を見合わせ……同じことを考えているのか、微笑みながらゆっくり頷いた。

 流星群の夜と言えば、アーシェラとリーズがお互いの恋心を告白し、身も心もしっかり結ばれたことを思い出す。だが、ロジオンが言っているのはそのことではない。


「うん、僕もよく覚えているよ」

「リーズも忘れてないよっ! 確かリーズは顔よりおおきなハンバーグが食べたいって言ったんだっけ! えへへ、結婚した日にシェラに叶えてもらっちゃったねっ!」

「俺もエノーからその話を聞いてな……あの日の願い事をまだ叶えてもらっていない奴がいることを思い出したんだ」

「ロジオン、それってまさか…………」


 リーズたちがパーティーを組んでまだ半年くらいの頃、リーズをはじめとした初期パーティーメンバー5人で、小高い丘の上に登って夏の流星群を見たことがあった。

 その際5人は、叶えたい夢について語り合い―――――

 リーズは「顔よりも大きなハンバーグが食べたい」と臆面もなく言ってのけた。

 エノーは「世界一の騎士になりたい」と堂々と宣言した。

 ロジオンは「大魔道ボイヤールに弟子入りし、術研究をしたい」と滔々と語った。

 今は亡きツィーテンは「華々しい活躍して、華々しく散る」と言って、ほかの全員から「死んじゃダメでしょ」と突っ込みを受けた。


 そして、アーシェラが語った夢は「滅びた故郷の復興」

 ほかの4人が、良くも悪くも語った願いを何らかの形で叶えた今、残っているのはアーシェラの夢だけだった。


「前置きが長くなったが、はっきり言おう。アーシェラ、お前の力でカナケル地方を再建してみる気はないか?」


 一個人が望むには明らかに手に負えない、壮大すぎる夢…………

 だが、今のアーシェラなら不可能ではないことを、ロジオンはよく知っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] え?王として立つの?(スットボケ
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