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第四話 持つべきものは


「現れる魔物は全部俺が一人で倒すから」


 試したい事がったので、旅に出た際にそう言った。

 その結果。


「お頭ー! お頭お頭おっかしらー!」

「はいはいはい」


 軽快なリズムで絶叫するという器用な事をするフランの掛け声に呼ばれて、俺は馬車を飛び出す。

 するといるわいるわ、魔物ども。


 ユーストフィアは、だいたいどこにだって魔物がいる。

 奴らは動物の亜種のようなもので、残忍かつ狂暴であり、出会ったら問答無用で殺していいことになっている。


 で、それを捌いたり焼いたり干したりして食料とするのだ。


 そのおかげか知らんが、少なくともシャルマーニは飢饉とか餓死とか、そういうのがない。ポルタニアはポルタしか行っていないからよくわからないが、日本食なんてものを出せるほどなんだから、そこそこなのだろう。


 俺たちが泊まった料亭では一般家庭で見るような日本食ばかりだったが、探せばガチガチの高級料理もあるらしい。多分、京都の高級料亭で出るようなものだろう。食べたことないけど、俺のイメージ通りだとしたら別に食べたくない。


 若干話題が逸れたが、そういうわけなので、殺した魔物をどこぞの町村にもっていけば金になる。


 なるのだが、最近の活性化はそういう次元を通り越していた。


「『風魔法・風陣! 旋風! 竜巻!』」


 とりあえず、視界に移るすべての魔物を魔法でやっつける。

 一応、それなりの威力があるので、倒せなくはない。

 無論、斬り付けた方が早いが。


 ならばなぜ、わざわざ魔法なんか使っているのかというと。


 得意じゃないからって放置しているのはどうかと思ったのが、ひとつ。


 以前、レヴィアタンの魔力や呪力を利用することで、終焉魔法を使うことができた。

 あれは規格外の威力を持つものだったが、残念ながら自由に発動できるものでもない。

 もう一度やったら俺も魔王堕ちしそうだし、まずエンが許してくれない。


 ちなみにアレ以降、俺は何となく周囲の呪力の存在を感じ取れるようになっていた。

 以前、魔力を視認できるようになった時と似たようなものかもしれない。

 だから呪力を強く感じるような場所を通った際は、あぁ多分この辺は日本でいう心霊スポットみたいなもんなんだろうなと思っている。


 また話が逸れたが。


 そこで、ふたつ目の理由だ。

 ほぼひとつ目とイコールのような関係にあるが、呪力を自由に扱いたい。


 ずっとそう思っていたのだが、先日コルニュートと話してひとつの光明を見た。

 神力とやらを扱えれば、呪力をコントロールできるらしい。


 神力。

 神の力である。


 また大層な名を付けたなと思わなくもないが、勇者、神獣、あとは権力者だったか。

 そんな限定的な奴が用いることができるらしい、特別な力。

 誰かからの信頼というか信仰心というか、そういうものをベースにしているらしい。


 例えば、勇者や権力者は人間からのそれだろう。

 で、神獣は魔物からのそれと、多分人間からのものもある。

 ポルタニアのように、神獣信仰がある国は他にもありそうだからな。

 動植物についてはよくわからんが……人間に懐く動物もいるから、もしかしたら関係あるかもな。


 ……そう考えてみると、シャルマーニでは教会の上層部も使えそうだ。

 セレーネなんか聖女として崇められているんだし、いけるんじゃないか?

 でも、あいつは何にも言っていなかったな。


 もしかしたら知らないのかもしれない。

 今まで結構な数の文献を漁ったが、一言も神力について解説している本はなかった。

 恐らくトップシークレット、秘密の中の秘密。


 そりゃそうだよな。

 呪力を操れる力があるなんて知れたら、もっと世の中はぐちゃぐちゃになっている事だろう。


 例えば、件のリックローブ家。


 彼らもシャルマーニでは有数の権力者であり、ミドルドーナ、ギルドでの信頼も厚く、神力を使えたって驚きはしない。ただでさえバカみたいな強さを持つあの家がそんな力を得たら、もう収拾がつかないだろう。


