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黒き狼煙

読んでいただけるとありがたいです。

 車の中から1人の男が降りると、その後から更に4人程集まり、その5人に囲まれるようにして、ゆっくりと1人の男が車から降りた。

 最後に降りた男は50歳前半といったところで、黒いスーツに首には高そうなネクタイがつけられている。

 周りの男たちはその男の護衛であった。

(来たか……)

 瞬は小さくため息をついた。

「お兄ちゃん、あの人が狙われるの?」

「あんまり大きい声出すな、凛」

 瞬は凛の頭を優しく撫で、少し腰を低くして凛の耳元に口を近づけた。

「凛はあの人を知ってるか?」

「うん、テレビで見たことあるよ」

 凛も瞬の問いに小さな声で答える。

「凛の言う通り今からあの人が狙われる。 だから俺達はそれを阻止するんだ」

「うん、分かった!」

 凛が頷くと瞬は優しく微笑んで、凛の頭をもう一度優しく撫でた。

「章平。 確認できたか?」

《はい、でもやっぱり風格みたいな物がありますね》

《流石は日本の2大政党の内のトップっすね》

「だからこそ狙われるんだ」

 瞬はそう言うと近くの壁にもたれ掛かり、凛は瞬と手を繋いだ。

《兄貴、演説が始まったっす》

「了解……」

 瞬はアナライズを通して武にそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。

 凛は不安そうな表情で瞬を見守っている。

(さぁ……どこから来る?)



「暇ね」

 そう呟いて美歌は大きな欠伸をした。

「もっと緊張感を持ってください、美歌さん」

 眼鏡をかけた女の子がピシャリと言うと、美歌は小さくため息をついた。

「相変わらず蓮ちゃんは厳しいわねー」

 蓮と呼ばれた眼鏡をかけた女の子も小さくため息をついた。

「別に凛を心配する気持ちが分からない訳ではありませんが……私達の任務は

駅に現れる可能性がある黒き暗殺者(シェイド)を倒すことです」

「分かってるわよ。 でもさっきから探してるけど全然見つからないわ。

 瞬くんは見つけたかしら」



(お兄ちゃん……ずーっと目を閉じてる)

 瞬の服の裾を握ったまま横で凛はそう思った。

 凛の言う通り、瞬は先程からずっと目を閉じている。

 政治家が演説を始めてから約10分。 武はずっと政治家の方を見つめ、章平も屋上から政治家の声を聞きながら空を見上げている。

「お、お兄ちゃん」

「ん?」

 我慢できなくなり、凛は瞬に話しかけた。 瞬はゆっくりと目を開ける。

「え、えっと……」

 特に意味もなく瞬に話しかけてしまったので、何と言って良いか分からず、凛は言葉に詰まる。

《凛ちゃん、兄貴に今話しかけるのは勘弁っすよ》

 アナライズから武の声が聞こえたが、瞬は優しく凛の頭を撫でた。

「まぁそう言うな、武。 ごめんな、凛。 ちょっと暇だったんだろ?」

「ご、ごめんなさい……」

「謝ることないさ。 俺がまだ美歌さんの様に自然体で出来ないのが悪いんだ。

 でももうちょっと我慢してくれるか?」

 瞬が優しく凛の頭を撫でながらそう言うと、凛は頷いた。

「頑張って静かにするね!」

「おう」

 瞬は凛に優しく答えると再び目を閉じた。

(今のところ近くにはいない……。 そろそろ帰る頃だが……来ないのか?

 美歌さんの所へ行ったなら連絡が来るはずだが……)

 瞬はもう一度目を開けた。 凛が嬉しそうに微笑む。

「凛、怪しい奴がいたら教えてくれ。 ここから見える範囲で良い」

「え、でもお兄ちゃんなら分かるでしょ?」

「一応だよ。 武も怪しいと思ったら連絡をくれ。 章平もだ」

《了解っす》

《了解です》

 2人の返事を聞いた後に、瞬が再び目を閉じようとすると凛が瞬の袖を引っ張った。

「お兄ちゃん、あの人……」

 凛が指差した方向には政治家と政治家を取り囲んでいる民間人の方へゆっくりと向かっている人物が歩いていた。

 その人物は黒いコートで体を包み、首元から足元まで隠れている。 遠目からでは男性なのか女性なのか良く分からない。

「武、章平、見えるか? 黒いコートで全身を包んだ奴だ」

《確認したっす》

《僕も見えました》

 2人の返事を聞いて、瞬は目を閉じた。

(オリジンに目覚めている奴ならすぐに分かる!)

 瞬は目を閉じているがすぐ横に1つの光が輝いている様に感じられる。 正面の1階の扉の前にも同じ様な光が見え、上空には大きな光が輝いている。

(あいつは……何だ?)

