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黒き暗躍者

読んでいただけるとありがたいです。

　四時間目が始まるチャイムが鳴り、京介が走って教室に入ってきた。

　京介は辰也の横の席に座り、息を整える様に小さく息を吐いた。

「どこに行ってたんだ？」

「ちょっと私用でね。　あ、ありがとう彫刻刀」

　京介は辰也から自分の彫刻刀を受け取った。

「今日も彫刻か……」

　辰也はため息をつきながら自分の作品を取り出した。　辰也の作品は既に何を作っているのか分からない様になっていたが、辰也は彫刻刀を取り出して少しずつ形を整えていく。

「そう言えば最近のあの老人ホームの事件なんだけど、犯人は最近の三件の犯人と同一人物である可能性が高いらしい」

「へぇ……どこで聞いたの？」

「さっきスマホでニュースを見たんだ。　殺し方が全く一緒らしい。　でも問題が死体から判断すると全て巨大な刃物で行われている事。　恐らく身の丈程の刃物って言われてるけど……」

「流石にそんな物持ち歩いてたら分かるもんね」

「だよな……。　まぁ関係ない話だけど」

　辰也はそう言って体勢を変えて作業を続けながら話も続けた。

「今までの殺害方法は頭を何かで撃ち抜いた様な感じだったらしいけど……何で殺し方を変えたのか……」

「仮にそいつらが組織だったなら殺す役が変わったのかもね」

「なるほどね……」

　辰也はため息混じりにそう言って彫刻刀を直し、違う種類の彫刻刀を取り出した。

「辰也も随分と興味があるみたいだね」

「まぁ周りでもメディアでも一番のネタだからな。　けど正直あんまり現実的には考えてないさ。　自分達の高校が襲われるなんて考えてたら寝れないだろ」

「確かにそうだね」

　京介はそう言って苦笑し、辰也も笑った。

「さて……まぁこんなもんかな」

　辰也が出来上がった作品を眺めていると不意にチャイムがなった。

　《二年三組嵩霧辰也君。　保健室まで来てください》

　そう辰也の名前が呼ばれた。

「保健室……？」

　辰也は首をかしげ、周りのクラスメートも首をかしげている。

「先生。　取り敢えず行ってきます」

　辰也はそう言って教室から出ると階段を下りて保健室に向かった。

(何かあったっけ……？)

　疑問を抱きながら辰也は保健室のドアを開けた。

　中には白衣を来た金髪の女性と優衣がいた。

　優衣は制服姿では無く体操服を来ており、金髪の女性に絆創膏を膝に貼って貰っているところだった。

「あ、お兄ちゃん」

「怪我でもしたのか優衣？」

「ちょっと転けただけだよ。　ありがとう先生」

　優衣はそう言って立ち上がると辰也に抱きついた。

「お兄ちゃん……このまま授業一緒にサボっちゃお？」

　優衣はそう言って豊満な胸を辰也に押し付けるようにして体を密着してくる。

「学校ではあんまりくっつくなって……！」

　辰也は優衣から離れようとするが優衣はしっかりと辰也に抱きついていた。

「随分と仲が良いですね」

　金髪の女性が微笑みながらそう言った。

「あ、そう言えば先生は最近この学校に？　確か校内では見掛けた事が無いような……」

「ええ。　最近勤め始めました。　明日の朝礼で紹介されると思いますよ」

「あ、そうなんですか」

「無視するな～～」

　辰也と先生が話していると優衣がそう言って辰也をベッドに押し倒した。

「ちょっ……！」

　辰也は慌ててベッドから起き上がった。　すぐに太ももの上辺りに優衣が乗ってくる。

「妹が甘えてるんだから甘えさせて！」

「十分甘えてるだろ……」

　辰也はため息混じりに呟きながら優衣の頭を優しく撫でた。

「えへへ……」

　優衣は嬉しそうに微笑みながら辰也に体を密着させた。

「くっつくなってば」

　そう言いながら辰也は優衣を優しく抱き締めた。

(まぁ癒されてるのは否定できないけどな……)

　そんな事を思いながら辰也が優衣を見ると頬を辰也の肩辺りにつけて幸せそうな表情で寝息を立てていた。

「おいおい寝るのはダメだろ」

　辰也は優衣の肩を揺するが起きる気配はない。

「優衣～。　起きろ～」

　試しに頬も軽くつねってみたが結果は同じだった。

(何か……俺まで眠く……)

　辰也はふと周りを見渡すと先程までいた金髪の先生が居ないことに気づいた。

(あ……れ……？)

　目の前が朦朧とし、辰也はベッドに仰向けに倒れた。　優衣もごろりと転がり辰也の横ですやすやと気持ち良さそうに眠っている。

(何で……こんなに眠いんだ……？)

　目を開けていられない程に目蓋が重くなる。　辰也はベッドの心地よさもあり、優衣と共に眠りに落ちた。

　女性は階段の近くで小さくため息をついた。

「終わったわよ。　無臭の睡眠ガスでぐっすり眠ってる」

　金髪の女性はそう言って白衣を脱ぎ、黒いドレスに着替えてながらそう言った。

「今からどうするの？」

　そう言ったのは階段に座っている京介だった。

「家に送り届ける。　即効性に長けた薬だから二時間もしたら目覚めるから途中で強力なやつも吸わせるわ」

　女性は着替え終わり、白衣を京介に渡した。

「手荒な真似はしないでくれよ。　英里奈」

「分かってる。　それより私の生着替えは目の保養になった？」

「まぁ今からまた目が痛くなりそうだけど」

「終わったら一緒にお風呂でも入ってあげるわよ」

「集中力が欠けるような事言わないでよ」

　京介はため息をついてそう呟いた。

「それじゃそれは燃やしといて。　家に持って帰っても良いけど」

「自分で持って帰らないって事は白衣(これ)要らないんでしょ？　いつも気に入った服は貰うくせに」

「だって白衣はもう持ってるから。　帰ったら見せてあげるわよ」

　そう言って英里奈は携帯電話を取り出した。

「ええ……二人運ぶから……。　私一人じゃ多分運べないから……御願いね」

　英里奈は携帯電話を切ると京介の方へ向き直った。

「じゃあ私はあの二人を家に送り届けるわ」

　保健室に先程車に居たのであろう男二人が大きな箱を持って入って行った。　英里奈が今携帯電話で呼んだ二人である。

「よろしく頼むよ」

　そう言って京介はゆっくり、階段を登って行った。

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