 というわけで、ユーストフィアではほぼ認識されていない力だと考えて間違いないだろう。


 眉唾なんじゃないかとか、あのチャラい賢者の言うことを本当に信用していいかという疑問はあるが、俺は神力が実際に存在すると思っている。


 なぜか。


 恐らく、俺は神力をこの目で見ているからだ。

 『夢の世界』で、遥は光の翼を背負って先代魔王を倒していた。

 あれは比喩でも何でもない。

 その輝きは、確かに俺が知るエネルギーとは別次元の濃度を持っていた。


 多分、あれが神力だ。


 もうひとつ、俺自身が使ったからだ。

 ガンラートを倒す最後の瞬間、俺は確かに魔力でも呪力でもない、不思議な力の存在を感じた。

 確信があった。あの瞬間、あいつの呪力を破れるとそう思えた。


 人の限界を超えた身体能力のベースとなっているその力は、きっと具現化することができる。


 というわけで、似たような感触がある魔法を多用することで、もう一度神力にお目にかかりたいと思っているのだが。


「うーん……」

「お頭、倒した魔物に座って考え事するのやめて下さい。

 怖いです」


 どうも、あの日あの時あの瞬間の感覚が戻ってこない。


 何がいけないのかわからない。

 結局風魔法はいつもの風魔法だし、試しに同じ状況を作ろうと魔法剣を使ってみても、やっぱりいつもの魔法剣だった。


 神の力と呼ばれるだけあって、そう簡単には扱えないのだろうか。

 それとも何かが足りないのか。


「お頭ー! 聞いてますかー!」

「ダメだよフラン、考え事モードに入っちゃったユタカ様は人の話聞かないよ」

「時々ありますよね」

「たいていはハルカさんの事を考えてるんだろうけどな」


 何となく脇がうるさい。


 しかし、足りないとしたら何が足りないのだろうか。


 覚悟か?

 危機感か?

 敵の強さか?


 残念ながら、この辺で雑魚狩りをしていたところでそれは得られそうもない。

 もはや作業だからな。昔のレベル上げを思い出す。


 俺はレベル上げが嫌いだった。

 単調で単純な、まさに作業だからだ。

 早くストーリーを進めたいと思ったものだが、レベルが低いままだとボスに勝てなかったので、仕方なく嫌々ながらもレベル上げをしたものだ。


 だから、趣向を変えようと仲間を全員解散して一人でレベル上げをしたりしてた。

 だが悲しいかな、昔のゲームは麻痺や石化で即死だったのだ。

 パーティメンバーが誰もいないと、主人公がそんな感じの状態異常にかかった瞬間にゲームオーバーである。


 そんな昔のゲームの常識を、この世界、異世界に置き換えてみると。

 なるほど、確かに麻痺や石化は即死と言えるだろう。


 今はセレーネやフラン、トーマスにアルベロアがいるから、俺が状態異常にやられようと何とでもなると思うが、これが一人旅だったらマジで危ない。下手するとミドルドーナまで辿り着けない。


 やっぱり、持つべきものは仲間である。


 だいたい、俺がやっていた勇者魔王ゲーの元祖ともいえるあの大作RPGだって、ナンバリングの初代はともかく、基本的には仲間がいたものだ。


 人は一人では生きていけない。

 日本でさえそうなのだから、日本より生きるのが辛そうなユーストフィアは尚更だ。

 だからやっぱり、俺には仲間が必要なんだ。


 仲間とは。


 仲間は、きっと利用し利用されるだけの存在ではない。

 かといって家族や、友達、恋人ともちょっと違うだろう。

 あえて言えば部活のようなものだろうか?


 わからないが、今の俺はアジトの奴らを仲間だと思っている。

 いや、まだ『思おうとしている』って段階なのかもしれないが……。


 生きているんだ、この世界で。

 生きていくんだ、この世界で。


 万が一、日本に帰れなかったとしても。

 もう二度と後悔しないような生き方をするために、俺は仲間と一緒に生きていこうと、今ならそう、思える気がした。


すいません、明日から出張なので

次の更新は週末になると思います

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