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短編集

太陽の消えた国

作者: 霧星 蒼

どうして日が昇らないの?幼い頃、わたしは聞いた。ぴたりと父の服のほつろいを直していた母は、糸のついた針を引っ張たまま、手を止めた。


童話や絵本の話の外は、いつも明るかった。空には丸い、大きなオレンジ色、赤、さまざまな色で塗られたものが、お話の中を明るく照らしていた。それは、太陽だと、知った。不思議だった。だから、聞いた。ただ、興味本位で聞いただけなのだ。窓から見える外が薄暗い。わたしは唇を噛み締めた。


ぱちぱちと焚き火の音が、凍えそうな位寒い部屋に響いている。薄暗い部屋の中で、母の持つ針が、布を通したのが、おぼろげな暖炉の光の中で見えた。


「神様が隠しちまったんだよ。」


その時のその母の言葉を、まだ何も知らなかった幼いわたしは、その与えられた言葉を素直に信じていた。だけど、わたしは、段々と大人に近付くにつれて、気付いた。


このままだと、一生、死ぬまで、太陽を見ることは叶わないのだと。いや、幼い頃だって、分かってはいたのだ。太陽だけじゃない。美味しそうな、宝石みたいな赤色や紫や黄色の食べ物。キラキラ光る金色のシロップ。真っ白なミルク。青々とした草原。あんなに生き生きとしていた童話やお話の世界とは違う。お話の世界は鮮やかだった。


わたしは本を読みふけった。旅をしている気分だった。夢のような気分。本当に体験しているような、そんな気分。美味しくて新鮮な食べ物、青々と茂った草っ原。真っ青で、一杯に広がる青空には、綿あめのような雲が浮いていた。そして、何より、生き生きとしていた。


あまりにも現実は違いすぎた。しなびた硬いパンに据えたミルク。いつも薄暗くて、植物1つ生えていない灰色の世界。暗い顔をした人たち。笑った顔なんて見たことない。美味しくない。楽しくない。



わたしは考えた。何年も何年も、来る日も来る日も考えた。あの時母が言った、言葉の意味を。考えていることがばれてしまえば怒られてしまうような気がして、あれ以来母には聞けなかった。だから、考えた。


"神様が隠しちまったんだよ。"その言葉の意味を。


神様なんていない。いたらこんなことあるわけがない。これをやったのは神様じゃない。あの頃、母は、わたしに言葉を濁したんだろう。神様……そう言葉に表されるくらい、絶対的な何か。それがこの世界から太陽を消した。



わたしは必死で、探した。おぼろげなそれを倒すための何かを。そして、魔王と戦う勇者の話を見つけた。勇者は戦っていた。大きな大きな悪と。それは、わたしに与えられた希望だった。わたしは必死で、棒を振り回した。こっそりと、近所に住むお爺さんに、教えてもらった。泥だらけになって帰ってくるわたしを見て、母は気付いていたと思う。だけど、母は何も言わなかった。



ある時、おさげ頭の女の子が、後をついてくるようになった。向かい側の家に住む子。わたしがどんなに追い払ってもいつの間にか隣にいた。話す言葉は少ない。けれど、いつの間にか、おさげの女の子がいることが当たり前になっていた。控えめな笑みを浮かべて、わたしが、近所に住むお爺さんに剣術を教わっているのを、膝を抱えて見ていた。だけど気付けば、おさげの女の子は、明るい茶色の髪を靡かせながら、弓を射っていた。



近所のお爺さんの家の近くに住む、眼鏡をかけた青い髪の男の子は、近所のお爺さんの家の近くにある、幹が地面につきそうなくらい垂れ下がってカラカラに干からびた、大きな枯れ木の下で、いつも本を読んでいた。その男の子は、いつも、難しそうな題名の分厚い本を読みあさっていた。男の子は言っていた。いつかこんな世界から抜け出してやると。男の子は、わたしとおさげの女の子が練習しているのを涼しげに、ときおり鼻で笑いながら、本を読んでいた。腹が立ったけど、怒れば青い髪の男の子に流されて、相手にもされなかった。



月に一回、偉い人が、わざわざ家のまで来て、なけなしのお金を取っていく。母とわたしで一生懸命稼いだお金のほとんどを持っていかれる。わたしの家のお金は、また、すっからかんになった。わたしは、隣りあわせになっている家を、ふてくされながら、窓から眺めた。


近所の赤毛の男の子の母親が、顔をくしゃくしゃにして、必死に何かを頼み込んでいた。近所の赤毛の男の子のその人にすがりついた。その人は、顔を大きくしかめた。真っ赤な紅い飛沫が飛んだ。どしゃりと、灰色の土に沈み込む音が響いた。


わたしはぱっとしゃがみこむと、腕を抱え、ぶるぶると小さく震えていた。窓の外では、男の子が、大きな声で泣きじゃくっていた。動かない母親のそばで立ちつくんで。その時の声が、いやに耳に残っている。



男の子はしばらく家から出てこなかったが、一カ月したら、近所のお爺さんのところで、一緒に棒を振っていた。



薄暗いこの世界にも、時は流れる。灰色の日々が、積み重なっていく。


大人に近づくにつれて、分かった。神様の正体が。何故日が出ないのかが。ある日わたしは母に聞いた。神様の正体を。母は語ってくれた。およそ30年前……母が15歳の時に、この世界から太陽は消えたと。弱々しくやせ細った母は、小さく咳き込みながら、震える声で言った。もう一度、太陽が見たいと。



