紅きアナライズ
読んでいただけるとありがたいです。
「早く2人とも退いてくれってば……」
まだ辰也の足の上に乗ったままの優衣と未来は着替えるように言ってからずっと辰也から離れようとしない。
「お兄ちゃんあったかいもん」
「お兄さんぽかぽかだよぅ……」
未来は辰也に抱きついてすっかりリラックスモードになっている。 先程起きたばかりだがまたすぐ眠ってしまいそうだ。
「後でまたくっついても良いから着替えてくれって」
薄いシャツ1枚に下着を着けていないので体のラインが強調され、目のやり場に困ってしまう。
「じゃあ……着替えるね?」
そう言うと優衣はシャツの裾に手をかけ、ゆっくりとシャツをたくしあげていく。
「ちょっ!?」
辰也は慌てて優衣の手を掴んだ。
「もう、着替えてって言ったのはお兄ちゃんだよ?」
「俺の目の前で着替えるのはストップ!」
「お兄ちゃんは優衣の着替えてるところ見たくないの?」
「見たい見たくないじゃなくて見たらダメだろ!」
辰也はそう言って洗面所かトイレに逃げそうとするが、足を動かすと2人の口から熱っぽい吐息が漏れる。
「お兄さん……だめだってば!」
「お兄ちゃん分かってやってるでしょ」
「2人が退いてくれれば済む話なんだけどな……」
辰也はため息混じりに呟いた。 2人は着替えは既に取ってきているものの、着替えようとはせずに辰也にずっとくっついている。
「優衣も未来も早くしないと朝ごはん食べるの遅くなるぞ?俺もそろそろお腹が空いたし」
「でもお兄ちゃん、優衣が着替えようとしたら止めるでしょ?」
優衣は再びシャツの裾を持って柔肌を露にしながらシャツをたくしあげる。
「だから俺の膝の上に乗ったまま着替えるな!」
再び辰也は慌てて止めるが、辰也は1つ案を思い付いた。
(そうだ! 目を瞑れば良いんだ。 昨日もそうしたもんな。 何故思い付かなかったんだ)
辰也は目を閉じた。 視覚からの情報がシャットアウトされ、優衣が服を着ているのか、半裸なのかは分からない。
「あ、お兄ちゃんまた目閉じてる……。 もう、そんなお兄ちゃんにはいたずらしちゃうよ?」
すると胸にとても柔らかいものが押しつけられた。 何度も味わった感覚なので間違うことはない。
(押しつけられる位なら……なんとか耐えられるな)
「未来も早く着替えて」
辰也はそう言うと自分に抱きついている未来の背中を優しく撫でた。 目を瞑る前に見た未来の体勢を思い出して手を動かす。
「やぁんっ、お兄さんくすぐったいよ」
辰也に密着したまま未来が身をよじらせているのが分かる。 しかし辰也は少し違和感を感じていた。
(なんだか柔らかいな……未来の背中ってこんなに柔らかかったか?)
疑問に思いながら辰也が少し手を上に動かすと、少し固いものに指が触れた。
「やぁん!」
その瞬間に未来が甘い声を漏らした。
(えっ!?)
辰也は驚いて目を開けた。 右腕は未来の左胸の中心を指先で弄っており、辰也の左側にはシャツを脱いで上裸の優衣が辰也の体に密着していた。
「わっ! お兄ちゃん!?」
「お兄さん……未来はそこ敏感だって言ったじゃん……」
優衣は辰也が目を開けないと思っていたらしく、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。 未来もいつの間にか体勢を変えており、吐息混じりの声でそう言うと、辰也の手を掴んだ。
「ゆいゆいよりちっちゃいから触ってもお兄さんドキドキしないと思うよ?」
「そんな声上げられたら流石にドキドキするけどな……」
「じゃあ……もっと触っても良いよ?」
そう言うと未来は辰也の手を自分の胸に押し当てる。
「み、未来!? それに優衣も裸でくっつくな!」
「裸じゃないよ、パンツ穿いてるもん」
「上は何も着てないだろ……」
胸を見せないようにしているのか優衣は辰也の体に密着している。 辰也が下を向くと体に押し付けられている何も隠す物がない胸の谷間に視線を奪われてしまう。 辰也に押し付けているせいか、たまに服の間から見える時よりもくっきりと見える。 何よりも上裸なので見えやすいのは当たり前なのだが、それが余計に辰也の理性をグラグラと揺らす。
昨日のお風呂の水面下ではこうなっていたのかと思うと頭がクラクラしてくる。
優衣を抱きしめたい衝動に駆られるが、今裸同然の優衣を抱きしめると自制心を保つ事など不可能だと分かっているので何とか思いとどまる。
「お兄ちゃんあんまり見つめないで……恥ずかしい……」
「ご、ごめん!」
辰也は慌てて顔を上げて目を瞑った。 未来の体から手を離し、2人がようやく着替えてくれたのは起きてから1時間後の事だった。
「瞬、次はどこ行く?」
「心美の行きたい所で良いよ」
心美と手を繋ぎ、心美に引っ張られながら瞬は優しく答えた。
「じゃあ……次は服を見に行っても良い?」
「あぁ、良いよ」
瞬がそう答えると、心美は嬉しそうに瞬を引っ張りながら服屋に向かう。
服屋に着くと心美は気になった服を手に取り、鏡の前に立って、服を体に当てて鏡を見つめている。
「どうかな?」
「あれとか似合いそうだと思うけどな」
瞬は優しく微笑みながら掛けてある服を指さした。 心美はその服を手に取り、体に当てた。
「ちょっと大きいかも……。 ねえねえ瞬」
心美は振り返って瞬を見たが、瞬は店外をぼうっと見つめていた。
「…………瞬? 聞いてる?」
