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第十四話 目の保養


 カルターニャには、セレーネを回収した時以来行っていない。

 冬期間は勿論無理だったし、それ以降はバタバタしていた。

 それに、行く理由も――まぁ、わずかな可能性にかけて帰還方法を探すという事を考えないでもなかったが――基本的にはなかったという事が大きい。


 さて、そのカルターニャ。

 久しぶりに来たら、それなりに復興作業が進んでいた。


 伊達にイーリアス教会の総本山があった町ではない。

 実質的にはもうミドルドーナが総本山なのだろうが、それはそれで、やる事はやる、といった感じだ。


 教会の信徒を中心に、住人も生活を始めている。

 火の海の中、脱出し生存していた者もいたらしく、戻ってきていたようだ。

 俺たちが確認した時は、既に避難後だったのかもな。


 そんな様子を見ていたら、セレーネとカシスが。


「ユタカ様。私は教会に寄ってから行くよ」

「あたしも、何かあった時のためにセレーネについていくわね」

「わかった」

「せっかくだからユタカ様も……」

「行くと思うか?」

「……思わない」


 俺も同行を迫られたが、丁重にお断りした。

 全力で拒否したとも言う。

 カルターニャのイーリアス大聖堂には恨みしかない。


 誰がそんなところに行くか。


 そのため、俺はエンとメイ、盗賊どもを連れて、先に海水浴場へ向かった。

 観光地としても収入を得ているらしく、俺たち以外にも遊びに来たっぽい若者が結構いる。


 素晴らしい。これこそ夏の醍醐味だな。


 俺は聖剣を隠してから着替え、砂浜へ。

 普通の海パンにパーカーのような服を着る。

 ブーメランパンツなんて買ってきていたら、そいつは四肢切断の刑だった。


「じゃあ、一応調査も兼ねているから。

 自由にしていいけど、何かあったら報告して」

「「「へい、お頭!」」」


 というわけで海水浴である。

 男のモブどもはあっという間に散って、一般人をナンパしに行った。

 女のモブどもはパラソルを広げてのんびり涼むという名のナンパ待ち。


 俺は調査を名目にあっち行ったりこっち行ったり、観光客で目の保養をしながら、エンやメイと戯れる。


「こんなところに人間の負の感情なんてあるの?」


 エンが呪力で海水を銃弾のようにして遊んでいた。

 食らったら大ダメージ間違いない。


「兄ちゃん。海なんて毎年何人も死んでるんだよ」

「そんなもんか」

「うん。みんながみんな魔法を使えるわけじゃないし。

 溺れたらそれまでだよ」


 何処の世界も一緒らしい。

 サラッとそんな事を言うエンは歳のわりに達観しているというか、既に死んだ身だからこそ生死への拘りが薄いのかもしれない。


 メイに対して以外は。


「だからなメイ。おれや兄ちゃんと離れちゃダメだぞ。

 危ないからな」

「うんっ。お兄ちゃん、ボール遊びして!」


 何製かもわからないボールを手にしながら、メイは素直に頷く。

 シャルマーニで水着を買った際に、ついでにボールも買ったらしい。


 行うのはビーチバレーに近い遊びである。


 時々エンがどう頑張ってもとれない場所にボールを飛ばしてくるので、俺は風魔法で強引に送り返していた。

 この世界のスポーツはハイレベルである。

 五輪でさえ見られないような高度な戦いだ。


 そのうちボール遊びにも飽きて、エンが水流操作してメイを高い高いしている。

 影のように伸びる呪力が海水を拘束して操っているのだ。

 呪術は攻撃力は低いが、環境を利用すれば殺傷力を得る事も出来そうだな。


 そんな様子を眺めながらボーっとしていると、昼前ぐらいになってセレーネとカシスがやってきた。


 セレーネはワンピースのような白い水着に麦わら帽と日傘という、清楚系のパーフェクトスタイルを貫いてやってきた。90年代だろうか。まぁ、ここはカルターニャだからな、それなりの格好をしなければならないのだろう。


