第四話 それは何の前振りもない出会い
賢者コルニュート。
レヴィアタンが指名した、お目当ての人物である。
そして、遥の仲間であり、ほぼ間違いなく魔族化していると思われたそいつ。
どうせ戦うんだろうなぁ面倒くさいとウンザリしていたそいつが。
今、俺の前の前にいる。
「死んだって聞いたんだけど」
「わたしに死という概念はないさ。
肉体を失っても、えーっと、君に出来るだけわかり易く言うと、いわゆる精神体として世界を彷徨うだけだ」
「……スクリは魔族になって蘇っていたけど?
あなたも魔族化してるんじゃないの?」
「彼女に会ったのか。
そうか……。いや、これでも賢者と呼ばれた身だからね~。
抗う術ぐらいは心得ている」
両手を上げ、敵対の意思は無い事を示す。
どことなく軽薄そうな奴だ。
この展開は予想外だったなぁ。
どうせ遥のかつての仲間が、さながら四天王かの如く次から次へと現れて、バトルしては撃退を繰り返すものだと思っていた。
まさか向こうからノコノコやってくる上に、戦うつもりもないとは。
「抗う術?」
「魔王による魔族の形成は、基本的に呪力をベースとしている。
そして呪力は、人間の負の感情を餌として寄り添うものだよ。
わかっていればどうとでもなる」
そうだったのか。
さすが賢者とか言われる奴、対抗策まで用意しているとはやるじゃないか。
負の感情。
遥もスクリも、そしてあの時の俺も。
存分に抱えてそうなものだもんな。
「じゃあ、今のあなたはゴーストって事か」
「似たようなものだねぇ。
大部分の特徴は似通っているとも。
とはいえ、それは君にとって重要ではないのでは?」
「……そうだね。
あなたは何をしに、いや、何のために俺に会いに来たの?」
そうだ。こいつが今どういう状態だろうと関係ない。
俺に何の用があるか、という事が問題だ。
「……一応聞いておこう。
君の名前はユタカで間違いないかな?」
「そうだよ」
「やはりか……ユタカ君。
君の事はハルカに散々聞かされたので、よく知っているよ」
賢者よお前もか。
やめてほしい。切実に。
遥はいったい何をどうして異世界で俺の事を吹聴したんだろうか。
マジでやめろ。本当にやめろ。
と言いたいところなのだが……俺も暇さえあれば遥の事を考えているからなぁ。
あいつをどうしたら救いだせるのかとか。
あいつに会いたいなとか。
もしかしたら人の事を言えないのかもしれない。
「詳しく言った方がいいかな?」
「いや、いい。勘弁して」
「ふふっ、そうか……では、ユタカ君。
早速だが、わたしがかつて住処にしていた場所に来て欲しい」
「……ポルタニアの?」
「知っているのであれば話は早い。
あそこはもはや何も無いに等しいが……ひとつだけ。
君が望むものがあるはずだ」
「それは?」
「かつてイーリアスが用いた魔道具。
転移を封じる宝珠を、わたしは持っていた」
マジでか。
それはもう願ってもない、俺がこの数カ月探し求めたものだ。
こんな突拍子もなくそんな重要アイテムのフラグが立つなんて。
「そもそも古くは転移を封じる結界魔法が普及していたんだけどね~。
諸般の事情により、もはや失われた秘術となってしまった。
使えるのは一部の神獣しかいない」
「ちなみに、あなたがそれを教えてくれるって展開があったり」
「……しないね。君には適性がないみたい。
取りに来てもらうほかない」
「俺の仲間に支援魔法が得意な奴がいるんだけど」
「悪いけど、今のところ君以外に会うつもりはない」
ケチ臭い奴だな。
今この場でカシスに教えてくれたら、長旅してまでポルタニアに行く必要もないのに。
そういや世捨て人なんだっけ?
具体的にどういう奴なのかよくわからないけど、人間嫌いなんだろうなぁ。
協力してくれるだけありがたいと思うべきか。
この世界に来てから、振り回されてばかりなのが癪だが。
「色々聞きたい事があると思うけど、顕現しているのも大変なのでね。
詳しい事は、ポルタニアで話すとしよう」
「ちょっと待て」
「必ず来てくれる事を願っているよ~」
えっ。
おい。
「いやいやいや、一方的すぎるだろ!
