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第十二話 賢者はやりすぎ


 森の中心には、広々とした空間があった。

 草花が生い茂る、まるでお伽噺のような空間だった。

 エルフとか妖精とか出てきそう。


 馬車を降りると、少しだけ足元が湿っているのが伺えた。

 どこかに水源があるのかもしれない。

 ここ最近で、雨が降った覚えはないからな。


 そして、空間の中心に小屋が建っていた。

 小屋の周囲を、動物たちが忙しなく走り回っている。


 神秘的な光景だな。


「……ここ?」

「ここです」


 どうやらあの小屋が賢者の住居のようだった。


 いかにして生活していたのだろう。

 あれだけ動物が平和そうに戯れているって事は、あれを食っていたわけではないのだろう。

 魔物を捌いて食材としていたのだろうか。


 賢者の生態は全くわからん。


「じゃあ、行こうか。

 準備はいい?」

「いつでも」


 誰が返答したのか、さくさくと俺たちは大地を踏みしめて歩いて行く。


 ――と。

 手前10mぐらいのところで、セレーネの小さな悲鳴が聞こえた。


「きゃあ!」


 振り返ると、どうやら尻もちをついているようだ。

 痛そうにさすりながら、唖然と俺を見上げている。


 何やってんだ。


「なんか……ここから先に進めない」

「あたしも、そうみたいね」

「おれも」


 何も無い空間を、壁に触るような感じで手を掲げる。

 セレーネとカシス、そしてエン。


 そういや……俺以外に会うつもりはないとか言ってたっけ。

 多分見えない結界が施されているのだろう。

 面倒な仕掛けを残してくれたようだが、あいつは多分人の話を聞くタイプの奴じゃない。


 仕方ないな。


「俺一人で行くから、馬車で待ってて」

「いやお頭。俺も行きますよ」

「……あれ? ガンラートは結界を通れるの?」

「まぁ、俺は会った事がありますからね」


 そういやそうだっけ。

 来訪を許可されているとか?


 賢者の趣味はさっぱりわからん。


「ならいいや。

 というわけで、君たちは待機」

「わかったよ」

「ちぇー」


 文句もあるだろうが、それはあの白髪のコミュ障に言ってくれ。


 そんな感じで、俺たちは三人を放置して歩を進める。

 突然の来訪者に、動物たちは逃げるでもなく、なんか擦り寄ってきた。


 歩き辛い。

 無視して行こうとしても、足に纏わりついてくるのだ。

 ウサギとか、鳥とか、犬とか。


 随分人間に慣れた動物たちである。


 一分くらい相手をしてやると、どうも満足したらしい。

 俺たちを小屋へと誘うように道を開けた。


 もしかしたら門番代わりだったりしてな。


 さて、そんな感じで小屋の前に立つ。

 背後からあいつらの視線を感じる。

 多分、馬車から様子をうかがっているのだろう。


 そして、俺は絡み付いている蔦をはぎ取り。

 木製の扉を開けた。


 扉の向こうには、森があった。


 ……あれ。


 振り向くと相変わらず木製の扉があった。

 数秒置いて、ガンラートも中に入ってくる。


 賢者の家であるはずの小屋。


 そう。

 小屋の中には、また森があったのだ。

 試しに小屋の中の小屋の扉を開くと、さらに向こう側に小屋が見えた。


 無限ループって怖くね?


「ようこそ、今代の勇者君。

 わたしの家はどうだい?」


 ふわりと、そいつは突然現れた。

 賢者コルニュートである。


「どうもこうもないよ。

 何これ、魔法でループしてるの?

 それとも結界の亜種?」

「ふふふ、どちらも間違ってはいない。

 概ね理解してもらえたようで何よりさ。

 ハルカに説明するのは苦労したな~」


 あいつと比べられてもな。

 