 中身が伴っていないのが残念で仕方ない。


 カシスは赤と黒の混じったビキニである。

 イメージそのまますぎてコメントもないが、あえて言えばよく似合っている。

出ているべきところが出ていないという欠点はともかく、見た目は美少女。中身がアレという問題を差し引けば悪くない。


 二人でモブや観光客の視線を一手に引き受けている。

 ドヤ顔な二人が無駄に眩しい。


「遅かったね」

「色々あってね。それよりどう? 感想は?」

「見た目だけなら最高だよ」

「どういう意味さ!」

「どういう意味よ!」


 そういう意味だよ。

 恨みがましい野郎どもの視線と、それに全く気付かずに喚いている二人をスルーしていると、エンとメイが近づいてきた。


「セレーネお姉ちゃんもカシスお姉ちゃんもかわいい!」

「ありがとう。メイもよく似合っててとっても可愛いよ」

「エンは……いつも通りね」

「おれは暑くもないし、水着も着れないしなー」


 そういう事なので、エンは別の意味で視線を集めていた。

 まぁ、ごちゃごちゃ言ってくる輩もいないので、勝手にすればいい。


 しばらくわいわいやって。


 いい加減昼も過ぎて腹も減ってきたので、海の家的なところで昼食となる。

 海鮮系のやきそばのような食べ物だ。

 非常に見た目が似ているがやはり味が薄い。


 その他、マリネみたいなものや、単純に水棲系の魔物を焼いただけの食い物もあった。

 ついでに酒も飲みたいところだったが、さすがに時間が早すぎるので控える。


 感想は。


「うん……うん」

「美味しくないわけじゃないね」

「マズイわよ」

「おいしいよ?」

「君たちもメイを見習ったらいいと思うよ」

「ユタカ様のメイちゃん贔屓が最近酷い」


 贔屓しているわけじゃない。

 お前らがダメなんだ。


「君たちは何処へ行っても、食べ物に文句ばっかりだよね。

 これだからお嬢様は」

「ユタカだって結構グチグチ言ってるじゃない!

 自分を棚上げするな!」

「兄ちゃんは密かに味にうるさいからな」

「ニホンとは食文化が違うのかな?」


 仕方ない。日本人だからな。

 何をされてもキレない日本人。ただし、食に関する事を除く。

 とかいうネタがあったな。


 特段舌が肥えているわけじゃないが、この世界の食事は全般的に薄味なのだ。

 恐らく調味料の関係だろう。

 醤油ベースだった俺の食生活を鑑みると、ちょっとつらい。

 聖剣や指輪より料理上手になる特殊スキルが欲しかった。


 などと引きつった表情の店員を尻目に会話を繰り広げながら食事を終え、また遊びに行ったエンとメイを見送ったあたりで、セレーネがおもむろに口を開いた。


「あのさ、さっき大聖堂で頼まれたんだけど」

「嫌です」

「聞いてよ!」

「あんたねぇ……」


 どうせ面倒な事だろう。そうに違いない。

 だが俺の拒絶を無視して、セレーネは語り出した。


 ここから10分ぐらい歩いたところに洞窟がある。


 いつ頃からあるのかはわからない。

 昔からそこは魔物の住処となっていて、立ち入り禁止区域だった。

 ただ、魔物も近付かなければ襲って来ないので、警戒だけはしていたが、特別討伐しようとか、そういう話にはならなかった。


 が、海が荒れてきている関係か、そこに住む魔物たちも凶悪化し、派遣されたミドルドーナの魔術師たちが倒したり、教会の奴らが結界を張ったりしていたが、芳しくはなかった。


 と思いきや、ここ数日、その活性化が急に収まった。

 原因は不明だし調査の必要があるが、二転三転する状況にどんな危険が待ち受けているかわからず、手をこまねいている。


 そこで。


「ね、お願い」


 セレーネが両手を合わせ、片目を瞑り、祈る様に俺を見る。

 最近媚びるようになってきたな。


「ダメです」

「……ユタカ様。カリウス様に頼まれた件、お忘れではないでしょう」

「だから調査してるじゃん」

「しかし、芳しい結果は出ていません。

 死体の消えた村の件も、海が荒れた原因についても。

 このままでは、ただの詐欺になってしまうのでは?」


 こいつ……また俺を脅そうというのか。

 ついこの間自重するとか言っていなかったか?

 あれは夢か?


「海岸洞窟の件を片付ければ、芋蔓式で原因が明らかになるかもしれません。

 あなたの力であれば、そこまでの手間でもないでしょう」

「…………」


 仕方ない。確かに結果は出ていないなーまずいなーと思っていたところだ。

 聖剣さえあればだいたいの魔物は一瞬で倒せるだろう。

 ちゃっちゃと片付けて、また海水浴を楽しむとしよう。


 結局俺は、流されるがままに海岸洞窟へと向かった。


 途中、あんたセレーネには甘いわよね、とカシスが言う。

 そうかもしれないと思い始めていたので、俺は黙った。


 多分それは、セレーネの口調が、行動が、仕草が、少しだけ。

 ほんの少しだけ、昔の遥に似ているからだろう。

 そう、思っていた


今日更新できないって? 何の話です?

いやぁ意外と間に合うもんですね


すいません明日5/2が更新出来ないです(白目)

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