Ep.ゼロ 私が勇者だ!
「じゃあな」
「うん、また明日ね!」
今日も豊と図書館で勉強して、一緒に帰宅。
毎日毎日毎日毎日勉強勉強勉強勉強。
勉強勉強勉強勉強。
勉強勉強勉強勉強。
勉強勉強勉強勉強。
逆に頭がバカになりそう。
遊びに行きたい! 部活がやりたい!
美味しい物食べたいし、ゆっくり寝たい!
でも同じ大学に行きたい。
豊は勉強できるけど、ちょっと抜けてるしやる気もないから、私が一緒にやらないと落ちちゃうかもしれない。
それは嫌だ。私は豊と一緒にいたいんだ。
本人は全然気付いてないみたいだけど、豊は意外とモテる。
違う大学に行ったらあっさり彼女とか出来ちゃうかもしれない。
嫌だ。
だから頑張ろう!
と、家の前でかたく拳を握り締めたのだった。
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はずだったのに。
「勇者様、ようこそお越し頂きました」
私、浅井 遥は。
家に帰る間もなく、気付いたら知らない場所にいたのでした。
晩御飯は?
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「ハルカ様。本日からしばらく、私が貴女のお世話をさせて頂きます。
セレーネ=ヒストレイリアと申します。
どうぞ、宜しくお願い致します。何でもお申し付け下さい」
「う、うん」
中学生ぐらいのすっごい可愛い子が、お行儀よく私にお辞儀をした。
キラキラと金色の髪の毛が眩しくて目を細める。
しかもよく見なくても、既に私より胸が大きい……だと……。
豊に貧乳貧乳とバカにされた日々を思い出した。死にたい。
金髪碧眼に巨乳とか卑怯だけど、この破壊力は凄い。
お持ち帰りしたい。
「どうされました?」
「な、何でもないよ!」
はっ!
危うく間違った道へ進んでしまうところだった。
豊がいないから、誰も私の暴走を止めてくれない。
これはまずい。
最初に話をしてくれたお爺さんによると、ここはユーストフィアという世界らしい。
日本じゃなかった。地球でもなかった。
それで、魔王が現れて大変だから、勇者である私に倒して欲しいらしい。
聖剣デュランダルっていうカッコいい剣と綺麗な指輪を渡された。
凄い! 異世界だって!
昔そんなゲームをやった覚えがある。
私がいつまで経ってもクリア出来なかったのに、豊に貸したら三日ぐらいで返却された。
あっさりクリアしちゃったらしい。憎たらしい。
とにかくしばらくは、教会の人が斡旋してくれた人と訓練したり、セレーネとお茶をしたり、この世界のお話を聞いたりしながら過ごした。
聖剣を持つと身体がすっごく軽い! 今なら大会で優勝できそう!
でも訓練の人には全然勝てない。あの人が魔王を倒せばいいのに。
「私、戦い向いてないよー。
ここでセレーネちゃんとゆっくりデートしてたい」
「ダメですよ、ハルカ様。
ハルカ様は世界中の人々の希望。
勇者様なのですから」
セレーネは勇者の話をする時は、いつも目がキラキラしている。
まだ14歳なのに窮屈そうな生活してるから、そういう英雄譚に憧れるんだ。
普段は大人びてて凛々しいのに、その辺は小さい子供みたいだ。
かわいい。
「柄じゃないよー、豊に任せよう」
「ユタカ……?」
「うん。豊は幼馴染でねー、ちっちゃい頃、私が男の子にいじめられてたんだけど。颯爽と現れて、とうっ! って感じで、やっつけてくれたんだ!」
最近はそんなカッコイイところも見ないけど。
でも、あんまり中身は変わってない。
豊は何だかんだ言いながらいつも助けてくれる。
「素敵な方なんですね。恋人ですか?」
「うーん……恋人、じゃあ、ないよ?」
多分。
違った……と思う。お互い何も言ってない。
でも豊に彼女が出来たって話は聞いた事もない。
いつも私と一緒にいるし。
周りから恋人に思われてるのは知っている。
別にいい。私は豊の事好きだし。
このままずっと一緒で、いつの間にか付き合って、なんとなく結婚して、って思ってる。
魔王を倒したら日本に帰れるらしいから、その時は自慢してやろう。
ふふふ。待ってろよ!
「ハルカ様は」
「そのハルカ様ってのをやめよう! 恥ずかしい!
もっと軽い感じの! そうだ、お姉ちゃんで!」
「え……では……お姉ちゃん」
「~~~~~~~!!!」
思わず抱きしめてしまいそうになった。
危なかった。身悶えるだけで済んだ。
私も豊も一人っ子だ。
こんな妹が欲しかった。
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「わー! やだ、あの人嫌い!」
「お姉ちゃん……そんな事言わないでください。
これもお姉ちゃんの為なのです」
「だって、だってー!」
「それでね、その時も豊はね」
「ユタカ様はまるで英雄のような方ですね。
羨ましいです」
「セレーネちゃんは好きな人とかいないの?」
「いえ……私は……」
「恋をしたら世の中が幸せに見えるよ!」
「……そうですね。では、いつかユタカ様のような方と」
「ダメー! 豊は私の!」
それからも、毎日こんな感じで、訓練して、セレーネとお茶して、豊の話をして、学校の話をして、色々して、二カ月ぐらい。
私は魔王討伐に旅立ったのだった!
一章終わり。
次回から第二章に移行します。
さすがに閑話だけしか更新しないのはアレなので、一時間後ぐらいに。




