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時が止まったかのように見つめ合うこと数秒、はっと睦は我に返り目を、顔を背ける。
「いや、顔真っ赤にされても……なんなんだよおまえ」
寝癖でボサボサの頭を搔き、さもつまらなそうに睦を見下ろして言う。
「あ、えっと、今日からここで働くとか働かないとかっていう……なんて言うか……」
「うん? 掃除の業者か?」
「いや、そうではなくて、その」
「なんだよ。はっきり言えよ」
「えーっと……」
ここで、ようやく顔を上げ、改めてその少女の顔を見る。
視線を逸らした少女の瞳は、眠たそうなタレ目に長いまつ毛が縁取られ、幼い印象ではあるが目鼻立ちのしっかりした人形のような雰囲気をまとっていた。
少女が目を逸らしてくれていたおかげか、徐々に冷静さを取り戻してきた。
――――あれ、この子もしかして僕より結構年下なんじゃないか? よく見たら身長もかなり低く見える。僕が170cmだから……
そんなことを考えながらおもむろに立ち上がると、完全に少女を見下す格好になった。
「……なんだよ」
「わ、思ったよりちっさ……」
なんてことを口走った瞬間、むこう脛を蹴っ飛ばされ悶絶。しゃがみこんで少女に見下される格好に逆戻りした。
「いいったぁぁ……なにするんだよ……」
「うっさい。今のはおまえが悪い。ていうか初対面で失礼なやつだな」
これ見よがしに溜息を吐き散らし、ついと顎をしゃくって鉄扉を指す。
「とりあえずボク寝る時間だからそこどいて。この夜ずっと働きっぱなしなんだよ」
「あぁ、だから不機嫌なのか」
「不機嫌なのはおまえのせいだバカ!」
脇腹にトゥキックをねじ込まれ、睦が若干の呼吸困難に陥っている隙に少女はそそくさと鉄扉の中に入って行ってしまった。
脇腹に響く鈍痛で起き上がれず冷たい廊下に寝転がったままでいること数分。なんとか仰向けになり、起き上がるタイミングを見計らっているとパタパタと足音が聞こえた。直後、管理人室から栗色の長い髪にゆるいウェーブがかった美人が現れた。運悪く、ミニスカートで。
「……き」
「ちょ」
「きゃああああああああ!!」
――――ちょっと待て。と言うよりも先に持っていた書類を投げつけられ、甲高い悲鳴が悲し気に狭い廊下内に響き渡った。