白き昇格戦
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「もしも辰也君が旦那様になってくれたら僕も心配しないで済むんだけどね」
「あはは。 確かにもしもの話ですね」
男性の言葉に少年はそう答えた。 父と息子の様な2人は笑いながら歩道を並んで歩いていた。
「叶うはずの無い無謀な願いだな」
男性はそう言って小さくため息をついた。 そんな男性を見て辰也は優しく微笑んだ。
「もしも結婚出来たら……幸せにしてみせますよ」
少年はそう小さな声で呟いた。
(約束しますよ……。 優也さん……。
ってあれ……?)
辰也はゆっくりと目を覚ました。
(夢か……)
辰也は自分に密着して寝ている優衣を起こさないようにして少し足を伸ばすと1つ欠伸をした。
辰也が少しだけ動いても優衣は気にすることなくすやすやと眠っている。
(今は……7時か。 昇格戦は確か9時からだよな)
辰也は優しく眠っている優衣の頬をつついた。 すべすべで触り心地が良く、ぷにぷにと柔らかい。
辰也は手を広げて優衣の頭も優しく撫でた。 一晩はたったがまだ髪からは蕩ける様な甘い匂いが漂ってくる。
「お兄ちゃん……」
優衣は眠ったままそう呟き、辰也は優しく微笑んだ。
(何の夢を見ているのかね……)
辰也は優衣の体を抱き寄せた。 わき腹に優衣の大きな胸が当たり少しドキっとするが辰也は優衣を抱き寄せたまま手を優衣の横腹に移動させた。
(あんまり朝御飯食べた直後に戦わない方がいいよな)
辰也はそう思い、優衣の体を優しく揺さぶった。
「優衣。 そろそろ起きた方が良いぞ」
「ん……お兄ちゃん……?」
優衣はゆっくりと目を覚ますと辰也から少しだけ離れて、いつも通りとても無防備な格好で伸びをすると辰也に再び抱きついた。
「朝御飯食べた直後に戦わない方が良いかなって思ってさ。 まぁ少ししたらご飯食べに行こう」
「ふわぁ……今何時?」
「7時ちょい過ぎ」
「……もうちょっと寝る」
優衣はそう言うと辰也に寄り添ったまま目を閉じた。
「おいおい……」
辰也はため息混じりに呟いたが既に辰也の手は優衣の頭を優しく撫で、もう片方の手は優衣の背中をとても優しくリズミカルに叩いていた。 優衣は既に寝息を立てている。
(無意識に寝付かせてしまった……)
辰也は小さくため息をつくと優衣の手を優しく自分の体から離してベッドに寝かし、辰也はトイレに向かった。
(瞬の昨日のスピード……あれは金倉英里奈とやり合った時よりもスピードが上だった。
本気でやったことがないって言うのはそう言うことなのか……?)
辰也は手を洗って部屋に戻ると優衣が再び無防備な格好で伸びをしているところだった。
「あ、お兄ちゃんおはよ」
「おはよう。 優衣」
辰也が優衣の横に座ると優衣は辰也の方を向いて辰也の膝の上に座った。 優衣はそのまま辰也の体を抱きしめて自分の体を密着させた。
「お兄ちゃんあったか~い」
「優衣もあったかいけどな」
辰也は笑いながら優衣の頭を優しく撫でると優衣も嬉しそうに笑った。
「そう言えば昨日は割りとお兄ちゃんと一緒だったね」
「離れちゃう予感がするとか言ってたけどな」
辰也がそう言うと優衣は少し頬を赤らめた。
「た、たまには勘も外れるもん!」
「まぁ外れて良かったじゃん」
辰也はそう言って優衣の体を更に抱きしめた。
「お兄ちゃん……」
優衣は幸せそうに呟くと辰也に体重をかけてゆっくりとベッドに押し倒した。
「優衣?」
「お兄ちゃん大好き!」
優衣は仰向けになった辰也にぎゅうぎゅうと体を押し付ける。
「優衣。 そろそろ朝御飯食べに行こうか」
「はーい」
優衣は辰也の上から移動すると辰也に背を向けて服を脱いだ。 思わず目を奪われてしまう様な綺麗な肌が露になり、優衣は腕で自分の胸を隠して顔だけ辰也の方を向いた。
「お兄ちゃん……バッグから服取って……」
「取ってから脱げよ……」
辰也は優衣のバッグから服を取り、優衣に渡した。 優衣は手だけで胸を隠しており、手を掴んで万歳でもさせたら胸が露になってしまうような格好である。
「お兄ちゃん恥ずかしいから……あんまり見ちゃだめ」
「昨日は恥ずかしがってトイレで着替えたのにな」
辰也はそう言って自分のバッグからも服を取り出した。 優衣は辰也が服を取り出している間に服を着てミニスカートを穿いた。
「今日はお兄ちゃんと戦うことになるかな?」
「もし戦うことになっても手は抜かないからな」
