表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/88

第十一話 男のプライド

ブクマ100件突破しました、ありがとうございます!

見てくださってる100人の方々のために、頑張って完結します!


 馬車の中で麒麟の話をしてみたところ、どうやら他の面々の夢にも現れたようだった。

 しかも俺と違ってちゃんとお告げを貰っているらしい。

 なにこの差別。


 麒麟は俺の事が嫌いなのだろうか。

 だったらどうして夢に出てきたのだろう。


「なんて言われたの?」

「……言いたくない」

「同意するわ」

「え? どうして?」


 そんなみんなの反応に、エンがオロオロと返す。

 当然だが、眠らないエンの下に麒麟は現れていない。

 ちょっと残念がっていたのだが、周囲の反応に戸惑うばかり。

 珍しく誰も彼もがそっぽを向く状況だ。


 何だよ、神獣ってそんな嫌な奴だったのか。


「まぁ、行けばわかるわよ」


 カシスがテキトーに話を終わらせた。

 そこまで言いたくないなら仕方ないな。


 件の麒麟。


 あの後も少し調べてみたが、どうやら預言者みたいな扱いらしいな。

 現実で出会った記述は存在しない。

 気まぐれに誰かの夢に出てきて、未来の情報を与える。


 それを信じる者もいれば、無論、信じない者もいる。

 身分の低い奴が麒麟の予言を伝えても、誰も信じやしない。

 当然だな。


 しかし、予言なんていうチート能力があるのに、何で魔王襲来を防げなかったんだ?

 どのぐらいの期間を予言できるのか知らんが、万全の準備をしていれば、一夜にして壊滅なんて事にはならなかっただろうに。


 わかんねぇなぁ。


 ちなみに、魔王襲来以降は各地に結界を張って、ポルタニアの国民を守っていたらしい。

 それでも生贄を捧げなければならない魔王とその配下たちの強さたるや。

 神獣である麒麟。その戦闘力は定かではないが、それを凌駕するほどか……。


 遥やスクリって物凄く強かったんだな。

 むしろ、そんなに強い勇者一行が教会やシャルマーニ王家如きに殺されるとか信じられん。

 凱旋の晩に、何があったんだろう。


 さて、そんな感じで一日が過ぎ。


「ねぇ、本当にこの道であってるの?」

「間違いないっす」

「周りに木しかない……」

「アジトの周辺といい勝負ね」

「人が住めるところなのかな」


 俺たちはガンラートに導かれるままに、なぜか森の中を突き進んでいた。

 賢者コルニュート……どんだけ辺鄙なところに住んでんた。

 さすが名立たるコミュ障である。これでは他人と関わるどころではない。


 しかも。


「お頭ぁ!」

「はいはい!」

「おれもいくよ!」


 魔物の襲撃も半端なく多い。

 一時間に一度は鉢合わせする。


 しかも必ず群れだ。

 おまけに強い。アジト周辺より強い。

 俺たちならともかく、一般人では自殺志願としか思われないだろう。


 何だよこれ。

 ここがラストダンジョンですか?


 さすがにガンラート一人に任せていたら日が暮れるので、俺とエンも出張って戦う事になった。ちなみに女性陣はお休み。セレーネに攻撃力は無いし、カシスに戦わせたら俺たちも火あぶりになる恐れがあったからな。


「『紅蓮・炎球』!」

「加減しろよ!」

「わかってるわよ!」


 それでも、俺たちの包囲から漏れて馬車に近づく魔物が時々現れる。

 そんな奴らの相手をするのが、カシスの役目だ。

 小規模のファイアーボールは次々と魔物の目に直撃し、脳髄まで溶かしきる。


 いやぁ、強くなったな。

 あとは放っておいても、立派な紅蓮の魔術師になってくれる事だろう。


「『木の葉崩し』!」


 ガンラートの刀が空を切り、そしてなぜか魔物の首が飛んでいく。

 俺の知ってる居合抜きと違う。

 もっとこう、直接相手を切り付ける攻撃方法だったはずだ。


 ヒュッ、と刀の血を飛ばしたかと思うと、次に背負った槍を投擲した。

 それは大型の魔物の身体を貫通し、即死させる。


 随分変則的な二刀流ですね。


「これが本場か」

「そうっすよ。どうっすか?」

「頼りになる、さ!」


 俺のエセ居合術……というか魔法剣とは全然違うな。

 そもそも西洋剣で居合なんてやるのが無理なんだよ。

 あれは確か、刃を鞘に走らせる必要があったはずだ。


 俺のは違う。


 ただ魔力を込めて魔法効果を付与させる剣技に過ぎない。

 俺が単純に魔法を使うより強力で、単純に切り付けるより飛距離と殺傷力がある。

 だから好んで使っているが、多分本来の居合術とは違うのだろう。


 知ったこっちゃないけど。


「今なら兄ちゃんよりガンラートさんの方が強かったりして」


 エンが魔物を締め付けながら、何気なく言った。

 ふむ。なるほど。そうだろうか。


 そうかな?


