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第十一話 何も無いところから何かを見つける


 その晩に、帰ってきたカシス、ガンラートと共にアジトに戻って。


 土産はたいそう喜ばれた。特にエンが喜んでいた。

 あいつは眠らない。夜は長く、暇だからな。

 触れなくても楽しめるのであれば嬉しいだろう。


「兄ちゃんってセンスいいね」

「そう?」

「そうかも。ほら、ハルカ様にって買ったブレスレットも綺麗だったし。

 よくお土産屋にあんなのあったよね。

 そういえば見当たらないけど、あれ、どうしたの?」

「どうしたんだろうね」

「おれも兄ちゃんに学んで……メイを喜ばせる!」


 それでいいのだろうか。

 いいんだろうな。

 結果的には誰も損しない素晴らしい決意だ。


「で、メイにはお菓子ね。はい、これ」

「わぁ、ありがとう!

 これぜんぶメイがたべる!」


 全部食べるの? ホールケーキだよ?

 と思ったが何も言うまい。もうすぐ成長期だしな。

 太りたくないとかいう概念はまだ生まれていない。


 モブどもに一発ネタと酒を渡したら、一発ネタはとりあえず一度は笑って、放置。

 そのまま宴会に突入した。

 空気を感じ取ったのか、もう夜も遅いよ、とエンがそれとなくメイに就寝を促しているのが視界の隅に入った。優秀な事だ。


 で、買ってきた酒とツマミを広げ、試しにセレーネに酒を勧めてみたら、瞳と同じ青い顔をしながら丁重にお断りされた。トラウマにでもなったのかもしれない。


「そうそうお前ら、セレーネがシャルマーニでさぁ」

「セレーネ様の……面白い話っすか!?」

「期待していい話だよ」

「ユタカ……やめてあげたら?」

「お頭は本当に容赦ないっすねぇ」

「やめて! やめてってばああああああああ!

 わあああああああああああ!」


 絶叫が見事だったのでやめてあげた。

 その後ネチネチとセレーネを苛めたり、逃げた件についてカシスとガンラートを脅したりしながら、宴会は進行し。


「忘れてた。カリウスに頼まれた仕事があるから、明日からね」

「あぁ、結局何を頼まれたんで?」

「滅んだ村の調査と、海が荒れてるとか? よくわかんないね」

「だから調査するんでしょ」

「また魔物と戦いっすかー……」

「そうならない可能性もあるわよ。

 ごちゃごちゃ言わないでやることやる」

「へいへい」

「お嬢様は厳しいっすねぇ」

「お嬢様って言うなぁ!」


 いつの間にか、カシスもモブどもに馴染んでいるなぁ。

 大魔術師の家系の娘がそんな事でいいんだろうか。

 俺が気にする事でもないけど。


 そうして、終始盛り上がり続けたまま、数時間後に宴会はお開きとなった。

 その過程で、カシスは意外と酒が強いという事が判明。

 勝負を挑んだモブが次々と敗れていった場面は、なかなかに壮観だった。



---



 魔物により滅びた村は、どこもかしこも東側の沿岸に集中していた。

 具体的にはバラントゥルテの近郊だ。


 バラントゥルテは大都市ではなかったが、一応、辺境の田舎領土という程度の大きさはある町だったので、その崩壊により、周囲の守りが手薄になったのかもしれない。


 生存者はいない事もない。

 俺のところにもメイがいるし、近隣の町村に逃げ込んだ奴らもいるらしい。

 がー……魔族少年の目撃情報は曖昧だ。

 言われてみればいたかもしれないな、という認識。


 やっぱり子供同士じゃないと厳しいのか、別の理由があるのか。

 魔族なら姿を隠す手段を持っていてもおかしくない。

 遥だって使えたんだし。いずれにせよ、わからんね。


 なお、バラントゥルテ程じゃないが亡霊が湧いて出てくる事もあったので、セレーネを派遣したら全て一晩でやってくれた。優秀である。


「連れ去られたのって本当に全部死体だったのかな?

