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第五話 グループ交際


 それは、アジトを出て四日目の晩。

 野宿をしていた時の事だった。


 五人しかいないので、斥候が一人と見張りが一人。

 あとの三人は寝ているというローテーション。


 で、俺が斥候のために辺りをうろついていた、その時だった。


「セレーネさん! あの……俺っ!」

「ごめんなさい!」


 森の奥からアルベロアとセレーネの声が聞こえた。

 寝ているはずの奴らだ。

 いったい何をどうしてこんなところにいるのか知らんが……。


 咄嗟に木の陰に身を隠す。


 何だろう。


 うん、いや。

 何だろうじゃないな。

 これ、あれだわ。


 いわゆる告白シーンってやつだ。


 アルベロアは地面に『の』の字を書きながら項垂れている。

 それを見るセレーネは何とも居心地悪そうな感じだ。


 告白シーンのくせに、告白する前に玉砕しやがった。

 なんてことだ。

 せめてちゃんと言わせてやれよ。

 セレーネって意外とドSだな。


「…………」

「えっと……今、私はそういう事考えられないんだ。

 だから」

「違いますよね? 知ってますよ? 本人以外、みんな」

「えっ」

「正直バレバレっすよ」


 セレーネが顔を真っ赤にしながら頬に両手をあてる。


 え、マジで?

 セレーネって好きな人いるの?

 しかもこの感じだとアジトにいる誰かだろうか。


 誰だ。

 ガンラートぐらいしか考えられない。

 まさかエンって事はないだろうし。

 他の盗賊たちにチャンスがあるとは思えないし。


「うわぁ……お頭、最低」


 背後からの声に思わずビクッと身体が揺れる。

 振り返るとフランがいた。

 お前……さっきは確かにテントに入ったの確認したぞ。


「不可抗力だよ」

「そうかもしれないですけどー、ほら、これ以上聞いちゃダメです。

 行きますよ」

「え、ちょっ」


 ぶっちゃけもうちょっと見ていたいんだが。

 セレーネが惚れる相手ってのが凄く気になる。

 このまま見てれば流れ的に話題に出そう。


 だが、そんな俺の出歯亀な願いは叶えられず。

 フランに引きずられながら、俺はその場を後にした。


 キャンプ地に戻ったら、トーマスが呆れながら俺たちを見る。


「えぇぇ……何その状況……まさかボスに見られたとか?」

「そうよ。あたしが行った時には、木陰からこっそり見てた」

「うわ。うわぁ……」


 何となく、二人からゴミを見るような目で見下されている気がする。

 バカ野郎が、それならそうと先に言っておけよ。

 この感じだと、どうせお前らはアルベロアから聞いてたんだろ。


 どうして俺ばかりが悪者なのだろう。

 納得いかない。


「で?」

「わかってた事だけど、玉砕」

「だろうな」

「ねぇ、二人とも全部わかってますって体で話進めるのやめてくれない?」


 俺は全く何一つ知らないんだから。


「いや、この件に関してはボスが悪役じゃないっすか。

 しゃあないっすよ」

「俺が何をしたっていうんだ。

 そりゃね、見ちゃいけない場面に遭遇しちゃったけどね?

 たまたま、偶然だよ?」

「……お頭、つかぬ事を聞きますけどー。

 セレーネさんの好きな人が誰か、わかってますよね?」

「わかってないけど」


 空気が死んだ。

 なぜだ。


 最近、どいつもこいつも、事あるごとに俺を悪者にしやがる。

 何なんだよ、これでも勇者らしいぞ。

 俺の世界では勇者って言ったら正義の味方だぞ。


 部下の手前、こんな針の筵になる必要はないはずだ!


「……」

「ボス。爆発して下さい」

「え? やだよ。何で?」

「ははは、許すまじ」

「まぁお頭はー、ハルカさんにベタ惚れだからね。

 仕方ないわよ。

 恋は盲目って言うでしょー?」


 そう言われると色々と反論したくなるんだが……。

 多分間違っていないから何も言えない。


 誠に遺憾であり甚だしい事だが、俺が遥に惚れてるのは否定できない。

 どうしてあいつなんだ? と聞かれたら、俺だってどうしてあいつなんだ? と聞き返したいところではあるが。


「ねぇ、二人ともセレーネの好きな人、知ってるんでしょ?」

「知ってるけど教えません」

「ボスにだけは言いたくありません」

「どうして?」

「「どうしても!」」


 見事なシンクロだ。

 こいつらが付き合えばいい。

 俺は祝福するぞ。


 そういや、盗賊団内で付き合ってる奴らはいるんだろうか。

 今まで気にしたことも無かったが、実は密かに……なんてあっても全然おかしくない。


 人間は、半径1mで恋をすると言ったのは誰だったか。


 集団生活の、狭い世界の中で。

 愛ぐらい芽生えていたって不思議じゃないよな。


 聞いてみたいが……この様子だと教えてくれなさそう。

 今度、それとなく気を向けてみよう。


 いきなり「子供ができました! 結婚します!」とか言われても困るしな。

 ご祝儀とかいくら渡すのが慣習なんだろう?

