白き任務
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椿はゆっくりと美歌のベッドから立ち上がり、寝室の扉を開けた。
リビングではソファーに美歌が座り、美歌に膝枕をしてもらって凛が寝転んでいる。
「凛ちゃん寝ちゃった?」
「すぐ起きると思うけど。 起こす?」
「そうしてもらえると助かるわ。 凛ちゃん起こして、仕度が済んだら学園長室の横の部屋に来て」
そう言って椿は美歌達の部屋から立ち去った。
「凛~。 起きて~」
美歌は優しく凛の頬をつついた。
「お兄ちゃん!」
「お兄さん!」
優衣と未来はまた2人同時に辰也に抱きついた。 そして体をぎゅうぎゅうと押し付ける。
優衣も未来もまだ着替えていないのでパンツと薄いシャツ1枚という格好である。
「その無防備過ぎる格好であんまりくっつくなよ……」
「そんな無防備かな?」
「お兄さんだから無防備なんだよ~」
優衣と未来はそんなことを言いながら辰也に抱きついて、辰也は小さくため息をついた。
するとベルが鳴り、辰也は2人から離れてドアを開けた。
ドアの前には昨日、瞬と一緒にいた女の子が立っていた。
「あぁ、心美ちゃんだっけ?」
「はい。 あの……取材を……」
「部屋で良いかな? 実はまだご飯とかも食べてなくてさ」
「はい! 私はどこでも大丈夫です」
「どうぞ」
辰也は心美を中に入れ、ドアを閉めた。
「おはようございます、優衣さん。 えっと……そちらの方は?」
「東雲未来だよ。 よろしくね」
未来が笑顔でそう言うと心美も自己紹介をし、辰也はベッドに座り、心美もベッドに座った。
「遅くなりました~」
そう言いながら美歌はゆっくりと学園長室の隣の部屋の扉を開けた。
「待っていたよ、美歌ちゃん」
大きな円形の机を囲むように椅子が並び、椅子には学園長と椿、瞬、武、章平、そして以前エレベーター前で辰也を怒鳴り付けた眼鏡をかけた女の子が座っている。
「作戦会議ですか?」
美歌はそう言いながら椅子に座り、横の椅子に凛を座らせた。
「その通り。 先日また施設が壊滅させられてね。
今回も建物内の生存者は無し。 死体から判断すると殺人者はおそらく金倉英里奈だ」
そう言って学園長は自分の後ろの壁に掛けてあるカレンダーを指差した。
「犯行は昨日の夜。 そしてそこに残されていた1つの手がかりがこれだ」
学園長が椿に視線を送ると椿は写真を取りだし、全員に渡した。
写真には1枚の紙に血で文字が書かれていた。
3日後にまた殺ります♪
写真に写っている紙にはそう書いてある。
「相変わらずふざけた奴等だ」
瞬は舌打ちして写真を机に置いた。
「場所は分かっているのですか?」
「一応予想は立てているよ。 2つ程ね」
「今から戦力を分けると」
「流石は蓮ちゃん。 察しが良いね」
学園長はそう言って微笑むともう一度カレンダーを見た。
「昨日の夜の時点で3日後と言っているので殺るとしたら明後日だね」
「わざわざ知らせてきた理由は何でしょう? メリットが有るとは思えない……」
学園長はそれを聞いて頷いた。
「確かに相手の襲撃は少なからず不利になる。 もしかしたらこの学園が手薄になるのを狙っているのかも知れないね。
もしもの時に備えて僕と椿が学園に残る。
瞬、武君、章平君、凛ちゃんにはショッピングモールに向かってもらうよ」
「待って」
学園長の言葉を聞いて、美歌がそう呟いた。
「私と凛は別行動なんですか?」
「現状ではそうなるね」
「だったら私はこの作戦には反対です。
わざわざ相手が知らせてきたということは相手は嘘か総力戦になる可能性が高い。
そんな危ない所に凛は行かせられません」
美歌がそう言うと椿は小さくため息をついた。
(やっぱりか……)
「大丈夫よ、美歌。 別に凛ちゃんが1人で殺り合う訳じゃないわ」
「駄目。 十分に危険よ」
美歌は即答すると横の椅子に座っている凛を自分の膝の上に座らして抱きしめた。
「美歌ちゃん。 君の言う通り今回は総力戦になる可能性もある。 だからより凛ちゃんの力が必要なんだ」
「私は凛と一緒には行けないんですか?」
「美歌ちゃんには駅に向かってもらうよ。 その方が君の力が存分に発揮できる」
「私は別にどこでも戦えますよ」
「もちろん美歌ちゃんの強さは知ってるよ。 だからこそそちらを任せたいんだ」
学園長の言葉を聞いて、美歌は更に強く凛を抱きしめる。
「凛を私と離すなら凛に椿を付けてください」
「それは無理よ、美歌。 私が凛ちゃんに着くともしも貴女達の方に敵の総力が集まった場合私が援護に向かえないわ」
「だったら瞬君を学園で待機させて……」
「美歌さん、それは意味が無くなります。 美歌さんが何とかならない様な奴が出てきたら勝てるのは学園長、椿さん、そして桜だけです。 俺では勝てない」
瞬は申し訳なさそうにそう言った。 美歌は少し考えるように黙り込んだ。
沈黙の中、凛は優しく美歌の背中を叩いた。
「お姉ちゃん……」
「ん?」
「凛は大丈夫だよ。 それにお兄ちゃんも一緒だし」
凛は真っ直ぐに美歌の目を見つめてそう言った。
「で、でも……」
「大丈夫だよ! 怖かったら逃げるから!」
凛の言葉を聞いて思わず全員が吹き出した。
「その通りだ。 逃げてくれても良い。 その時は僕が対処するよ」
学園長は笑いながらそう言った。
「ほら! 学園長もそう言ってるよ!」
凛は笑いながら美歌に抱きついたままずっと美歌の目を見つめてそう言った。
美歌はため息をついて凛の頭を優しく撫でた。
「じゃあ……気をつけてね」
「うん!」
凛が頷くと椿は安心した様に小さく息を吐いた。
(どうなるかと思ったわ……)
「詳しくは今日の夜に話すよ。 でもメンバーの振り分けは僕が決めて良いかな?」
「凛には七人の白き暗殺者を2人以上付けてくださいね……」
「覚えておくよ」
学園長が優しく微笑んでそう言って作戦会議は終わり、皆は部屋から出ていった。
「ホントにわがままね……」
椿は美歌の隣に立つとため息混じりそう呟いた。
「だって心配だもの……」
美歌は楽しそうに章平の手を掴んで走り回っている凛を見つめてそう呟いた。
「凛ちゃんの護衛には俺達は頼りないですか?」
美歌の横に立っていた瞬は少し笑いながらそう言うと、美歌は首を横に振った。
「もちろん信頼してるわ。 けど今回は相手の戦力が分からないから怖いのよ」
「凛は命に変えても守りますよ」
「別に瞬君がそこまですることは……」
「いえいえ、俺は美歌さんの言うことなら何でも聞きますよ」
瞬はそう言って振り向くこと無く手を軽く振って階段で下の階に降りて行った。
「相変わらず真面目ね」
「と言うよりは恩は絶対に返すって子ね」
章平と武が瞬について行ったので凛は美歌の所に戻ってくると美歌に抱きついた。
「お姉ちゃん、食堂行こ!」
「ほいほい。 じゃあね、椿」
椿は微笑んで手を振り、美歌達はエレベーターで下に降りて行った。
「部屋で少しゆっくりしようかな」
椿もゆっくりと自分の部屋に戻った。
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