白き責任
読んでいただけるとありがたいです。
「ん……?」
頭がぼんやりする。 ここがどこかすぐに判断出来なかった。
鼻で息を吸うたびに、甘い匂いがして眠気が再び襲ってくる。
頭を手で撫でられている感触がする。 近くに誰かがいるのかと思い、眠気に逆らって目蓋を開けた。
「あ、瞬君起きた?」
上から声がして、瞬は仰向けになる。 すると目の前に椿の顔があった。 大きな胸に隠れて少し顔が隠れているが間違うことは無い。
瞬は一瞬自分の状況が呑み込めず、左を向いた。 そこには椿の体がある。
瞬は目にも止まらぬスピードで起き上がった。 白き雷光に恥じぬスピードである。
「わっ! 急に起き上がらないでよ」
「つ、つつ、椿さん……」
「瞬君慌てすぎだよ」
椿は笑いながらそう言ってテーブルの上に置いてあったコップを取り、瞬に差し出した。
「俺……寝てました?」
「うん、覚えてないの?」
瞬はコップを受け取り、記憶を辿る。
まず一緒に部屋に入り、今座っているソファーに座って椿に手に包帯を綺麗に巻いてもらい、その後一緒に学園長室に向かおうとした時に椿の携帯電話に電話が入った。
一緒に行くから椿に待つように言われ、瞬は戻ってソファーに座った。
「ここまでしか覚えてないんですけど……」
「私が戻ったときにはもう瞬君寝ちゃってたからね。
起こすのは可哀想だなって思ったから膝枕して起きるの待つことにしたの」
瞬は小さくため息をついた。
「この際膝枕には突っ込みませんけど……今何時ですか?」
「午後3時だよ。 結構寝ちゃってたね」
「学園長は?」
「瞬君が寝てる間に電話したよ。 瞬君が無事なら良いってさ」
椿はそう言うと瞬に近づき、瞬の体を抱きしめた。
「ちょっ!?」
「瞬君、今なら抱きしめても汚れないよ?」
先程慰めてもらった時に抱きしめようとしていたのを見透かされていたらしく、椿は小悪魔の様に微笑みながら瞬の体に自分の体を押し付ける。
体に大きくて柔らかい胸を押し付けられる感触と体から漂う甘い匂いが瞬の理性を刺激する。 自制心が吹き飛ぶのも時間の問題かもしれない。
「今日は……とことん甘やかすんですよね?」
「その言葉を盾にしちゃうの?」
「俺には心美がいるので」
「おや、浮気かな?」
「でもこの際抱きしめます」
瞬は椿の体を抱きしめた。 腕に椿の体温と体の柔らかさが伝わり、体もより椿と密着する。
「え、本格的に浮気するの!?」
「自分は弟で椿さんを姉と思い込んで甘えます」
慌てる椿にそう言って、瞬は椿の体を抱きしめる力を強める。 椿は優しく微笑んで瞬の頭を撫でた。
「瞬君って甘えん坊だっけ……?」
「断じて違います」
瞬はそう言ってゆっくりと椿を抱きしめる力を弱め、椿も瞬から離れた。
「もう帰るの?」
「はい、武達も部屋で待ってそうですし」
「瞬君……あんまり美歌の言ってた事気にしないでね」
「いや、別に美歌さんは間違ったことは言ってないですよ。 今回は流石に本気で殺るべきでした。
って椿さん!?痛い痛い!!」
椿は黙って瞬の頬を引っ張った。
「自分を追い込まないの。 分かった?」
瞬は頬を引っ張られているので、話さずに黙って頷いた。瞬が頷くと、椿は手を離した。
「いってぇ……」
「ご、ごめんね、強すぎたかな?」
「まぁその分甘やかしてもらったんで……」
瞬は自分の頬をさすりながらゆっくりとソファーから立ち上がり、玄関に向かった。 後から椿もついてくる。
「じゃあ椿さん、ありがとうございました」
「うん、じゃあまた明日」
「はい、また明日」
そう言って瞬は自分の部屋に戻っていった。
(大丈夫……君ならきっと乗り越えられるよ)
瞬の背中を見つめながら、椿はゆっくりと扉を閉めた。
辰也は1人で地下の訓練室に向かった。 優衣と未来は2人とも部屋に置いてきた。 未来がついてこようとしたのだが、戦闘を見せて金倉英里奈を思い出させるのは良くないと思い、置いてきたのである。
「早くランキングを上げないとな……」
そんなことを呟いているうちに地下に到着した。 わりと部屋は埋まっており、随分と賑わっている。
(今は下で昇格戦もしてないから人が流れてきてるのか)
辰也は周りを見渡した。 大体の人はグループで集まっており、対戦相手は決まっている様だった。
(どこかのグループに混ぜてもらうか……)
辰也がとりあえず適当に声をかけようとした時、後ろから軽く肩を叩かれた。 辰也が振り返ると、そこには見知った人物が立っていた。
「放人!」
「おう、久しぶりだな」
辰也の後ろに立っていたのは弓親放人だった。 しかし寝不足なのか目の下にくまが出来ており、いつもの元気があるようには思えない。
「本当に久しぶりな気がする……」
「英里奈と戦りあってその後1回会って……それ以来か。
それにしても随分とランキングが上がってるな」
「瞬に鍛えてもらったからな。 今は贔屓を控えるために戦ってもらってないけど」