「試しに決闘してみる?」

「……やめときやしょう」


 一瞬迷った様子が伺えた。

 聖剣ありでも、勝てるかもしれない可能性はあったらしい。


 でも、俺は不死身だからな。

 一方、ガンラートはあくまで生身。

 最終的には確実に俺が勝つ。


 ちょっと卑怯だな。


「ま、追々、ね!」

「そうっすね! 追々っす、ね!」


 追々なんて来なければいいと。

 そう願っているような声色だった。


 情けないぞ、ガンラートよ。



---



 そうして、また一日が過ぎた頃。


「……転移が使えないわね」


 カシスがボソッとそう言った。


「って事は、賢者の居所が近いって事か」

「ついでに言うと、通信も効かないわ。

 どんな類の結界なのかしら」


 おっと、その情報は聞いていないんだが。

 これじゃアジトの様子が全くわからないじゃないか。


 俺は目を細めてガンラートを見やる。


「し、仕方ないじゃないですか。

 俺が前に来た時は、通信魔法を使える奴なんていなかったんで」

「そうなの?」

「そうっすよ。

 通信魔法はかなり上級の魔法なんすよ。

 転移の使い手がいただけでも、当時は儲けもんだったんでさぁ」


 そうだったのか。

 カシスが携帯電話を使うかのように軽く扱ってみせていたので、その程度の魔法だと思っていたんだが。随分大層な拾い物をしていたらしい。


「まぁまぁ。最近の報告を聞く限り、問題ないみたいじゃない?

 メイちゃんも元気にやってるみたいだし」

「そうだよ、兄ちゃん。

 盗賊のみんなも強いんだから、大丈夫だって」


 呑気な事を言うセレーネとエン。

 最近は魔物も強力になってきているというのに。


 万が一があったとして、俺たちは帰れないんだぞ。

 もしも神獣クラスが攻めてきたら、モブどもでは手も足も出ないだろう。

 そうしたら、あいつらはみんな死ぬし、帰る場所を失ってしまう。


 ………………。

 いや、俺は何を思った。


 ……帰る、場所?


「ユタカ様?」

「あぁ、うん。何でもない。

 仕方ないね。

 ちゃっちゃと用事を済ませて、ちゃっちゃと帰ろう」

「んじゃ、ちょっくら飛ばしますわ」


 ガンラートが鞭を討ち、馬がヒヒンと吠える。

 少しだけスピードアップ。馬の体力が続くまでは、だが。


 ――帰る場所。


 俺にとっての帰る場所は、いつからアジトになったんだ。

 帰るのは日本。俺が住んでいた、あの懐かしいアパートだ。


 遥を連れて、日本に帰る。


 未だ、その方法の糸口さえ掴めていない。

 帰還方法を知っていた前教皇は死んだ。

 元々勇者だった遥も知らず、現在勇者である俺も知らない。


 ……本当に帰る方法なんてあるのか。


 確か、レヴィアタンが言っていた事だったか。

 ユーストフィアと地球には関連性がある。

 一方の影響がもう一方へと流れ込むおそれがある。


 平行世界って奴だろうか。


 ちょっとその辺のSF知識には疎いんだが……。

 地球あるいは太陽系。銀河。

 それと並び立つ同類の次元が存在し、そして影響力を持っている。

 とか?


 例えばこの間のスクリが起こした大津波。

 あれが、地球では噴火という現象を引き起こしていたのかもしれない。


 または、魔王による虐殺。

 それが、地球では戦争の火種となっているのかもしれない。


 相互にどう繋がっているのか分からないが。

 とにかく繋がっているのは間違いないのだろう。

 レヴィアタンの言葉を信じるなら、という条件付きではあるが。


 そうすると、俺や遥、あるいは過去の勇者。

 俺たちがユーストフィアに召喚されるというのも頷けなくはない。

 全く関係がない世界ってわけじゃないのだから。


 ならば、きっと帰る方法もある。

 世界は繋がっている。


 今は、そう信じるしかないのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