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第五話 王都からのお達し


 俺が召喚されたのは王都シャルマーニの王城である。

 惨劇の舞台だ。

 良く考えなくても、いきなりあんな場に出くわすなんて酷い。


 ゲームや漫画でも、もうちょっとマシな……例えば王様の御前とか教会とかそういう平和で安全な場所だろう。


 まぁ過去を振り返っても仕方ない。


 で、王都シャルマーニは現在、イーリアス教会の総大司教、カリウス=ヒストレイリアが復興・運営を担当している。


 王族貴族や、元々いた官僚的な奴らが軒並み死亡し、国は事実上陥落、もはやシャルマーニは『王』国ではなくなったと言えよう。


 とはいえ、王都の街や民には別段被害などない。

 今も遥の襲撃以前と変わらない生活を送っていると聞いている。

 死んだのはお偉いさんだけ、破壊されたのは城だけ。


 つまり、混乱を機にイーリアス教会が国を牛耳ったという事だな。

 やはり教会滅ぶべし。


 さて、このカリウス、名字が現す通りセレーネの兄にあたる。

 以前、チラッとそんな話を聞いた覚えがあるな。

 のだが、何故か前教皇派閥、すなわち遥排斥派に属していたのだと言う。


 殺すか。

 むしろ何故、遥が生かしておいたのか謎だ。

 セレーネの兄だからか?


「私にもわからないよ。

 でも、私は兄と親しいとも、近しいとも言えないからね。

 ほとんど他人のようなものさ。

 別の理由があるんじゃないかな?」


 聞いてみたら、セレーネは苦笑しながらそう言った。

 暗殺は止められた。



---



 そんなシャルマーニというか、カリウスから、本日俺たちに召喚命令が下った。


「ユタカ。呼び出しよ」

「またか。何処?」

「王都シャルマーニのカリウス代理王から」

「は?」


 嫌な予感しかしない。


 ちなみに通信魔法は、脳に直接魔力を届けてテレパシーするようなものらしいが、送信者・受信者ともに通信魔法が使えないと通じない。所持者が限定的な携帯電話だな。

 

 色んな場所から一遍に情報がよせられてもカシスがパンクしてしまうので、今のところは教会の通信担当責任者、魔術ギルド情報部の元上司と、数名のお偉いさんからのみ受信を受け付ける事になっている。


 また、転移に関しては以前も確認したが、一度行った事がある場所か、カシスが魔力を込めた魔石がある場所にしか飛べない。


 そのため、魔物討伐の際は、一旦ミドルドーナの教会に飛んで、教会の担当者やギルドの担当者と共に目的地へ転移する事で、徐々に範囲を広げているという感じだ。


 手間がかかるが仕方ない。


 というわけで、今回はシャルマーニなのだが。


「直接の要請?」

「いいえ、一応ミドルドーナを通してきたわ」


 面倒な事だが、名目上はヨハンがトップだからな。

 その辺の手続きは無視できないのだろう。


 しかし、カリウスというだけで怪しい匂いがプンプンする。

 イーリアス教会の事実上のトップ……可能な限り会いたくない。


 無視してもいいが……シャルマーニがどうなっているのかは少々気になるところだ。


「じゃあカシス。シャルマーニへの転移の準備して」

「行けないわ」

「は?」

「……シャルマーニには行った事がないし、そのカリウスにも会った事がない」


 え、リックローブ家の娘のくせに。


「今、リックローブ家の娘のくせに、って思ったわね」

「まさにそのまま思った」

「ちょっとは濁すか誤魔化すかしなさいよ!」


 また爆発した。

 じゃあなんで聞いたんだよ。

 オブラートに包むとか、日本でだけ要求しろよ。


 とはいえ、ちょっとは同情するので、それ以上の追い打ちはやめておく。

 いったいどれだけ足手纏いとして扱われてきたのだろう。


 さて、どうするかな。


 シャルマーニは、調べたところミドルドーナから南、アジトからは南西にある。

 直接向かうか、ミドルドーナを経由するかで必要な日数もそう変わらない。

 多分二週間ぐらいだろう。


「それ、急ぎ?」

「そういうわけでもないわ。

 時間が出来たらって程度」


 だったら通信で内容も伝えてくれたら楽でいいのに。


 まぁいい。

 急ぎならミドルドーナの教会から転移させてもらおうとも思ったが、ちょっと気になっている事があったんだ。

 それなら久しぶりに馬車の旅といこう。


 ちなみに馬車はカシスのポケットマネーにより作られた。

 盗賊団全員を乗せるだけの数は用意されている。

 馬車に乗る盗賊とか聞いたことねーよと思わなくもない。


「ミドルドーナには寄らずに、ここから直接向かう」

「わかったわ。セレーネにもそう伝えておく」


 と、いうわけで南西、シャルマーニへ向かう事となった。

 俺にとってはある意味凱旋である。



---



 ガタンゴトンと揺られながら。

 俺たちはのんびりと旅をしていた。


「何で馬車?」


 そんな俺の向かいに座るのはセレーネ。

 斜め前にカシス。

 今回は、戦闘になったら瞬殺して逃げる気満々なので、俺とセレーネ以外では、カシス。あと、ガンラートを連れてきた。


 もはや盗賊団の必要性が怪しくなってきた事もあるが、モブの中でエンに勝てそうな奴が誰もいない。誰も魔法を使えないから攻撃できない。だからエンを置いてくれば、一応は安泰である。あいつは不眠不休だし、監視役としては最適だ。