「ん? あぁ、確かにちょっと大きいかもな」
「もうちょっと小さいのあるかな?」
「店員さんに聞いてみようか」
瞬が店員に訊ねると、店員は確認のために店内へ入っていった。
「心美、ちょっとトイレ行ってくる」
「分かった~」
心美は鏡を見つめながらそう答えた。 瞬は店から出ると、トイレとは逆方向に歩き始めた。
そしてピタリと足を止めた。 そしてじっと1人の人間を見つめた。
視線の先にいるのは1人の男性。 身長は高く、体型はやや痩せ型。 そして左目に切り傷の後があった。
男性もじっと瞬を見ている。 2人の距離は約2メートル程。 1つのベンチを挟んで2人は睨み合う。
「会うのは……初めてじゃないな?」
瞬が言うと、男性はニヤリと笑った。
「そうだな……2回目になる」
「前回のショッピングモール襲撃の時にヘリから降りてきた奴だな?」
「ご名答だ……。 あのときは顔を隠していたはずだが……君はアビリティを持っているということだな」
「持ってなかったらお前を見つけられてないからな」
瞬はゆっくりと白いアナライズに指を乗せた。 男性は鼻で笑い、左腕の袖を捲った。 手首には赤い腕輪がつけられていた。
「真紅のアナライズ?」
辰也は首をかしげた。 現在辰也は食堂で会った章平と武に会い、一緒に朝ごはんを食べていたところである。
「そうっす。 旦那の高校を襲った大剣使いは真紅のアナライズの使用者っす」
「真紅のアナライズはこの世に2つとないアナライズです。
僕達が使っているアナライズと違って誰でも起動出来る訳ではなく、適合者のみ起動出来ます」
「何が違うんだ?」
「大きく違うのは性能です。 真紅のアナライズはそのアナライズ専用の武器を使用します。
その武器の性能は僕達が使用する物を遥かに凌駕します。
長剣や細剣の耐久力と攻撃力は大剣と足元にも及びません」
章平の答えに辰也は黙り込んだ。 正直自分達の学校を襲った奴がそこまでの化物だとは思ってはいなかった。
「つまり俺がこのまま強くなったところで黒き大剣使いには勝てないと?」
「難しいと思いますよ。 辰也さんの場合は特に。
優衣さんなら相手の火力を生かせない範囲から削りきる戦い方が出来るので、優衣さんの方が黒き大剣使いには相性が良いかも知れません」
辰也は未来と一緒にデザートを買いに行った優衣の背中を見つめた。
「危険なことはやらせたくないな……」
「旦那らしい発言っすね」
「らしいってなんだよ」
武が笑いながら言った言葉に辰也も笑いながら返すと、章平もつられて笑った。
「でも瞬さんが言ってました。
辰也さんは優しすぎる。 でも優衣さんの為なら何でもするだろうなって」
「ははっ、あながち間違ってねえよ」
「でも辰也さん気を付けてください。 もしも1人で黒き暗殺者の真紅のアナライズと戦う事があったら逃げてください。
真紅のアナライズ使いは七人の白き暗殺者よりも強いですから」
(真紅の……アナライズ!?)
相手のアナライズの色に瞬は体が堅くなる。 まさかこんな所で出会すとは思ってもいなかった。
「そう驚いた顔をするなよ。 仕掛けようとしたのはそっちだろう?
どうだ? 今なら近くにいるお仲間を連れて逃げれるぞ?」
男性は笑いながらアナライズから手を遠ざけた。
瞬はそんな男性を申し出を鼻で笑うと、ニヤリと笑った。
「逃げるわけねえだろ。 お前が民間人に危害を与える可能性があるなら今ここで潰す」
「強気なセリフだな。 無謀と勇気をはき違えるなよ?」
そう言うと男性は後ろを向いて、歩き去って行く。
「逃げるのか?」
「挑発のつもりか? 寧ろ君は助かったと言うべきだ。
それに今ここで君を殺すのは簡単な事だが……君の相手をしている間に君達のボスが出てくると鬱陶しい」
そう言って再び男性は歩みを続ける。 瞬は男性の言葉に疑問を覚えた。
(学園長を知ってる……?)
瞬の頭の中に1つの可能性が思い浮かぶ。
「お前……まさか……!!」
「また会おう」
そう言って男性は店の角を曲がって瞬の視界から消えた。
「待て!!」
瞬は慌てて後を追う。 しかし角を曲がるとそこには駐車場への入り口しかなく、既に男性の姿はない。 駐車場を見渡して見るが見当たらない。
「くっそ!!」
瞬は駐車場の壁から身を乗り出して下を見るが、多数の車が通っており、分かるはずもなかった。
瞬は目を閉じた。 しかし数秒で目を開けて舌打ちをした。
「ちっ! もう圏外か!」
一応駐車場を探してみても見当たらず、男性は完璧に見失ってしまった。
「あいつ……まさか本当に……」
瞬は呟きながら心美のいる店へ戻った。
「あ、瞬遅かったね」
「あぁ、ちょっとな。 色々あってさ」
瞬はいつも通り答えたつもりだったが、心美は心配そうに首をかしげた。
「何か……あったの?」
「別に。 何でもないよ。
それより心美は買いたい服は決まったのか?」
瞬が答えてくれないのを感じ取ったのか、心美は追求はせず、瞬の手を握った。
「まだ決めてなくて……あっちにも良い服があったの」
心美は瞬を引っ張りながら服の指さした方向に歩いていく。
(後で学園長に報告だな……)
瞬は憂鬱な気分を吹き飛ばすために心美に引っ張られながら歩き出した。
ブックマーク登録&ポイント評価をしていただけるとありがたいです。
モチベーションを保つためにも(笑)
よろしくお願いいたします。m(._.)m
 




