黒き爪跡
読んでいただけるとありがたいです。
実は昨日が日曜日だと思って更新してしまいました(笑)
椿は学園長室の前に立ち、軽くノックをしてから扉を開けた。
「学園長、生徒達からそろそろあれをやってほしいと要望が」
「あぁ、確かにそろそろやる時期だね」
椅子に座って何かをパソコンに打ち込みながら学園長はそう答えた。
「辰也君と優衣ちゃんにも説明しておく必要があるね。 他にも最近1ヶ月で入学してくれた生徒達全員にね」
「そうですね、ここ1ヶ月で入学した生徒をリストにしておきます」
「助かるよ。 それにしても辰也君と優衣ちゃんは随分と短期間で上位にくい込んできたね
そりゃ全国から集めてる訳じゃないけど、上から50人以内って都道府県代表レベルってことだからね」
「確かに異常とも呼べるスピードだったので、ちょっと調べてみたんです」
学園長は椿の言葉に首をかしげた。
「調べた? 辰也君と優衣ちゃんの事をかい?」
「はい、学校に通っていた時の成績とかも調べたんですけど……優衣ちゃんは普通だったんですが……辰也君、異常ですよ」
「異常……?」
学園長は不思議そうな顔をしながら椿から書類を受け取った。
「なっ……!?」
学園長は驚きの声を漏らした。 椿も学園長の反応は想定内だったようで、冷静に話を続ける。
「それと親族についても調べてみました。 辰也君個人から連絡したなら少しは考えられますが、息子と娘が家に帰ってこないのに何の連絡もないんです」
「それは……やはり辰也君個人に電話とかしてるんじゃないかな?」
「それはまた説明するときに訊こうと思いますが……辰也君のご両親は既に離婚しています
そして優衣ちゃんのご両親は……既に他界しています」
「離婚は初耳だね……」
学園長は苦笑しながら呟いた。 確かにここ最近忙しかったとはいえ、辰也と優衣の事を大雑把にしか訊ねていなかった。
「はい、そして優衣ちゃんは養子で辰也君と一緒に父親と生活を共にするようになったようです」
「確かに義妹とは聞いていたね。 でもおかしくないかな?
僕達が辰也君と優衣ちゃんの家に行ったとき……お父さんの物は無かった気がする」
「そうなんです。 実は辰也君の父親はほとんど家に帰ってこないみたいなんです」
椿の言葉に学園長は納得した様に頷いた。
「なるほど、理由は置いておくとして辰也君と優衣ちゃんは2人暮らしだったわけだね」
「そうなんですが……実は辰也君の父親は……」
「学園長!」
椿の言葉を遮るように扉が開かれた。 扉の前には少し息を切らした瞬が立っていた。
「瞬? どうしたんだい?」
「……あいつと会った」
「あいつ……?」
「貴方の元親友ですよ、学園長」
瞬の言葉を聞き、学園長は驚きの色を露にした。 椿も驚いて瞬に駆け寄った。
「瞬君!? 大丈夫だったの!?」
「交戦はしてませんから。 ただ殺り合ってたら……死んでましたね」
椿は瞬の体を抱きしめた。 瞬はいきなり抱きつかれて驚いたが、椿は安心したように瞬の体を抱きしめる。
「良かった……本当に良かった……」
「心配しすぎですよ、椿さん。 それに心美も居たんですから」
「それでも危険なことは変わらないでしょ!」
「それは……そうですけど……」
「とにかく瞬と心美ちゃんが無事なのはありがたい事だね。 報告ありがとう、瞬」
学園長がそう言うと、瞬は首を横に振った。
「俺が強かったらあいつを捕らえられたんです。 今回は俺の力不足です……って痛い痛い!!」
「瞬君、自分をあんまり責めないの」
椿はそう言いながら瞬の腕をつねっている。
「わ、分かりましたから!」
「よろしい」
椿は優しく微笑んで瞬から離れた。
「では、俺はこれで」
瞬は学園長に頭を下げ、学園長室をあとにした。
「お兄さ~ん」
未来はベッドの上に座る辰也の足の上に座り、辰也の体に抱きついた。 現在、優衣は個人自由昇格戦を申し込まれ、この部屋には居ない。
「未来?」
「ぎゅってして~」
甘えるような声で未来は体を押し付けてくる。 辰也は優しく未来の頭を撫でた。
「お兄さん、なでなでよりもぎゅってして」
「分かった。 けど俺のお願いも聞いてくれるか?」
「お兄さんの? 未来の体を思うがままにしたいの?」
「いや、違うからな?」
辰也は冷静に突っ込みを入れ、未来の体を抱きしめた。 優衣よりも一回り小さな少女を出来るだけ安心させるように抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
辰也はこれ以上は引き伸ばせない問題だと思っていた。
「未来……未来が俺達と出会った日。 何があったか教えてくれ」
辰也の言葉を聞いた瞬間、未来はビクンと体を震わせた。
「そ、そ、それは…………」
今日の朝に章平から聞いた真紅のアナライズの話。 章平と武は黒き大剣使いの話しかしなかったが、確実に未来の腕に着けられている紅いアナライズと無関係ではない。 寧ろこれは関係が無いと言う方が難しい。
