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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―騎士の月10日― 海に続く道
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休暇 Ⅱ

「おおっと、見るからに砦っぽいのがあんじゃん。あの狐目が言ってたキャンプって、あれじゃね?」


 飛竜に乗った赤い髪の男――――ボスコーエンは、見張りで培った視力で上空からリーズたちの拠点を発見した。

 だが、さらに近づいて確認すべく望遠鏡をのぞいたところ……こちらに向かって弓を構えたフィリルの姿が見えたため、彼は大いに慌てた。


「っやっべ! 敵だと思われてんじゃん! こっから声届くか? いんや……とりあえず」


 この辺りは人が住んでいない地域だ。見慣れない飛竜が近づいてきたら警戒するのも当然だろう。

 彼は首に巻いていた風よけの布をほどいて手に取ると、いったんスピードを落としながら布を大きく振って、敵意がないことを示した。


「おーーーい! 俺は敵じゃねぇ! 撃たないでくれ!」



「ありゃりゃ、魔獣かと思ったけど、よく見たらあれ人が乗った飛竜ですねぇ」

「人が乗った飛竜? だとすると、敵ではなく郵便屋のシェマさんか?」

「うーん、うろこの色が違うので、郵便屋さんの飛竜じゃないようですけど、布を振ってこちらに叫んでいるところを見ると、今のところ敵意はないみたいです」

「あんな遠くにいるのに、よくそんなものが見えるな。ともあれ、敵意がないのであればこちらに着地を誘導しよう。ただし、警戒は続けろ」


 一方拠点の方では、視力のいいフィリルが飛んでくる何かが魔獣ではないことを視認し、ボスコーエンが必死に振る白い布も確認できた。

 いつも村に郵便を届けているシェマの緑色の鱗の飛竜と違い、青い鱗の飛竜であったが、警戒しつつも受け入れることにした。


 フリッツが手に持っている杖に、洗濯を終えたばかりの白い手ぬぐいを結び付け、こちらも一応敵意がないことを向こう側に知らせる。

 このように、白い旗ないし白い布を振るのは、戦時中に交渉の使者が非戦闘員であること示すのが一般的だが、それが転じてこのように民間でも相手に敵意がないことを示すサインとして使われているのである。



「お……白い布。弓も下げてくれたし、とりあえず安心っと。さて、船長が言ってた勇者様に会えるかな?」


 向こうが受け入れのサインを送ってくれたことで、ボスコーエンはひとまず安心して胸をなでおろした。

 彼は拠点に近づくと、あえて自分の姿を見せながら低速で旋回し、自分が敵ではないことを念を入れて示すと、レスカたちの誘導に従って飛竜を着地させたのだった。


「おいっす! 誘導あんがとさん!」

「ああ……ようこそ、と言っていいのか? いや、初めましてだな。君はシェマさんの知り合いか?」

「郵便屋の知り合いかは微妙っスけど、アーシェラさんの友達の部下ってとこっスね。開拓村の猟師さんから、勇者様がここにいると聞いたんスが……」

「そうなんだー。でも、リーズさんと村長さんはちょうど今出かけてていないよ。遠い距離飛んできたところ申し訳ないけど、しばらく待つしかないね」

「あちゃー、ちょっとタイミング悪かったぜ。じゃあ……とりあえず、こいつが飲む水をもらえるか? あと、火に当たらせてくれ、冬の空は寒くて寒くて」


 ボスコーエンはどうやらリーズとアーシェラに用があったらしいが、肝心の二人は朝から出払ってこの場にいなかった。

 なので彼は、二人を待ちながら飛竜の補給をしつつ、極寒の中を飛んで凍えてしまった自身の体を焚火で温めることにする。


「あーそうそう、俺っちはボスコーエンってんだ。うちの親分……ヴォイテク船長はアーシェラさんの友人なんだぜ」

「ヴォイテク船長…………って、たしかこの前ボイヤール師匠が言っていた、王国からリーズさんのご家族を逃がしたっていう……」

「そうそう! それそれ! それなんだよっ! 実はそのことで頼みがあって、ここまで来たんスよ!」


 係留した飛竜ががぶがぶと水を飲む横で焚火に当たるボスコーエンは、もらった温かいお茶を飲みながら、自分がこの場に来た理由を話した。


 騎士の月の初めごろにヴォイテクの船を飛び立った彼は、港町ライネルニンゲンの太守をしているミティシアに会ってヴォイテクからの手紙を渡すと、その足でさらにアロンシャムにあるロジオンの店――ザンテン商会を目指した。

 しかしながら、ロジオンとその妻サマンサは出産の為サマンサの実家に行っており、代わりにプロドロモウら中部諸国同盟のメンバーたちに会い、今度は彼らからの手紙を受け取ってはるばる開拓村まで飛んできたのである。

 その航路はあまりにも長大であり、彼は騎士の月の大半を移動に費やしたことになる。


「あと、あの狐目のレンジャーさんから、ついでにこれをもっていくようにって」

「あ、それセンパイの旦那さんですね! 新鮮な食糧まで運んできてくれるなんて、本当に助かりますっ!」

「すまないな、長距離移動してきたばかりなのに、荷運びまでさせて」

「大した事ないっスよ! あそこではコイツの餌をたくさんもらったんで!」

「そうか……やはり運び屋はあちらこちらで引っ張りだこになるな。さぞかし疲れただろうから、すぐ帰るのでなければゆっくり休んでいくといい。とはいえ、大した設備はないが」

「助かるっス。 俺っちも船乗りの端くれなんで、寝る場所さえあれば十分っス。それよりむしろ、俺っちもしばらくこの基地にいてもいいっスかね?」

「しばらくここにいたいんですか? 僕たち明日にはまた南の方に探索にいかなきゃいけないんだけど…………あ、もしやボスコーエンさんが村長さんたちに伝えたいことって、リーズさんのご家族が乗った船が、この先の港に向かっているってことではないですか!?」

「お……大当たりでさぁ! なぜそれが!?」

「なぜって、それが我々がここにいる理由、だからな」


 そう、ボスコーエンがわざわざここまで足を運んで知らせたかったのは、リーズの家族を乗せた船がそう遠くないうちにこの先の港に来るだろうということであった。


 アーシェラの読みは当たっていたのだ。


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