俺の話を聞けえええええええええええええ!」
なんていう俺の叫びは知ったこっちゃないとばかりに。
賢者の精神体とやらは風の中、俺の前から姿を消した。
……ちょっと衝撃的で突発的すぎる展開についていけないんだが。
とにかく。
改めて、今後の方針が決定した次第である。
俺たちはポルタニアへ向かう。
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「というわけで、明日からポルタニアに出発します」
「……待って。色々待って。
賢者が何だって?」
俺は普段宴会を開催している広間に全員を集めてそう宣言する。
が、どいつもこいつもポカーンとした表情だ。
無理もない。
俺だってそんな表情を浮かべたいところだ。
あんなに人の話を聞かないで言いたい事だけ言っていく奴、久しぶりに会ったぞ。
なんというコミュニケーション不全。
世捨て人なんじゃなくて、人里で生きていけなかっただけなんじゃ。
「だから、さっき賢者の精神体? に会って……」
「精神体って何さ!
人間は死んだら天に召されるか、ゴーストになるかしかないんだよ!」
「そんなの知らないよ」
セレーネがまたワーワー騒ぐが、俺に聞かれても困る。
知るわけないだろうが。
むしろセレーネの方が、そう言った事に詳しいはずだ。
でもまぁ、事実は事実として受け入れなきゃな。
常識じゃ信じられない事なんて、俺はこの世界で何度も経験してきた。
「それはもう賢者に会ってから、セレーネが個人的に聞いてよ。
俺は興味ないから。
とにかく、明日から出発する。ミドルドーナを起点にね」
「……はぁ。わかったよ」
「それで? 誰を連れていくのかしら?」
「君たち二人と、ガンラート、あとエン。
合計五人で向かって、夜になったら君の転移で帰ってくる。
朝になったらまた転移で出発」
「……確かにそうしたら旅支度もあんまりいらないし、楽ね。
どうして今までそうしなかったのかしら」
エンに言われるまで気付かなかったとは言えない。
単純だが効果的な転移の使い方……むしろ、エンはもっと早く俺に言うべきだった。
そうすればシャルマーニへの道中でわざわざ野宿する必要もなかった。
思い出すと泣けてくるのでやめよう。
適切な反論が思いつかないし、ここはスルーだ。
「お頭。俺たちは何をしていればいいんです?」
「いつも通りでいいよ。
食料買ったり、周囲の魔物を倒したり、畑仕事したり、メイの世話したり。
あぁ、一応ミドルドーナから臨時で魔術師を派遣させるから、魔物討伐の案件があったらやっておいて」
「……俺たちだけで?」
不安なのかよ。
よっぽどの強敵が現れなければ大丈夫だとは思うが。
海の件が解決した関係上、ミドルドーナの魔術師も手伝ってくれるだろうし。
念のため保険ぐらいはかけておくが。
「ヤバそうだったらカシス経由で俺を呼べ」
「わかりやした!」
「ガンラートもエンも、それでいいよね?」
「俺は構いませんぜ。
願ったり叶ったりってやつです」
「おれも、さっき兄ちゃんに言ったとおりだ!
任せてくれ!」
「お兄ちゃん、また遠くに行くの?」
「うん、だけど夜には帰ってくるから。
みんなと一緒に待ってるんだぞ。
でも遅くなる様だったら、夜更かししないで早めに寝るんだぞ」
「……わかった! 待ってるね!」
こんなところか。
あとは臨時の魔術師に迷惑かけるなとか、俺がいない間にメイを泣かせたら殺すとか色々と釘を刺しておいて、細かいところを微調整しつつ、解散である。
急展開……なのだが、結局やる事は変わらない。
当初の予定通りポルタニアを目指すだけ。
賢者の登場には驚いたが、まぁ賢者とまで呼ばれるほどだ。
そういう事もあるだろう。
世界は広い。広いが、やっとその尻尾を掴んだ。
遥も、賢者も。待っていろよ。
ふははははは! 日曜を捨てて三章をだいたい書き終えたぜ!
ご安心ください、三章は終わらせます
エタりません