 まぁ……最近奴らが腑抜けていて、傭兵やりながら子守をしている荒くれ者たちって感じで。


 監視の必要があるかって言われたら、少々首を傾げたくなる。


 おかしいだろ。問答無用で俺を殺そうとしてきた奴らのはずだぞ。

 いくらセレーネや幽霊兄妹に毒気を抜かれたって言ったって、人間そこまで変わるか?


 いや、そりゃ改心してきたってのは良い事なのかも知れんが……。


 以前ガンラートが言っていたところによると、別に生まれた時から盗賊だったわけじゃない、だったか。あいつらが元々何をやっていたのかは知らないが、誰も好き好んで犯罪なんてしたくないのかもしれないな。


 それで罪が許されるなんてさらさら思わない。けど、罪の話をすると俺も一緒だ。俺は最初に盗賊を殺しているし、前の頭領も殺しているし、盗みだってしている。

 誰かに許しを請うつもりも、贖罪もするつもりはないが、自分を棚に上げるわけにはいかないから、何も言えん。


 いつか地獄に落ちるかもな。

 よく聖剣に見放されないものだ。


 ……俺は別に、殺伐としていなきゃダメだとかいうつもりはない。

 だからもう好きにやらせる事にしよう。


 話が逸れた。


「教会もギルドもない、小さな村とか集落を見たかったんだよね」

「そうなんだ? まぁユタカ様が言うなら、私もいいけど」

「馬車で長旅は疲れるわね……」

「カシスは乗り物ダメなの?」

「そういうわけじゃないけど、疲れるものは疲れるじゃない。

 セレーネこそどうなのよ」

「私はほら、立場上慣れてるからさ」


 二人の会話を聞いていると眠くなる。


 ギルドや教会が設置してある町や、その近辺に立地している村なら問題ないが、このルートだとシャルマーニに近づくまでは、ちょっと東にあったバラントゥルテが一番大きな町だった。が、そのバラントゥルテも滅んでしまった。


 だから情報の伝達速度と精度に問題がある。

 遥がどんな基準で破壊を行っているかわからない以上、自分達でも可能な限り確認しておきたい。


 そんなところで、馬車で各地を見て回りたかった、という事だ。

 もしかしたら遥に遭遇出来るかもしれないなんて淡い期待も、少しだけあった。



---



 道中、数か所の村に寄った。

 そのうち一か所は滅んでいた。情報に無かった村だ。


 バラントゥルテと同じ感じだ。

 死体がひとつもなく、死臭も腐敗臭もしない。

 血痕も完全に固まってしまっている。


 ガンラートが言うにはバラントゥルテよりさらに以前に滅びたようだ。

 俺にはその辺よくわからないが、わざわざ嘘をつく理由もないし、そうなんだろう。


「火事場泥棒はしなくていいの?」


 色々と見て回っている俺に対して、ガンラートはのんびりと腰を落ち着かせているので、聞いてみた。


「金もあるし、生活には困ってません。

 なら、やる理由がないってやつで」

「そう言うとは思ってたよ」


 盗賊家業そのものに執着してるとは思えない。

 生きるための手段だったのか、それとも。


「お頭。俺は今回ついてきやしたが、カリウス代理王に会う気はありません。

 どっかでプラプラさせてもらいます」

「いいけど、何で?」

「なぁに、俺は元々ろくでもない人間なんで、お頭たちのように王様なんかに会う身分じゃありません。それに」

「それに?」

「俺は、勇者ハルカが結構好きだったんですよ」


 あれー? ひょっとしてこいつも遥と面識ありましたって奴かな。

 その後しつこく聞いてみたけど、結局教えてくれなかった。

 こんな風に小出しにされるぐらいなら、さっさと教えて欲しい。


 諦めて探索続行。

 小さな村だ。人口数十人ってところか。

 農業でのんびり生活していただろうに、こんな事になってしまってちょっと同情する。


 結局わかる事は何もなかった。

 バラントゥルテで出現した魔族らしき少年ってのも、結構気になっているのだが。

 そのうち戦うハメになるかもしれないな。正直嫌な予感しかしていない。


 死体に、何の用があるのかなんて。

 どうせロクでもない理由でしかないだろうからな。


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