 生きたままなんじゃないかな?」

「俺に言われたって、それはわかりませんぜ。

 ただ、人口と、残された血の量や被害の跡を比べる限りは、殺されてからって方が頷けますがねぇ」


 調査に連れてくるメンバーは、概ねいつもの面子だ。

 一度エンを連れてきたのだが、同じぐらいの歳の子供の霊に感化されかけたのか、若干暴走しそうになったので、それ以降連れてきていない。


 エンは呪力という、人間の感情を媒介としたエネルギーを使っているから、周囲のそういった感覚に影響され易いのだと、セレーネが言っていた。ただ霊として存在しているだけなら、そんな事もないらしい。


 そうだよな。

 じゃなきゃバラントゥルテなんて亡霊騒ぎどころか、悪霊騒動になっていてもおかしくなかったし。


「あんた達、よくこんなの見て平気でいられるわね……」


 ちょっと青い顔をしながら、カシスが呟いた。

 確かに死体がないだけでそれ以外は酷い有様なので、グロ映像に近いとは言える。


「慣れだよ、慣れ」

「魔物だって殺したら血が出るし肉は飛び散るじゃねぇか」

「そういう問題じゃないのよ」


 じゃあどういう問題なんだろう。


 生存者の荷物や家族の遺品を整理しながら、人間と魔物の違いについて考えるも、会話が成立するかしないかぐらいしかないような気がする。あとは知性が高いか、低いか。


 しかも、高位の魔物ともなると人語を話すらしく、そうなるとさらに違いがない。


 セレーネを見てみると、崩れた家の前で一軒一軒手を合わせて回っていた。

 なんか魔力を練っているところをみると、聖魔法でも使っているのかもしれない。


 聖魔法に攻撃力はない。ただし対ゴーストやアンデットを除く。

 いわゆる浄化の光という奴で、呪力に直接干渉するものらしい。

 つまり遥の魔法は魔力ではなく呪力をベースに発動していたから解除できたという事で。

 あいつはどこまで人の道を外れていくのだろう。


「お頭ぁ。正直何もわかりゃしませんぜ」

「だよね」


 わかろうはずもない。

 何も無いのだから。


 エンや生存者の話を聞く限りで、襲ってきた魔物の共通点はない。

 有象無象だ。ただ、本来群れない魔物が群れていたっていう違いはある。

 つまり何者かが指示を出している。


 で、その何者か、というのは、恐らく魔王の眷族である魔族。

 少年の姿をしたそれ。

 遥の配下だろう。


 そんな事は調べるまでも無くわかっていた。


「次で最後か。もう俺だけでいいから、みんな帰っていいよ。

 カシス、俺を飛ばしたら、二時間後ぐらいに迎えにきて」

「わかったわ」



---



 そして俺は転移する。

 クラッと意識が消え、暗転。そして復帰。


 目を開ける前から潮の匂いがしていた。


 アリカンという、海沿いの小さな村だ。漁業で細々と暮らしてきたらしい。

 海岸を見ると、何隻かの船の残骸があたりに散らばっていた。

 惨い。


「そういや海の調査もそのうちやらなきゃ」


 海が荒れるという表現は良く聞くが、具体的にはわからない。


 天候の変化が通常の予測から大きく逸脱するとかだろうか。

 ユーストフィアには水棲系の魔物もいて、そいつらが強力になったとか言っていたな。

 誰かが海竜にでも喧嘩売ったんじゃないか?


「まずは村の調査だなー」


 と、色々とひっくり返しながら村をあさるが、何も見つからない。

 生存者の話も聞いていないから、遺品はいいだろう。


 久しぶりに家業の方に手を出そうかとも思ったが、こんな小さな村で欲しい物などなかった。残念だ。


 何もなさそうなので、近いうちにセレーネを派遣して供養させよう。


 次に海岸側。藻屑となりかけている船の破片を押しのけながら、生存者や魔族少年の痕跡を探すも、やはりない。

 全く何も無いとかどれだけ用意周到というか狡猾というか。


 時々鮫っぽい魔物が襲ってくるので切り捨てる。

 こんな浅瀬に現れるなよ……と思ったが、昔そんな映画があったのを思い出した。


 端から端まで歩いたところで。

 岩の上に膝を抱えて座る人物を発見した。

 生存者か?


「この村の人?」

「……あなたは?」

「村の調査にきた傭兵みたいなもんだよ」


 聖剣は隠して身分も隠す。


 外見は魔術師風だった。

 青い髪に青い瞳の、俺と同年代か、少し上くらいの女。

 まるでカシスの色使いを間違えたかのような風貌だった。

 言ったはいいが、とてもこんなド田舎の奴には思えない。


「そうですか。

 わたくしはミドルドーナの魔術師で、この村の調査に派遣された者ですわ」

「え? そうなの?」

「どうも連絡不備があったようですわね」


 使えねぇなぁカリウス。

 

 どうやら水魔術師らしく、彼女は杖を掲げて水を発生させてみせた。

 洗練された動きだ。伊達にミドルドーナで学んでいない。

 魔法学校にでも行っていたのだろう。


「せっかくだから、俺の手伝いしてもらっていい?」

「えぇ、構いませんわよ」

「それじゃあ、よろしく」


 水辺の村だし、彼女に任せる方が得策だ。


 決してサボれるからラッキーとか思っているわけじゃないぞ。

 決してな。


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