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第七話 前教皇派の思考回路


 セレーネは、聖剣を抜きかけている俺の手にさらに自分の手を重ねながら。


「カリウス様。こちらが聖剣デュランダルにございます。

 そして、彼が勇者であるユタカ様。指輪も所持しております。

 間違いありません」


 上手い事、俺を抑えつつ話を展開した。


「ふむ、そのようだな。

 ……セレーネよ、その服装は何だ」

「私は、世界のため、教会のため、勇者様と共に歩む事を決めた身。

 聖法衣などは飾りにすぎず、むしろ障害ですらあります」

「愚かな」


 カリウスは全力でセレーネを見下しながら吐き捨てる。

 うわぁ。これが聖職者の取る態度か。

 セレーネが聖女として崇められるのもわからんでもない。


「セレーネの服が何か?」

「私たちはイーリアス様の高貴な血を引く者である。

 身分とは服を着るモノ。街娘のような下賤な輩と同じではいかんのだ」


 クズアンドクズだな。

 さっさと話終わらせて帰ろう。


「まぁそんな事はどうでもいいので。

 俺たちに何の用が?」

「……そうだな。要件は二つだ」


 最近、魔物が連れ去ったのか、滅んだ町や村の死体が消失している。

 これは俺たちも知っている事だな。

 バラントゥルテが代表だし、途中寄った村もそうだった。


 カリウスの話によると、俺たちが知っている以外でも三件。

 手が回らないので、この件の調査を頼みたいと。


 俺も気になっているし、特に断る理由もない。

 あえて言えばカリウスが嫌いなくらいだ。


「そしてもう一つは、海が荒れている事」

「海?」

「そうだ」


 カルターニャが代表的だが、シャルマーニ国内の東側は海に面した地だ。

 バラントゥルテも少し東へ行けば海があるし、近隣の小さな町村もそういう場所が多い。


 なので、漁業が盛んというか、小さい町や村だとそれしか産業が無かったりするが、どうも最近、海の魔物が強化されていたり、天候が不安定だったりで、漁が出来ないと。その辺の調査も頼みたいらしい。


 海か。

 津波といえば遥だし、気になるな。


「だが、こちらはそれほど緊急ではない。

 ミドルドーナの水魔術師を中心に、既に対策を進めている。

 先に死体の件にあたって欲しい」

「いいよ。金もらえるならね」

「相応に出そう」


 断る理由についても前述と同じ。

 優先順位は俺が決めさせてもらうが、やる事はやってやろう。


 それから10分ぐらいかけて、カシスに各拠点へ転移してもらい、足をゲット。

 これでいつでも行けるだろう。


 最近、若干カシスを酷使しすぎなきらいはある。


 新たに転移魔術師を雇うというか、連れてきてもいいんだが……それはそれで、カシスが文句言いそうだ。多少は炎魔法が使えるようになったとはいえ、まだ紅蓮には程遠い。別の奴を連れてきたらプライドが傷付きそう。


 カリウスはその間、俺たちの存在を一切無視して書類仕事に没頭していた。

 嫌な奴だが、仕事そのものは出来るんだろうな。

 引っ切り無しに他の教会連中の話を聞いたり、呼び出したり、指示したりしている。


 とはいえ、出来ればこんな奴とは話したくないので、用事が済んだならさっさと帰ろう。

 セレーネもそんな感じだし、カシスは既にキレてる。


 と思ったのだが。


「そうそう、カリウスさん。最後に一つ」

「何だ」

「貴方は俺を殺さないの?」


 一気に場が凍てついた。

 セレーネが思わず俺の手を握り締める。

 結構痛い。わりと本気だ。


 カシスは絶句している。こいつ、アドリブ効かないタイプだろ。


「その必要はない」

「何で?」

「お前は私と話している間、一度たりとも表情を変えなかった。

 最初に私を殺そうとした時でさえ、眉一つ動かさなかった。

 まるでそれが当然であるかのような仕草だった。

 内心は知らないが、それだけ超然としているのであれば構わない。

 書物に記されるイーリアス様によく似ている」


 イーリアスに似ているとか死ぬほど嫌なんだが。

 カリウスは最後に、魔王ハルカとは違って、と小さく付け足したので、やっぱり殺そうかなと思ったが、セレーネがそれを許さなかった。


 しかし、そんな台詞を当然のように言うカリウスの様子を見ると、本当にこんなキチガイみたいな思考で遥を排除しようとしたんだろうな。狂信者というべきか、カルトと言うべきか。