 いや、むしろ会費制か? それとも式をあげないのが通例か?


 ユーストフィアの常識には疎い。

 抱えていくと決めた以上、学ぶ必要があるな。


「ちなみに、二人は付き合ってないの?」

「「え……こいつと? ないですわー」」


 再び、息の合った完璧なハーモニーを見せつけてくるトーマスとフラン。

 むしろ何で付き合ってないの? と言いたくなるレベルだった。



---



 翌日以降の旅は何とも酷いものだった。


 アルベロアは死んだ目で馬車を引いていた。

 時々こっそりと泣いていたが、こんな狭い空間ではだいたいバレバレである。


 片やセレーネは、チラチラと俺を見つつも、目が合うとすぐに逸らされた。

 こんな露骨な態度をされるとウザイんだが……。

 何なの? かまってちゃんなの?


 トーマスとフランは、そんな様子に溜息をつくばかり。

 ついでに、何かにつけてチクチクと俺をつついてくる。

 うぜぇ。久しぶりに四肢切断してやろうか。


 ――日本だろうと異世界だろうと、誰かが誰かに恋をする。


 そしてやがては子供を作り、歴史が紡がれていく。

 なんて言うとカッコいい。


 恋は下半身でするもの、という偉い人のお言葉は本当に凄い言葉だと思う。

 人間のどうしようもない本能を的確に表した言葉だ。

 かくいう俺にだって性欲はあるわけで、できれば童貞は卒業してから死にたい。


 そうすると俺は遥とヤリたいと思っているのかという問題になる。

 包み隠さずオブラートに言えばヤリたいです。


 が、かといって遥に女としての魅力とか色気とか感じるか? って言われたら。

 答えはノー。あいつには欠片もないと思う。

 まだセレーネ(町娘形態)の方がマシまである。


 じゃあ俺のこの気持ちは恋ではなく愛なのだろうか。

 上半身が育んだ想いなのだろうか……童貞なのに。


 そういえば。


「ねぇ、ユーストフィアってみんな何歳ぐらいで結婚するの?」

「俺たち庶民はテキトーっすよ。

 でも偉い人たちは早いみたいっすね」

「そうだねぇ……例えば、あの兄なんかは14歳の時に結婚したよ」


 セレーネがなんでもない事のように爆弾発言を放った。

 え? お前の兄ってカリウスだろ?

 カリウスって結婚してたの?


 信じられない……と思うが、金も地位も権力もあっておまけに顔も悪くない。

 しかも絶対に跡継ぎを残さなければならない血統だ。


 むしろ、結婚していることが当然と思える。

 あの年齢なら、ではあるが。

 14歳とか早すぎだろ……俺がまだエロ本買うの躊躇ってた時期だぞ。


 中学生男子といえばエロい事に興味津々なお年頃。

 罰ゲームでほぼ確実にエロ本を買わされるレベルだ。

 そしてみんなで読むのである。


 今にしてみれば何が楽しかったんだと思わなくもないが、世界で一番バカと言われる年代だから仕方ないね。


「カリウス様と言えば、子供がいたわよね。

 最近聞かないけど、何してるのー?」

「えーっと……」


 しかも子供までいるらしい。

 なんという勝ち組……爆散すればいいのに。


「何歳なの?」

「最後に会った時は盛大に10歳を祝ったよ」


 兄より甥の方が歳が近いとか、異世界って凄い。

 カリウスの推定年齢を鑑みると、今はエンと同い年ぐらいだろうか。


「……片や初代勇者の血を引くスーパーサラブレッド、片や魔物に襲われて幼くして命を落としたシスコン。どこの世界も、世の中不公平だな」

「どうしようもない事っすよ……はぁ……世界なんて滅べばいいのに」


 御車台から、そんなアルベロアの嘆きが聞こえた。

 口をきいたかと思うとネガティブな話題にネガティブな声でネガティブな事を言う。

 当事者であるセレーネに何とかしてほしいところだが、残念ながら彼女は知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりか、苦笑しながら黙ったままだ。


 俺は傷心の部下を癒す術など知らない。

 頑張って自力で立ち直ってもらおう。

 大丈夫、女なんて星の数ほどいるんだから。


 何だったら晩酌ぐらいは付き合ってやってもいい。

 吐き出す事で楽になるとか、以前誰かが言っていた。

 あるいは色街に繰り出す事だろうか。

 それなら是非とも付き合って……いや、でも……。


 はぁ、しかし。子供ねぇ。

 二十歳になっても、結婚とか子供とか全く想像できないけどな。

 日本の若者は遅れてるのだろうか。


 カリウスの子供なんて、世界に誇れる最低に最悪な糞ガキなんだろうなと思いながら、木枯らしが香り始めた窓の向こうに視線を送る。

 食欲の秋、読書の秋、そして失恋の秋、ってか。


ソロモンよ、私は(出張から)帰ってきた!


……え?

来週も出張ですか?

ア、ハイ……

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