 特段俺の頭が良いとは思わないが、遥はちょっとアレだからな。

 猪突猛進とかそういう表現がよく似合う。


「そして、……」

「よぉ、コルニュート」

「あぁ……本当に久しぶりだなぁ。

 君がユタカ君と一緒にいると気付いた時は笑ってしまったよ。

 こうしてまた会えるなんて夢にも思ってなかった。

 元気にしていたかい?」

「相変わらずいい皮肉じゃねぇか」

「違いない」


 そう言いあって、二人は笑い合う。

 良い笑顔だ。嬉々として悪だくみをしていそうな。


 言っていた通り、ガンラートと賢者は既知のようだ。

 しかも随分と気さくである。

 生まれ故郷の神獣とこんなにフレンドリーだなんて、ガンラートはどんな人間だったんだろう。


 まぁ、それは後回しだ。

 本当に色々と聞きたい事があるが……。


「じゃあ早速、宝珠をもらおうかな」

「無論、構わないさ。

 でも残念ながら今は手元にない」

「おい」

「大丈夫だ、この結界内にはあるから。

 ……そんな顔してもわたしは殺せないぞ。

 死の概念はないと言っただろう」


 そんな顔ってどんな顔だ。

 俺はいつの間にか手をかけていた聖剣の柄を叩いて、息を吐く。


 こういう、自由に喋る感じのキャラは一人で間に合っている。


「じゃあどうすりゃいいわけ?」

「そうだな、ユタカ君。

 まずは寝てくれるかい?」


 ……この草っぱらの上で?

 俺は日本生まれ日本育ちだから、出来れば地べたで寝たくはないんだが。

 せめて馬車に戻りたい。


 それか、馬車から野宿セットを持ってきたい。

 必要なものはそろっているからな。

 いわゆるお泊りセットである。


「ハルカはいつでもどこでも寝ていたけど」

「あいつは野性児だから」

「……あの子の扱いは、どこの世界でも変わらないようだね~」

「お頭の口が悪いだけだ」

「何か言った?」

「何も言ってないっすよ」


 そうかい。


 まぁ、わがまま言っても仕方ないので、俺は草花の上に倒れ込んだ。

 突然寝ろと言われても困るんだが……。


 と思っていたのだが、目を瞑ると、甘い香りが周囲に漂っている事に気付いた。

 それが俺をリラックスさせ、眠りへと誘う。


 睡眠促進系の薬草でも焚いているのかもしれない。

 あるいは、賢者の領域特有の魔法がかけられているのかもしれない。

 わからないが、とにかく次第に意識が落ちていく……。


「では、懐かしい世界への旅路へ。

 行っておいで」


 最後にそんな、コルニュートの声が聞こえた気がした。



---



 ヒュー、ドンッ、と。

 お決まりの爆音が響く。


 見上げると、炎の華が夜空を覆っている。


「見た? 見た!?

 いやー今年はなかなかだったね!

 去年より凄いんじゃない?」


 遥はそんな花火を見て騒いでいた。

 毎年恒例だ。

 お前、去年も同じ事言っていたからな。


 以前、黄色ベースの浴衣は子供っぽいから嫌だ、と駄々をこねていたが。

 着てみたら似合っているし、既にそんな事忘れ去っているようだった。


 惜しむらくは、束ねるほど髪が長くない事か。

 肩にかかる程度のその長さでは、周りの女子高生のように纏める事は出来ない。

 あれなんていう髪形なんだろう? ポニーテールとは違うよな?


「高校最後の夏かー」

「やめて。思い出させないで。

 私は永遠のティーンズ!」

「じゃあ俺は一足先に大人になるから。

 安心しろ、学年が違っても敬語使わなくていいぞ」

「いやだ!」


 高校最後の夏休み、俺と遥は花火大会を見に来ていた。

 受験生の夏なんて勉強に明け暮れるもので、友人たちは今日も予備校に通っているはずだ。


 俺も当然の如くそうしようと準備をしていたら、浴衣を着た遥が襲撃してきて。

 あれよあれよと連れ出されて、今に至るというところだ。


 何やってんだろう。


「お前、落ちたらどうするつもりなわけ?」

「豊に養ってもらう」

「……あのな……大学生に生活能力なんてあるわけないだろ。

 知らねぇぞ、本当に」

「大丈夫だって! 受かるからっ!」


 どこからその根拠のない自信が溢れて来るんだろう。

 解せない。

 模試の成績を見て言っているのだろうか。

 だとしたら尚更解せない。


 花火も終わり、店をたたみかけていた屋台に無理を言って焼きそばを購入。

 帰路に着く人波を眺めながら、俺たちは夏を満喫していた。


 ――それは、ヒトナツの夢。

 懐かしきあの頃の幻想。


 賢者が魅せる夢の中の昔話だった。


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