そして、2年経ち、15歳になった日。わたしは決意した。


神様……国王を倒すと。国王を倒し、ここに、太陽を照らさせてみせると。



青い髪の男の子は、銀色の眼鏡を押し上げて、君は馬鹿だと言った。おさげの女の子は、困った顔で笑った。赤毛の男の子は、明るく笑いながら力強く頷いて、行こうと言った。


青い髪の男の子は、呆れながら、地図を出した。歴史書を読んで、道を調べた、そう言って、1つの場所を指した。男の子は言った。


元凶は国王と、その側近だ。その2人さえなんとかできれば、あとは崩壊すると。キンジョ近所のお爺さんに、長剣をもらい、おさげの女の子は弓をもらった。赤毛の男の子も、長剣をもらった。そしてわたし達は、15年間住み続けた、灰色の村を出た。母は止めなかった。



道のりは厳しかった。歩いたことのない道。枯れ果てた枯れ木の林。ずぶずぶと沈む沼。そして何より、毎日の食事が厳しかった。干からびたパンを、必死で食いつないだ。皆んなで励ましあって、道を進んだ。1人だったら、辿り着けなかっただろう。



そして、辿り着いたのだ。神様……国王のいる場所へと。国王、国王の側近は、他とは違うところに住んでいた。その為、警備も薄く、すぐに抜けられた。簡単にいけるかもしれない。そう思ったのが間違えだった。いつの間にか、眼鏡の男の子は、国王の側近に手足を封じられていた。



国王の側近は、眼鏡の男の子の首筋にもう片方の手でナイフを突きつけ、降参しろと言った。眼鏡の男の子は、唯一動く首を、自ら勢いよく動かした。その目は、後を頼んだと言っているようだった。


眼鏡の男の子の首筋から、紅い飛沫が吹き出した。ぐらりと体が傾いた。どしゃりと、眼鏡の男の子は、床に崩れ落ちた。みるみると紅い水溜りが広がっていく。


怒りで目の前が染まりそうだ。だが、眼鏡の男の子の目を思い出せば、それは冷静なものへと変わった。後を頼んだと言うような目。決して諦めたものではなかった。わたしが怒りに振り回されて、台無しにしてはいけない。



わたしは深呼吸をして、国王の側近を見据えると、一瞬で国王の側近の首を飛ばした。そしてすぐさま国王へと飛び掛った。国王はぴくりとも動かない。わたしは、国王の首に長剣を突き付けながら、尋ねた。どうして太陽を消したのかと。国王は答えた。お前たち下賤な奴等に、太陽を見せるなど、太陽が穢れる。そもそも、無礼なことをするな。その国王の言葉を、最後まで聞くことはなかった。あっけなく国王の首は転がった。元凶を潰した。けれど、胸は晴れなかった。



青い髪の男の子は、死んだ。もう、いない。眼鏡を上げながら、嫌味を言ってくることもない。なんだか酷く、寂しかった。胸が痛かった。



国王が死んだことで、空がゆっくりと色づいてきた。そして、今まで見たこともない、光が、包んできた。青い髪の男の子を背負い、わたしとおさげの女の子とと赤毛の男の子は、灰色だった村へと帰った。



眩しい光に照らされている、村。それは、初めて見る、明るい村だった。村の人達は、わたし達へと駆け寄ってきた。皆涙を流していた。赤毛の男の子は、寂しげに言った。今、あいつがいるなら、なんていうかなと。わたしは眉を下げて言った。


きっと呆れた顔をしながら、喜んでいるんだろうねと。



上を見上げれば、空が眩しかった。暑かった。太陽が、村を照らしている。それは、わたしの憧れてた、太陽の光で包まれていた。


あれから、後に、青い髪の眼鏡の男の子は、国王の血縁だったという事を知った。確かに思い返してみれば、あまりにも知りすぎていた。その時のわたしは、その子だから物知りなんだと思って、そこから深くは考えていなかった。


どうしてわたし達に手を貸してくれたのだろう。どうしてわたし達の村にいたのだろう。悩むことだってあったと思う。1人で抱え込んでいたんだろう。なぜわたし達には相談してくれなかったのだろう。それほどわたし達は頼りなかったのかと問い詰めたい。気になることだってたくさんある。話したいことだってたくさんある。でも、どんなに聞きたくても、話したくても、もういない。真相は一生、闇に包まれてしまった。


ずっと夢見ていた太陽があった。だけど、心は晴れない。村に太陽が現れたけれど、わたしの心は、曇ったままだ。絵本や童話、お話に出てくる太陽よりも、実物はもっと眩しかった。目が痛い。


わたしは、おもむろに目の上のところまで手を上げると、太陽の光を遮った。目の痛みが和らぐ。わたしは心の中で、青い髪の眼鏡の少年に呟いた。


ありがとう、ごめんね。








太陽の光が、消えた。



ーfinー

久しぶりに書きました。前から構想は練っていたのですが、書くまでに至らず……。何ヶ月経ったのやら……。


毎度のことながら、短くてすみません。あまり細かく話を入れないで、省くところは思いっきり省きました。説明足りないところも多々あり、よく分からないところもあると思います。ぼんやりとした感じで書きたかったのでこうなりました。


読んでくださりありがとうございました。

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