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第十五話 海岸洞窟の主


 午後もいい時間帯となり、ちょうど太陽が頂点にでも来る頃だろうか。

 俺たちは海岸洞窟に辿り着いていた。


 ちなみにエンとメイの世話は、セレーネが教会に頼んでおいたらしい。

 準備が良い事だ。日が暮れる前には保護するように指示したと。

 モブ盗賊? あいつらは勝手にやるだろう。


 入口の直径は3mぐらいだろう、人が入るには充分すぎる大きさだ。

 川を飲み込んで海水を洞窟内部に侵入させていた。

 水嵩が増えたらセレーネもカシスも死ぬしかないだろうな。


 急ぎで決着をつけよう。


 入口の横で、ミドルドーナの水魔術師と、教会の神官が洞窟の警護をしていた。

 ロープのようなもので、立ち入り禁止と書かれている。


「おぉ、セレーネ様! そして我らが神……」

「話は聞いたよ。中に通してもらっていい?」

「全てその身心のままに」


 深々と頭を下げる神官。

 気色悪い。


 と、魔術師も俺たちの前に出て。


「もしや……リックローブ家の?」

「あら、そういうあなたは何家の魔術師なのかしらね。

 会った覚えはないけれど?」

「…………」


 カシスは悪い意味で有名人だな。

 魔術師が苦々しい顔を浮かべている。

 随分出世したものだ。

 カシスがそれを喜んでいるのかどうかは知らない。


 さて、神官からざっくりとした説明を聞くが。


 だいたいセレーネから聞いた通りなので事情は省略する。

 気にかける事といえば、この時期は夕方ぐらいに満潮になり、腰ぐらいまでは水に浸かってしまうので気をつけろ、との事だ。


 最悪、転移で帰ればいいから問題ない。

 カシスって本当に優秀だな。


 というわけで洞窟内部を探索。

 少し進むと徐々に天井が高くなっていく。

 徒歩数分で5mにはなっていたと思う。


 何処かに横穴があるのだろう、空気の流れが乱れている。

 と、魔物を炎で焼き殺したカシスが分析していた。


「『炎魔法・火球』!」


 ようするにファイアーボールである。

 あのチンピラズにぶち当てた技だ。

 さすがに当時よりは洗練されており、今やイカみたいな魔物やタコみたいな魔物を一瞬で酒のつまみに出来る。持って帰ったらガンラートが喜ぶだろう。


 基本スタイルとしては俺が前衛で敵をなぎ倒し、漏れた敵をカシスが仕留める。

 セレーネの出番はほぼない。怪我などしない。

 せいぜい、聖魔法で周囲を照らす事や、時々現れる、中で死んだ人の霊を鎮めるぐらいだ。


 しかしまぁ。


「魔物は大人しくなったんじゃなかったっけ」


 凄く多い。数メートルに一度は攻撃を仕掛けられている。

 ただ切り捨てるだけの作業にいい加減ウンザリしてきた。

 レベル制ゲームじゃないんだから本当にただの作業だ。


「おかしいね」

「その原因もついでに突き止めればいいのよ」

「これ多分、そんな簡単な話じゃないと思うんだけど」

「簡単な話よ。あんたがいるんだから」

「ユタカ様は勇者様だもんね」

「カシスは俺を過大評価しすぎ。セレーネは勇者を神格化しすぎ」

「今は、そうね。

 でも、あんたがもう少しだけハルカ以外にも目を向ければ、過大じゃなくなるわ」

「そうそう。結果だけ見れば、ユタカ様はお伽噺の勇者様だよ」

「…………はぁ」


 呑気な奴らだ。

 悪いがそんな日は来ないぞ。


 とはいえ進むしかない。途中で二股に分かれる道を右に行ったら突きあたりだったので、戻って今度は左の道へ。そんな事を繰り返しながら二時間ぐらいは過ぎた。もう疲れた。宝箱ぐらいあってもいいのに。