辰也が笑いながらそう言うと優衣も笑いながら辰也に抱きついた。
「優衣だって手加減しないもん!」
「まぁ当たらなかったらそれはそれで良いけどな」
2人は食堂に向かうと朝食を取り、一旦部屋に戻ってから訓練室に向かった。
「お兄ちゃん。 対戦相手発表されたよ」
そう言って優衣は辰也に学園から支給された携帯電話を見せた。 辰也は一通り目を通すと安心した様に小さく息を吐いた。
「俺と優衣は当たらないみたいだな」
「うん。 お兄ちゃんとの勝負はまた今度だね」
辰也と優衣が訓練室に着くと、多くの生徒が訓練室で特訓をしているようで訓練室はほぼ満室状態だった。
「多分対戦相手のみんなが入ってるな」
「負けられないね。 お兄ちゃんも頑張ろ!」
「あぁ。 優衣もな」
2人は一緒に訓練室に入り、少し体を動かしてからもう一度部屋に戻った。
「なんか緊張してきちゃったよ……」
「そんなに固くなるなよ」
辰也はベッドに寝転ぶ優衣の頭を優しく撫でた。
「じゃあ……お兄ちゃんもリラックスしないとね」
優衣はそう言うと辰也に寄り添って辰也の手を自分の胸に押し当てた。
「ちょっ!」
「リラックス出来るでしょ?」
「余計に緊張するわ!」
辰也は優衣から手を振りほどくと優衣の頭を優しく撫でた。
「優衣はお兄ちゃんのお嫁さんだから、いつでも触って良いんだよ?」
「今は遠慮しとく……」
辰也はため息混じりにそう言うとゆっくりとベッドから立ち上がった。
「いよいよだね」
「あぁ……行こう」
2人は巨大なスタジアムに向かった。
エレベーターの扉が開き、辰也と優衣が降りると近くに瞬と章平が立っていた。
「よう。 辰也。 優衣ちゃん」
「おはよう。 瞬。 章平」
「「おはようございます」」
優衣と章平は同時に頭を下げた。
「辰也。 いきなりで悪いが俺はもうお前とは特訓しない」
「え?」
瞬の言葉に辰也は戸惑った。
「元々最初の昇格戦までと決めてたしな。 もちろん絶交するわけじゃないから相談とかなら何時でも乗るさ。
だけど今まで様に付きっきりではいられない」
「あの眼鏡の女の子に言われたのか?」
「半分正解だな。 あんまり辰也と優衣ちゃんを甘やかす訳にもいかない。 そう学園長に言われてな。
もちろん分かってると思うがポイントを集めるにはこの昇格戦以外に自分から勝負を挑む物があるが……当然今の辰也と優衣ちゃんの挑戦は俺たちは受けない」
「ポイントが低いから……か?」
「そう言うことだ」
瞬がそう言うと会場内にコールが鳴り響き、辰也は何も言わずに階段を降りていく。 観客は章平と武が戦った時ほどではないが100人近くはいた。
辰也は扉を開けてステージ内に入った。 既に目の前で対戦相手は辰也と向かい合う場所に立っていた。
「剣士の装備を展開!戦闘を開始する!」
《指紋認証&音声認証クリア。嵩霧辰也。適正ユーザーです。装備を展開します》
辰也の服装が変化していき、それに合わせて対戦相手の服装も変化した。 手には少し大きめの銃が握られている。 そして周りには市街地を想定したものなのかビル等が形成されていく。
《戦闘開始!!》
開戦のコールが鳴り響き、対戦相手は建物の陰に隠れようと横に走り出した。 辰也は特に追うような素振りは見せず、ただ剣を構えた。
(銃手は一定の距離を取りたがる。 そして剣士の間合いの外から銃弾で削り倒す。 だから……!)
辰也は剣を床と垂直に振り抜いた。 斬撃が相手の行く手を阻むように襲いかかり、相手は少しビビる様に後ろに下がった。
「バウンド」
次の瞬間辰也は相手の胴体を一刀両断するように剣を水平に振り抜いた。 見事に辰也の剣が相手の胴体を捉え、バウンドの勢いも攻撃力に繋がり、相手の服装は元に戻った。
一瞬の静寂の後、会場には歓声が巻き起こった。
「今の見えた!?」
「明らかに下位の動きじゃない!」
観客が辰也に注目するなか、辰也は気にすることなくエレベーターの近くにいる瞬の方を見つめた。
半ば睨み付けるような辰也と目が合うと瞬はニヤリと笑ってエレベーターの方を向いた。 章平も楽しそうに微笑みながら瞬の後をついていく。
「「頂点」で待ってるぜ。 辰也……!!」
久し振りに戦闘描写を書いた気がする……。
魔力大戦~magical world~を書いてた頃は向こうで書いてたので久し振りと言う感覚は無かったのですが……
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