第十一話 ミドルドーナへの旅路
ミドルドーナに向かう。
大陸の中央に位置し、
王都シャルマーニに次ぐ規模を持つ、
いわゆる魔法都市である。
王都陥落の現在、他国からの支援等々を取り纏め、一方で、他国からの侵略を妨害していて、もはやシャルマーニ国内最大の権力を誇っている。
そのうち国の名前がシャルマーニからミドルドーナに変わるかもな。
そんなミドルドーナは、魔術ギルドが国を牛耳っていると同時に、イーリアス教も強い力を持っていたらしい。
総本山が崩壊した今、どうなっているかわからないが、ミドルドーナのイーリアス教会も国内第二位の規模だったらしいので、そう簡単に潰れちゃいないだろう。
さて。
わざわざ何をしに行くかというと、
通信及び転移魔法を使える魔術師の確保、
そしてネットワークの構築である。
遥を捉えるための耳と足が欲しい。
通信魔法は日本でいう携帯電話のようなものらしい。ただし、その魔法を使える者同士でしか通用しない。
転移魔法は言わずもがな。色々と制限があるらしいが、いわゆる瞬間移動が可能な魔法だ。俺が最初に遥に使われた魔法でもある。
それらを手にすれば、情報入手・移動手段ともに飛躍的に向上するだろう。
だから魔術師が大量にいそうなところへ、まずは行く。
上手く協力を取り付けられたらいいが、出来そうになかったら脅すか、最悪魔術師だけでも拉致する。
「今回は十人ぐらいで行こうかな」
俺の盗賊団は全部で五十人ほどだ。
そんなにゾロゾロと連れて行くわけにはいかないから、人数はある程度絞らないといけない。
俺が不在の間の管理はガンラートに任せる。
あいつはこの盗賊でのキャリアも強さも信頼も問題ないから、力による支配が無くなっても暴走はしないだろうし、最悪俺が戻る事がなかったとしても勝手にやっていくだろう。
連れていくのはセレーネと、あとはモブども。
「兄ちゃん、おれも行くよ!」
「え? メイは連れていけないよ?」
「おれだけ!
メイの事はガンラートさんに任せる!」
人選に対してエンが反対意見を述べた。
確かに懐いているように思えるが、
お前はガンラートを保父にでもしたいのか。
「メイ。おれは兄ちゃんについていくから、
しっかりやるんだぞ」
「うん、お兄ちゃんも頑張ってね!
絶対帰ってきてね! 約束だよ!」
勝手に空気を作りだす兄妹。
ガンラートもいるし、モブどもはメイを娘のように可愛がっているから、危険は少ないような気もしないではないが、さすがに認識が甘すぎないか。所詮は盗賊だぞ、そいつら。
「お頭。任せて下さい」
「は? いつから子守担当になったの?」
「俺にも昔、妹がいたんでさぁ。
大丈夫、手出しはさせません」
カッコいい事を力強く言うガンラート。
妹がいたのか。知らなかった。
そして、この言い方だと死んでるな。
というか、お前の過去は初めて聞いたぞ。
「兄ちゃん。おれ、兄ちゃんの役に立ちたいんだ」
一方、真っ直ぐな瞳で俺を見つめるエン。
あぁ、俺の役に立つ事を証明できれば、
妹が捨てられる恐れも減るって事か。
こいつなりに一応考えてはいるんだろうな。
もしかしたら既にガンラートにも話を通していたのかもしれない。
俺がミドルドーナに行くと言い出すだろう事は、その情報をよこしたエンなら簡単にわかりそうだし。
メイも我儘言わないって事は多分そうだろう。
「いいけど、何があっても知らないよ」
「大丈夫!」
何でそんなにガンラートを信用しているんだろうか。
子供だからなぁ……幽霊だけどさ。
「ま、いいや。じゃあ準備をして、明日の早朝から出発ね」
意外と誰も文句を言わなかった。
俺の知らないところで、何があったんだろう。
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久しぶりに遠出である。