 天然のダンジョンである。

 もはや地図上でどこにいるのかわからん。

 カルターニャからは抜け出してしまっているだろう。


 おかげで狭いところでの戦闘経験も随分積めたと思う。


 この辺りになると酸素が心配なので、カシスに炎魔法の使用を制限させた結果、俺が一人で戦っていた。転移魔法で瞬間移動攻撃のアシストをしていたが。


 風魔法の操作もかなり上達したし、魔法剣も射程距離が延びている。

 この調子なら、次に遥と会った頃にはもう少しマシに戦えるだろうな。


 そこからさらに一時間ぐらい進み。


 随分と開けた場所に出た。

 カルターニャ近郊にこんな場所があるとは信じられない。

 本当に何処なんだここ。


 高さ10数mぐらいの空間で、湖のように海水が広がり、足元を濡らしている。

 もう少し進んだら全身が沈んでしまうだろう、そのぐらいの深さに思える。


 天井には、魔力がこもっているのか、鉱石が七色に瞬き、時の流れさえ忘れさせるほどの幻想的な光景を創り出していた。


 そして。


 その空間の中央に鎮座する存在。


「……来てしまったか」


 竜だ。空間の全てを覆う程の巨大な竜。

 何処からこの場所に侵入したのか、どうして侵入できたのか理解できない。

 

 ついに会ってしまったか。


 青と紫で構成された鱗の、そのひとつひとつが俺の手の平よりもデカイ。

 東洋風の巨体が、とぐろを巻いて眠る様に収まっていた。

 金色の瞳が俺たちを見つめる。


 敵対する意思はない。そう思えた。

 簡単に勝てるとは思えないが、負けるとも思えない。

 その身体はキズだらけで、生きているのも不思議な程だったから。


「我はレヴィアタン。この近海を統べるもの」

「……海竜かな」

「汝らがそう呼んでいるもので間違っていない。

 勇者よ。我に何用があって参った」

「勇者なんかじゃない」


 俺は、ここ最近海が荒れており、その調査をしている事、この洞窟に棲む魔物たちの挙動について疑問を持ちやってきた事を伝える。


 するとレヴィアタンは目を閉じて。


「近海が荒れているのは、我の怒りに呼応したもので間違いないだろう。

 それが収まってきているのは、今、我がこのような状態だからだ」


 だが、俺たちの洞窟への侵入に気付き、生息する魔物たちを嗾けた。

 と、いう事らしい。


「レヴィアタン様。そのお怒りについて伺ってもよろしいでしょうか」

「汝の事は良く知っている。

 死にゆく魔物の魂にさえ慈愛を向ける、愚かな勇者の末裔よ。

 知らぬ方が良い事もある」

「ですが」

「汝も悲しむ事になるだろう」


 えらく理性的な魔物である。さすが神獣とまで呼ばれる生物。

 その辺の雑魚とは格が違う。

 相対するだけでピリピリとしたプレッシャーが全身の毛を逆立てるほどだ。


「あたし達だって、このまま海を放っておくわけにはいかないのよ」

「我の治療が済めば、海も静かとなろう」

「悪いけど、そんなに待っていたくないんだよね」


 俺はセレーネに指示し、レヴィアタンの傷を治させる。

 さすがの生命力というか、完治にはまだ遠そうだが、自然治癒を促進する事は出来ただろう。


 さっさと事情を聞いてさっさと片付けてしまおう。

 このまま放置したら多方面が煩い。


「レヴィアタン。話してほしい」

「勇者よ。お前にも無関係なことではないのだぞ」

「いいから」


 瞳を真っ直ぐにあわせて、レヴィアタンは逡巡する。

 それは悲しい瞳だった。懐かしさを感じさせた。哀愁を漂わせていた。

 戻らない過去を悔んでいるかようだった。


「――かつて我には友がいた」


 それは人間の少女だった。


 彼女は天から与えられた水魔法の才能を持ち、穏やかな海の全てに愛され、導かれるようにレヴィアタンの前に姿を現した。


 まだ物心すらついていないだろう時分から、無視しても無視してもどこからか彼の下に辿り着く少女。その手段はわからない。もしかしたら、海の魔物が力を貸しているのかもしれない。


 そう思わせるほど、海は彼女を慈しんでいたから。


 観念したレヴィアタンは彼女と親交を育む。

 他愛もない話を重ねた。家族や、村の友人たちの話。

 何百年もの時を過ごしたレヴィアタンには聞き飽きた話題だった。


 ささやかな時間。

 静かで、何の発展性もなく、昨日も今日も明日も、きっと同じ日々が続くと確信させるような、そんなひと時。


 彼からすれば、まさに瞬きの間に過ぎ去ってしまうほどの。


 だが、ほんの僅かな期間でも。

 少女は確かに、彼にとって友だったのだ。


「彼女の名はスクリ=ククルト。

 かつて勇者ハルカと共に魔王を討った、お前達の英雄と呼ばれるべきだった者だ」


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