 ……いつか必ずこいつは殺す。


 わかっている。

 今は殺してはいけない事ぐらい。

 生かしておく事が、遥を連れ戻すために必要だって事ぐらい。


 だが、それでも許そうとは思えない。


 全てを片付けたら、真っ先にこいつを殺しに来よう。

 そう誓って、俺たちは教会を後にした。


 ちなみに報酬は前払いだった。

 ちょっとだけ見直した。



---



「おかしいわ。おかしいわよ! 確かにハルカは勇者っぽくはなかったけど、だからと言ってあの態度はないわ! あたしの家族より最低よ! だいたいユタカだって、およそ勇者なんて言える人間じゃないじゃない!」


 宿に戻る道すがら、カシスはあーだこーだとずっと文句を言っていた。

 俺も同意見だったので華麗にスルー。

 セレーネが止めるだろうと思ったのだが、彼女は黙ったままだった。

 一応、聖女が王都で大騒ぎはマズイとでも思っているのだろうか。


 宿に戻ったらブチ切れた。


「あぁぁぁぁ! 相変わらずダメだった!

 本当にダメだ! あれを教皇にするくらいならやっぱり私が……。

 いやでもどっちにしろもうシャルマーニは終わりだ!

 そうだ! ユタカ様! せっかくだからこの国の統治も」

「嫌です」

「なんでさ!」


 そんな事をしていたら遥を探しに行けないだろう。


 セレーネはそれはもう喚き散らした。

 俺だけじゃなくカシスさえドン引きする程だった。

 何処で覚えたのか、放送禁止用語を連発し。

 とても信者には見せられない、国教幹部の悲しい姿だった。


 昼間で本当に良かった。

 夜だったらまた謝りにいかなきゃいけないところだ。


 それを5分ほど続けて。


「落ち着いた?」

「はい。落ち着きました。お許し下さい、ユタカ様」

「別に怒ってないよ」


 そこには聖女を必死に取り繕う女子高生がいた。

 どちらが好ましいかと言われると、こちらの方がいい。

 でも、街娘スタイルでやられると違和感が半端ない。


 何で聖女服じゃなかったんだろう。

 ギルドに行く時とか、公の場ではあれを着ているんだけどな。

 当てつけかな。


「セレーネがあの男を嫌いなのはよくわかったわ」

「カシスだって散々言ってたじゃん」

「あたしはいいのよ、いつもの事だし」


 開き直ればいいってもんじゃねーぞ。


 とにかく、もういつでも帰れる。

 宿は取ってしまったし、一泊はしていくつもりだが。

 ガンラートと合流しよう。


 と思っていると、トントンと部屋の扉がノックされた。

 ガンラートである。タイミングのいい男だ。

 両手に色々と買い物袋を抱えていた。


「早かったですね、お頭」

「まぁね。何それ?」

「エンとメイへの土産でさぁ」


 着々と将来の養親ルートへのフラグを立てていくガンラート。

 その調子で宜しく頼む。


「話し合いの方はどうだったんで?」

「二回ぐらい殺そうとしたよ」

「お頭は手が早いから参考になりやせん」


「私も止めなきゃよかったと思ったよ。

 ユタカ様は凄く我慢したと思うよ」

「同感ね。本当にセレーネと血が繋がっているのかしら」

「……そいつぁ、席外して正解だったぜ」


 どうしてセレーネやカシスが言うと納得するのだろう。

 俺ってそんなにキレ易い若者かな。

 なんだかんだで、最初の盗賊A~Cと前頭領以外は殺してないはずなんだけど。

 あとは何度かモブの四肢切断したぐらい。


 その後どうするかと話し合おうとしたのだが、ガンラートはお土産を置いてまた街へ繰り出してしまった。

 忙しない奴だ。協調性がない。



---



 仕方ないので、三人で昼食である。

 

 シャルマーニの食事はわりと濃い目で、俺の舌に良く合っていた。

 多分、俺と遥以外にも過去に地球から召喚された勇者でもいて、そいつが異世界に伝道していったのだろう。

 見た目も味もスペイン料理っぽいから、スペイン人かな。


 カシスはそれを絶賛していたが、少し味が濃いと思うらしい。

 セレーネは食った事があるのだろう、どこかと比較していた。やはり味が濃いと。


 海が近いから、海鮮系の料理が作り易いと思う。

 どこかに日本的な定食屋ないかな。あと、温泉とか。


「今後の方針としては、まず死体の消えた村を回る感じ?」


 セレーネが丁寧に紙ナプキンを折りたたみながらそう言った。


「そうだね」

「じゃあ今日はゆっくり休んで、明日から頑張りましょう」


 明日から本気出す。

 色々と精神的に疲れた俺たちはそう誓って、シャルマーニの観光を始めたのだった。


今夜は更新できそうもないので、今のうちに


評価してくれた人、ありがとうございました!

凄く嬉しいです!

初めて評価頂いて脳みそ溶けるぐらい喜んでます!

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