引き籠っていた間に身体は鍛えていたから鈍ってはいないが、毎日同じような景色を見ていた日々からの解放は、なかなかどうして新鮮味を感じさせた。
それは皆同じ感情なようで、楽しそうに馬を走らせている。
和気藹々とした空気は、とてもいきなり俺を殺そうとした奴らとは思えない。
「セレーネ姉ちゃんのおかげだよ」
「そうなの?」
「私は何もしてないって、エン君」
現在の馬上には、
俺が抱きかかえる形でセレーネ、
その横を空中浮遊しながらついてくるエン。
凄い構図だ。特にエンが。
一見すると、ゴーストに襲われて、必死に逃げている男女にしか見えないだろう。
「でも、姉ちゃんが明るくみんなに接してくれるから、毒気が抜かれたって、ガンラートさん言ってたよ」
それはありそうだなぁ。
あいつらは、あんなんでもそれなりにイーリアス教の信者であって、最低限の信仰心はあって、そこの大司教であるセレーネは天上人だろう。連れてきた時の反応を見りゃわかる。
そんなセレーネの麗しさは完全に失われてしまったが、高貴さは途絶えることなく、かつフレンドリーで屈託ない。分け隔てなく笑顔で接するこいつに懐柔されてしまったのだろう。
「なるほどね。ガンラートが言うんなら、
そうなんだろうね。
セレーネ凄いじゃん。さすが聖女」
もっとも、それで罪の意識になんて目覚められたらそれは困るんだが。
「いやぁ、照れるなぁ……」
頬をポリポリと掻きながら言うセレーネ。
俺の位置からだとよくわかるが、耳が真っ赤だ。
わりと素で照れているらしい。
称賛の言葉なんて言われ慣れているだろうに。
まぁいいさ。
今回の目的のために、聖女様には大いに役立ってもらおう。
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数日後。
俺たちは立ち寄った町で宿をとる。
まだ顔バレしていない町だ。
聖剣も隠しているし、
念のためセレーネにローブを被せているので、
身元が明らかになる事は無いだろう。
人数が多いと目立つので、
時間を置いてバラバラに入った。
宿も何人かに分けて別のところをとった。
それでも若干の危険はある。
にもかかわらず、何故野営せずにわざわざ立ち寄ったのかといえば、情報収集がしたかったからだ。
冬の終わりとほぼ同時に、俺たちはミドルドーナに向かっている。
そのため、冬の間、国で起こった事の情報を何も持っていないのだ。
正直に言って急いでいる。
焦っていると言い換えてもいい。
ミドルドーナにあるイーリアス教の教会は、この国の中でもかなり巨大だ。
そのため、遥の標的になる可能性があった。むしろ、もうそうなっているかもしれないとも思っている。
だから俺は、モブどもに特にその辺の情報集めを重点的にさせた。
結果は。
「何も起きていない?」
「へい、冬の間、何処かの町村が滅んだって事は無いそうです。
ほどほどに魔物の被害はあったそうですが、毎年の事で」
どういうことだ?
俺たちと違って、あいつには転移がある。
だから冬道なんて関係がない。
「セレーネ」
「わからないよ。一応ミドルドーナの教会は元々枢機卿派閥だったけど、ハルカ様にはあんまり関係無さそうだし」
そうだな。あいつが派閥とか知っているとは思えない。
能天気な奴だったからな。
シャルマーニが遥にかけた罪は仲間殺しだったか。
どうせ国と教会の陰謀だろうし、
全く信じちゃいないが、仲間が死んだ事は確からしい。
それでダウンした戦力を集めている……とか?
でも、もしも世界に魔王として承認されてしまっていて、魔族を従えているとしたら、その必要もないだろう。
ダメか。考えてもわかりそうもないな。
「とにかく、まだミドルドーナが無事ならそれでいいんだ。
出来るだけ急いで行こう」
それから、
また何度か町や村で情報収集をして。
二週間が過ぎ。
俺たちはミドルドーナに到着した。