辰也は未来の体を抱きしめたまま、優しく背中をさすった。
「大丈夫だよ、未来。 ずっと抱きしめとくから」
辰也がそう言うと、未来の体の震えが少しだけ収まった。
「お兄さんのお願いって……これ?」
「あぁ。 俺のお願いは未来に何があったか教えてほしいってことだ」
「わ、分かった……お兄さん、ぎゅってしててね?」
「任せとけ」
辰也は出来るだけ安心させるように優しく言うと、未来は辰也に密着して、話を始めた。
「最初はね、未来達は学校に居たの。 でもその日は午前中しか授業が無くて、お昼に下校だったの。
それでね、未来は友達と一緒に帰ってたんだ……。 そしたら……通りかかったマンションの人が……全員死んでたの……!!」
未来の体がガタガタと震え始め、辰也は未来の体を強く抱きしめる。
「未来、大丈夫だ。 落ち着いて」
辰也は未来を落ち着かせるように優しく言って背中を撫でた。
「あ、ありがとう。 お兄さん」
「未来……怖いならもう大丈夫だぞ?」
「ううん、話すよ……」
未来は辰也に抱きつく力を強め、話を続けた。
「それで未来は凄い慌てちゃって、逃げようと思ったら簡単に追いつかれちゃって……そしたらあの金髪の人はとっても嬉しそうな顔をしてたの。
それで笑顔で貴女達は友達かって訊かれて……未来が頷いたら……友達が隣で爆発したの」
「目の前で……殺されたのか……?」
「うん……」
「ごめんな……辛い話をして……」
辰也は未来の小さな体を抱きしめたまま、謝罪した。
「ううん、いつかは話そうと思ってたの」
「じゃあ夜うなされる悪夢は……」
「うん……あの日の事が夢に出てくるの」
辰也は拳を握りしめた。 一瞬にしてこの少女の人生を狂わせた金倉英里奈に怒りを覚えずにはいられなかった。
「ありがとう、お兄さん。 言えてちょっと楽になったかも」
「いや、礼を言うなら俺の方だよ。 ありがとう、未来。 辛かっただろ?」
「大丈夫だよ。 でも今日はお兄さんにぎゅってしてもらいながら寝ないとダメかも」
「いつも添い寝してると思うんだが……」
「今日の朝はしてくれてなかったもん!」
未来は頬を膨らませた。
「わ、分かったよ。 未来もぎゅってするから」
「えへへ、お兄さんありがとう」
未来は甘えるように辰也に体を押し付けた。
「ねぇ、お兄さん」
「ん?」
「ちょっと訊きたいんだけど……お兄さんとゆいゆいって結婚するの?」
直球過ぎる質問で面食らったが、辰也は頷いた。
「許嫁だからな。 結婚するよ」
「じゃあお兄さんは……ゆいゆいが好きだから結婚するの?それとも……えっと……」
「許嫁?」
「あ、うん。 許嫁だから結婚するの?」
「まぁ……両方かな」
「ふ~ん……」
未来は少し悲しそうに俯いた。
「未来?」
「お兄さんは……未来のこと……嫌い?」
未来は目に涙をためて辰也に訊ねた。
辰也は未来の涙に戸惑ったが、未来の頭を優しく撫でた。
「そんなことないよ。 俺は未来のことが好きだよ。 かわいい妹だと思ってる」
「むぅ……未来は女の子として見てほしいのに……」
「お、女の子として?」
「でも……お兄さんは未来のこと好きなんだよね?」
「お、……おう」
肯定するのは嫌な予感がしたが、否定して未来が泣いてしまっては未来が可哀想なので、辰也はしどろもどろに肯定した。
「じゃあお兄さん、未来はお兄さんの愛人になるね」
「………………ん?」
「お嫁さんはゆいゆいに譲るけど……未来は愛人になるの」
「…………へ?」
辰也の理解が追いつかない内に未来は辰也に体をぎゅうぎゅうと押しつけてくる。
「未来……愛人ってやばくないか?」
「だってお兄さんの側に居たいんだもん」
未来はそう言って幸せそうに微笑みながらずっと辰也に抱きついている。
(流石に……甘やかしすぎたのかな……?)
辰也はそんな事を思いながら足の上に乗ってくっついている未来を見た。
年相応のあどけない体つきで幼い顔立ちの美少女は眠くなってしまったのか、うとうとしている。
こんな姿を見て強く拒絶しようとする気は全く起きない。寧ろ更に愛しくなってしまう。
「お兄さん……」
「お昼寝するか?」
「うん……お兄さん、なでなでしてほしい……」
「はいよ」
辰也が優しく未来の頭を撫でると、未来はすやすやと眠ってしまった。 すると部屋のベルが鳴ったが、未来少し目を開けたものの、辰也が頭を撫でていたのでまたすぐに眠った。
(やっぱり……かわいい妹だな、未来は)
辰也は優しく微笑んで、未来をベッドに寝かして帰ってきた優衣を迎えに行った。
前書きにも書きましたが、昨日が日曜日だと思って更新してしまいました(笑)
なので本日も更新したという結果になりました。
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