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二〇二  作者: 牧田紗矢乃
 

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2/7

 二階の左から三番目。挨拶回りを終えて、通路の一番奥にある「二〇三」のプレートが掲げられた部屋に入る。


 都会の人は冷たいと聞いていたが、ここの住人は例外らしい。どの部屋も人当たりの良い人ばかりで、困ったことがあれば何でも相談しなさいと親身になって語り掛けてくれさえした。

 思いがけない優しさに頬が緩むのを感じながら手元に視線を落とす。

 唯一、隣の部屋だけが不在だった。渡しそびれた隣室への手土産を玄関に置きリビングをのぞき込む。


 わずかに黴臭い空気と先に運び込まれていた荷物が私を出迎えた。

 必要最低限のものだけにしたはずなのに、部屋の大半がダンボールで埋め尽くされていた。中身を示すために書いた「服」や「本」といった文字を目で追いながら、淀んだ空気への対処を考える。

 

「あー……」


 せっかくの南向きの窓はマンションの影に塗りつぶされていた。しかも、建物は目と鼻の先だ。窓こそ近くにないが良い気はしなかった。早急にカーテンを買い求める必要があるだろう。


 下見を怠った自分が悪いんだ。

 手遅れな後悔をしながら、日当たりの悪い窓を開ける。温んだ空気がどろりと流れ込んできて顔をしかめた。

 これでは換気も何もあったものではない。


「ん……ま、仕方ないか」


 このくらいのワケあり物件でない限り、敷金なしとはいかないのだろう。どうせ寝食くらいにしか使うあてもないのだ。風通しの悪さには目を瞑ることにした。

 何より、ここが瑕疵かし物件――俗に言う事故物件――でないことは不動産屋に念を押して確かめてある。


 私自身、心霊現象を気にする方ではない。恐怖映像を夜中に一人で見ていても平気だし、むしろ未知の世界に惹きつけられるような心地がある。

 それでも。いざ暮らすとなってみれば、不安要素が少ないに越したことはなかった。


 どの箱から手を付けるべきか、と視線を巡らせていると、左奥に扉があるのが目に入った。

 荷物の山に隠れてよく見えないが、このリビングの奥にはもう一つ洋間があるはずだと思いだす。その部屋にはベランダがあるのではなかったか。

 活路を見出みいだした気持ちになって窓際を離れる。

 ダンボールの山を掻き分け、洋間へ続く引き戸に手を掛けた。


 部屋を覗いた私の目に真っ先に飛び込んできたのは真新しいベッドだった。

 なるほど、新しく買い替えたベッドはここへ運び入れてもらう手筈になっていた。家具店で選んだ時には小さく見えたが、それでも部屋の半分近くを占めている。


 南側の窓は相変わらずマンションの壁面に隣接しているが、ベランダはベランダは遮るものがない東側にあるので朝日くらいなら拝めそうだ。

 部屋の確認がてら寝る支度だけでも整えておこうか。

 思考を巡らせながらシーツや枕を入れたダンボールを探す。


 箱の山を漁っていると、ドンと壁を叩く音がした。

 夢中になるあまり隣室の迷惑になっていたらしい。


「すみません」


 聞こえるはずがないと知っていながら小声で謝罪した。

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