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第十三話 ツンデレ系美少女


 彼女は涙目で腰が抜けたまま俺への罵倒を続けた。


「べ、別に! あんたなんかに助けてもらわなくたってね、

 あんな奴らすぐに倒せたんだから!

 あたしを誰だと思ってるのよ! リックローブのカシスよ!」


 なるほど。

 スーパーテンプレツンデレ系美少女だな。

 日本では死滅していたけど、異世界にはまだいたか。


 ただ、ツンデレは神視点で見て、好意の裏返し、ないしは照れ隠しとわかっているからこそ可愛いのであって、現実でこう出会ってみると。


 うざい。

 最高にウザい。

 この上なくうざい。


 確かに助けてなんて言われてないさ。

 元々はマッチポンプを狙っていたから、正直感謝される謂れもない。

 でも礼ぐらいは言ったらどうだ?

 俺が助けなかったら、少なくとも致命傷はくらってたぞ?


「…………」

「いい事! あたしに恩が出来たと思わないでよね!

 だいたい転移魔法だって得意なんだから、簡単に逃げられたし!」


 俺を指差してギャーギャー騒ぐカシス。

 デレすら無いし、ただツンなだけの美少女とか、存在意義あるのか?


 いい加減ウンザリしてきた。


「どうでもいいけど、そこで倒れてる二人は治療しないと死ぬよ」

「え!?」


 俺がチンピラAとBを指差して言うと、

 すっかり忘れていたかのように声を上げ、そして青ざめる。


「俺には関係ないけど、リックローブ家の娘がこんなところで殺人か。

 バレたら君だけじゃなくて一族の没落は免れ得ないね」

「あ……そんな……」


 チンピラズに視線を向けながら、茫然とするカシス。

 実際は家の権力と金で何とでもしそうだけどな。所詮チンピラだし。


 そもそも、ここで彼女が転移で逃げてしまえば、目撃者は俺しかいないのだから、俺が正体を明かして糾弾しない限りはバレやしない。


 気が動転してそこまで頭が回っていないか。

 それとも、単純に頭の切れが悪いか。


 わからないが、今はたたみかけてしまおう。


「ところで俺の配下に腕のいい治癒術師がいるんだ。

 君が少しの間だけ、俺の頼みを聞いてくれるって言うなら、彼らを助けてもいい。傷一つ残さない」


 セレーネなら楽勝だろう。達磨になったモブを完全治療したぐらいだ。

 たかだが火傷程度で苦戦するとは思えない。


 そう提案して、再度手を差し伸べると、カシスは下唇を噛みながら思案し、結局俺の手を取った。やっと腰が治ったらしい。


「……いいわ。ただし、絶対に家にバラさないでよね」

「約束するよ」


 約束は守るさ。そうじゃないと目的が果たせない。


 俺は風魔法でチンピラズを宙に浮かせながら運ぶ。

 歩き出そうとすると、俺の肘辺りに若干の圧迫感。


「…………」


 カシスが俺の袖をギュッと掴んでいた。

 怖かったんだろうな。


 色々と計画通りにはいかなかったが、結果オーライである。



---



 さて、俺は待機していたセレーネを呼び出し、チンピラズを治療させた後、奴らを再び元の場所へ放置。後は知らんな。

 カシスを宿に連れて行ってセレーネに預け、エンやモブ盗賊を呼び出した。


「兄ちゃん、何処行ってたんだ?

 全然来なかったから待ち疲れた」

「色々あったけど、カシスを確保した」

「本当ですかい!?