「なるほど……。 じゃあ俺が相手してやろうか? たまには剣士相手もしないと勘が鈍るからな」
放人がそう言うと、辰也は喜んで頷いた。 元々対戦相手を探していたので、知っている人物と戦えることは見知らぬ人物と戦うよりは気持ちが楽だった。
「辰也は今ランキング2桁だよな?」
「あぁ、今は86位だ」
辰也はそう答えた。
ランキングが2桁になるとダブルナンバーと呼ばれるのは心美のブログで予習済みである。
辰也がそう言うと、放人は嬉しそうに辰也と向かい合った。
「期待のスーパールーキーって感じだな」
「まだ沢山上に強いやつが居るだろ。 瞬とか」
放人が茶化す様に言うと、辰也はため息混じりにそう答えた。
「まぁ瞬とか武や章平は神童、怪物、天才って感じだからな。
「七人の白き暗殺者」なんて変態か化物か分からんぞ」
「どことなく悪口にも聞こえるのは気のせいか?」
「嘘は言ってねえよ」
放人は笑いながら答え、アナライズの上に指を乗せた。 その動きに合わせて辰也もアナライズの上に指を置く。
「銃手の装備を展開! 戦闘を開始するぜ!」
「剣士の装備を展開! 戦闘を開始する!」
2人の体が光に包まれ、戦闘服に変わっていく。 そして辰也の手には長剣が現れ、放人の手にはアサルトライフル型の銃が現れた。
《自由個人昇格戦、開始!》
アナライズと同じく機械感の強い声が響き、同時に辰也は足元に白い円を出現させる。
辰也がそれを踏むと、辰也は凄まじい勢いで放人へ向かっていった。
放人は動きを予測していたかのように上に跳び、上から辰也に銃口を向けて引き金を引く。
辰也はシールドを展開し、銃弾を防ぐ。 銃手は魔術士と同じイレイザーとゴリアスを扱えるが、魔術士の様に弾の軌道を操ることは出来ないので、軌道が読めれば防御は難しくない。
少し遅れて床からにょきにょきと障害物が出現してきた。 本来ならこれが出てきてから試合を始める事を忘れていたことに気づき、辰也は笑みを漏らす。 放人も着地しながら笑っていた。
しかし放人は攻撃の手を緩めずにイレイザーを連射する。 辰也はシールドを展開しながら障害物の陰に隠れて剣を振り抜いた。
辰也の剣から放たれた斬撃が障害物を切り崩して放人に襲いかかるが、放人はいとも簡単に回避した。
辰也はその隙に接近を試みるが、すぐに放人は発砲して簡単には近寄らせない。
(近づいたら勝てそうなんだけどな……)
そんな事を考えているうちにも放人の攻撃は続き、辰也は障害物に隠れながらやり過ごしている。
(ちょっと試してみるか)
「バウンド、風斬」
辰也はシールドを前に展開したままバウンドを踏んだ。 そして目の前の障害物に激突する前に障害物を斬り倒す。
「おわっ!」
放人にはいきなり障害物が倒れ、その陰から猛スピードで辰也が飛び出すように見え、放人は慌てて回避した。
長剣の切っ先が放人の頬を掠めた。
「ちっ、おしい!」
「あっぶねえな!」
放人は身を捻って辰也に向けて引き金を引く。 辰也にイレイザーが襲いかかるが、辰也は障害物の陰に隠れた。
「あんまり隠れるなよ!」
放人はそう言って再び銃弾を射つが、辰也は弾の色が青色である事に気づいた。
辰也は咄嗟に着弾点から距離をとったが、爆発が起こることはない。
(あれ……? ゴリアスって赤色だったか?)
辰也がそう思った瞬間に、青色の弾の着弾点から放人が現れた。
「は!?」
「辰也みーつけた!」
「なんだよそれ!?」
辰也は慌ててシールドを展開しながらバウンドを使って距離をとる。
「あれ、辰也……もしかして印弾と瞬間移動初めて見た?」
「初耳だし初見だよ……」
「あはっ! 俺有利だな!」
「ちょ、このゲス野郎!!」
「なんとでも言え!」
放人は笑いながら銃弾を乱射する。
(くっそ……章平が言ってた補助するやつってこれか?)
辰也はそんなことを考えながら障害物を盾にしながら確実に放人に近づいていく。
「風斬!」
「瞬間移動」
放人が呟くと放人は辰也の後ろに瞬間移動した。 今度はある程度距離がある。
「わっ!」
辰也は慌てて障害物の陰に隠れた。
「はっはっはっ! 無様だな辰也! 許しを乞え!」
「言ってることが悪党じゃねえか!」
辰也は突っ込みを入れながら障害物の陰から飛び出した。
「お?」
「隠れても無駄なら防ぎながらやってやる!」
「良い考えだ! だけどな」
放人が笑みを浮かべると放人はアサルトライフル型の銃を手放し、代わりに銃身の長い銃が現れた。
(あれは……狙撃手の?)
「シールド!」
辰也は目の前にシールドを展開した。 大して狙いを定める事もせず、放人は焦ることなく引き金を引いた。
狙撃銃から放たれたイレイザーはシールドを貫通し、辰也の胸を撃ち抜いた。
「えっ……?」
「相手が悪いな、辰也」
放人は自慢げに笑ってみせた。
戦闘シーンでふざけたのは初めてかも知れません(笑)
放人の軽い感じに感謝ですね(笑)
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