 瞬は黒いコートの人物に意識を集中させた。 光を放っている訳ではない。 しかし輝いていない訳ではない。

(何かを……纏ってる?)

 瞬が戸惑っている間にも黒いコートの人物は民衆に近づいていく。

《兄貴、どうっすか? もう随分と近づいてるっす!》

「オリジンには目覚めてない! だけど何かを纏っている様に見えた!」

《瞬さんに見えたということはオリジンに関係する物ですかね?》

 章平が疑問を口にし、その言葉を聞いて1つの考えが浮かんだ。

 その間にも黒いコートの人物は民衆の間を抜け、政治家の演説を聞いている中の最前列に立った。

 政治家はショッピングモールに背を向けるようにして演説をしているので、黒いコートの人物の姿が良く見えた。

(まさかあいつ!!)

「武!! そいつを止めろ!!!」

《えっ!?》

 瞬が叫ぶのと同時に黒いコートの人物は政治家の前へ飛び出した。 当然のように護衛の男たちに抑えられる。

 地面に押さえ付けられ、黒いコートの人物は顔を上げた。 その顔は笑顔であった。

「早く!!!」

 瞬が再びそう叫んだ瞬間に黒いコートの人物を中心に爆発が起こった。

 爆音と共に周りにいた民間人が吹き飛び、空気が轟き、ガラスが砕け散る。

 一瞬の沈黙の後に悲鳴が巻き起こる。 まさにパニックである。

「総員戦闘準備!! 付近の敵に注意しろ!」

 瞬の言葉に呆気に取られていた章平と武も我に帰り、アナライズに指を置く。

(オリジンを持たない人間に特攻をさせた!? まさかそんな作戦で来るとは……!)

「お兄ちゃん……」

 不安と恐怖が入り交じった様な表情で凛が瞬を見つめている。

 瞬は優しく微笑んで少し中腰になると、凛と目の高さを合わせて凛の震える手を握った。

「大丈夫。 俺達がついてるから」

 瞬はそう言うと普通に立って、凛を抱き寄せた。

「うん……分かった」

 凛も不安が少し消えたのか微笑んで、瞬の体に密着する。

 周りから見たらバカップルか一線を越えた兄妹にしか見えないだろうが今はそれどころではない。

 周りの人々は我先にと逃げている。 柱にもたれ掛かって立っている瞬と凛は通行の妨げにもなっていないので周りの人々の目に止まることはない。

 そして凛を抱き寄せながらも、瞬は目を閉じていた。

(どこから来る……?)



 ショッピングモール前の大通りも大変な騒ぎになっている。

 自転車を止めて政治家を眺めていた者達も全員逃げていき、車に乗っていた者達も急いで逃げ去っていく。

 その中で1台の車が停車した。 逃げ惑う車に巻き込まれないようにショッピングモールとは反対側の車道に路駐をするように停車している。

「お気をつけて」

「うん、行ってくるよ」

 運転席に座っている若く美しい女性がそう言うと、後ろに座っていた高校生位の男子がそう答えた。

 男子は車から降りるとショッピングモールを見つめた。 入り口の前には無残に人の手足や頭が飛び散り、今から死に逝く人も居る。

 政治家が立っていたであろう場所は跡形もなく、ただ炎と黒い煙が立ち込めているだけであった。

 上空には情報を掴んだのか、マスコミのヘリコプターが2台程飛んでいる。

白き暗殺者(シャイン)がいるかも知れません。 ですから……」

「気をつけて、でしょ? 大丈夫だってば」

 車から降りた女性の言葉を遮るように男子は優しく微笑んでそう言った。

「では……いってらっしゃいませ」

「うん、行ってくるよ」

 男子は再びそう言うと袖を捲った。 手首には真紅の腕輪が着いている。

斬人(スラッシャー)装備(エクエメント)を展開。 戦闘を開始する」

《適正ユーザーです。 装備を展開します》

 腕輪から声が聞こえ、次の瞬間から男子の服装が変わっていく。

(貴方は……いつも優しい表情で……微笑んでいる。

 でもこうなった貴方は……とても同じ人物とは思えない程に……変わる)

 女性がそう感じている間に男子の服装の変化は止まった。 全身を黒い服で包み、手には身の丈程の巨大な大剣が握られていた。



「ふふっ! 随分と派手にかましてくれたじゃない!」

 ヘリコプターから下を見て金髪の女性は嬉しそうにそう言った。

「じゃあ私達も行こっか」

「はい、英里奈様」

 金髪の女性(金倉英里奈)は太ももの間に挟んでいた杖を手に取ると、ヘリコプターから飛び降りた。



 瞬は目を開けて、アナライズに口を近づけた。

「来たぞ……上と正面だ!」

日曜日に投稿出来なかった分を本日中に投稿したいと思っております。


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