 じゃあ俺たちの出番は!?」

「ないよ。だから解散」


 悪役をやらなくて良かったような、それはそれで納得いかないような、複雑な表情をしながら、モブどもは夜の街に消えていった。

 面倒事を起こさなければ好きにすればいい。


「じゃあ、エン。宿に戻ろう」

「うん、わかった」


 エンも出番がなくてつまんないという気を前面に出しつつも、素直に従う。

 夜なら、普通に並んで歩いていればただの少年にしか見えないだろう。若干色素が薄いが。


 宿に到着。カシスは大人しく待っていた。

 セレーネと話でもして復活したのか、覇気が戻った顔をしている。


「やっと来たわね。このあたしを待たせるとは良い度胸だわ。

 これでさっきの借りは帳消し……!?」


 戯言をほざきかけたところで、俺の隣に立つエンを見て絶句。

 すぐさま気を取り直して炎魔法を放とうとするも、不発だった。

 こんなところで何しようとしやがる。


「ゆ、ゆゆゆゆ!」

「湯?」

「幽霊!?」


 そんな驚く事でもないだろう。


「この街で暮らしていたら、見た事がないかもしれないね」

「そうなの? ……あぁ、魔法都市だもんね」


 ゴーストには物理攻撃は意味がないが魔法は効く。

 魔法都市なら、幽霊が現れた瞬間に消されていてもおかしくはない。

 なら、見た事がなくてもおかしくないのか。


「あ、あんた達! 何でそんなに落ち着いてるのよ!」

「見慣れたもんだし」

「私は職業柄ねぇ」

「新しい姉ちゃんはビビリなんだな」


 そんなエンの言葉にカチンと来たのか、

 動揺を押し隠し、カシスは腰に手を当てながら言った。


「誰がビビリよ!

 あたしにはカシスっていう名前があるの!」

「だって、兄ちゃんは初めて会った時から全然態度変わってないよ。

 そんなにビックリしたのカシス姉ちゃんだけだよ」

「それはこいつとあんたの周りがおかしいのよ!」

「あー! 話が進まないから静かにしろ!」


 叫んでみるも、全く意に介さないカシスとエン。

 結局その後数分くだらない問答が続いたが、くだらな過ぎるので割愛。

 ついでに、騒ぎ過ぎて隣の部屋の人に怒鳴られた事も割愛だ。


 落ち着いたところで。


「それで、あたしに頼みって何よ」


 ちゃんと借りは返すらしい。

 だったら最初のアレは何だったんだと言いたいが言わない。


「確認したいんだけど、君はリックローブ家の人でいいんだよね?

 あの、大魔術師の家系の」

「そうよ。平伏しなさい」


 スルーして続ける。


「じゃあさ、君のお父さんに会わせて欲しいんだ。

 話の場をセッティングしてくれるだけでいい」

「……あんた達何者なの?」


 訝しげに眉を寄せる。


 まぁ、そうだな。

 さすがに俺か、せめてセレーネのどちらかの身分は言う必要がある。

 大層な家系だ。媚を売ってくる輩も多いだろう。

 そんな有象無象をいちいち相手していたらキリがない。


 でも出来ればセレーネ、というかイーリアス教にはまだ関わりたくない。

 だから俺が言うしかないか。


 仕方ない。

 俺はローブの陰から聖剣を取り出して、彼女の前に置く。

 するとカシスは口をパクパクさせながら剣を指差し、俺と剣を交互に見る。

 忙しい奴だ。


「あ、あんた、あんたまさか……!」

「うん。遥……勇者ハルカに何があったのかは、

 君ほどの家なら知っているよね?

 俺はそれを止めるために異世界からやってきた、新しい勇者だ」


 自分で言っていて吐き気がする。

 だが、こうでも言わないと納得はしないだろう。

 セレーネが呆れながら俺を見る。

 エンは何か誇らしそうだ。やめろ。


「勇――ッ!」


 カシスがまた大声をあげそうになったので、セレーネが手で口を塞いで止めた。反応が早いな、実に優秀な事だ。


「お願いだから、まだ口外しないで欲しい。

 遥の件もあって、慎重にいかなきゃならないんだ。わかるよね?」


 そのままコクコクと頷く。


「俺は勇者だけど、一人じゃ魔王を倒せない。

 色んな人の協力が必要なんだ。勿論、君の協力も。

 だから、頼む。

 魔術ギルドの協力をつけるために、まず、君のお父さんに会わせて欲しい」


 そして俺は頭を下げた。

 こんな台詞を言っていると無性に身体がのそこかしこが痒くなるが、仕方ない。必要な事だと割り切ろう。


 セレーネの視線が痛い。


 カシスは暫く押し黙ったかと思うと、信じられないほど静かな声で言った。


「非常事態なのね、わかったわ。

 そのぐらいなら……でも……」

「でも?」

「――何でもないわ。明日の昼に、あたしの家に来て頂戴。

 口外しない事を家名に誓うわ。場所はわかるわよね?」

「うん、わかるよ。ありがとう。よろしく頼む」


 そして俺はカシスと握手し、彼女を見送った。

 これでやっと一歩進んだか。


 と思ったのだが。


「ねぇ、ユタカ様」

「何?」

「結局、正体明かして頼むなら、

 余計な手間をかけないで、

 最初からそうすればよかったんじゃないの?」


 ……………………。


「あ、おれ、こういう時なんて言うか知ってるぞ!」

「奇遇だね、エン。私も知ってるよ」


 俺も知ってる。


 策士、策に溺れる、だ。


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