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スーツの胸ポケットから取り出したハンカチで先ほどから一向に止まることのない冷や汗を拭い、ふと目に留まった腕時計を見る。
「え、まだ5分も経ってないの?」
すでに経過した時間と失われた体力が余りにも釣り合わないことに溜息をひとつ。だが、まだ覗いた部屋は一部屋のみ。睦はぐるりと廊下周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、ひたひたと静かに次のドアへ歩み寄る。
――――あれ、鍵がかかってるな……
ドアノブを引っ張ってみるが、ドンと重低音が無人の地下内に響くだけだとわかるとすぐさま忍び足で次の目的地へと向かう。
――――なんだろう、なんか、ドキドキするけど、た、楽しいかも……?
徐々に足取りが軽くなり、ドアの開閉チェックは捗ったものの、施錠されたものが続き、次第に奥の方へと吸い込まれるように進んでいく。
――――ここ、なんか他の場所と違う?
廊下の突き当たりを向いて左側に非常階段、右側に管理人室、そして正面に部外者立入禁止の札のついた部屋があった。その突き当たり正面のドアは、他のものと違い、重厚感溢れる鉄製のドアで物々しい雰囲気を漂わせており、段々とスリルに快感を覚えてきた睦にとって、非常に好奇心を掻き立てられるものだった。
立入禁止……ゴクリと生唾を飲む。一番最初のドアを開けるときのような巨大な背徳感と好奇心に駆られ、心拍数が上がる。じわりじわりと滲む汗を握り、緊張感から思わず顔がにやける。
さて、どうしたものか……などと迷う前にドアノブを回していた。
ガチャリ……ズ、ズズ……
重たいドアを引き開け、恐る恐るその隙間から中を覗き込もうとしたその時、
「おい、おまえ、なにやってんだ」
「うわあああああ!?」
瞬間、振り返りながら思いっきり後方に飛び退き、勢いで鉄製のドアがゴオオオンと重低音を轟かせて閉まる。ついでに後頭部を打ちつけるがそんなもの、その時の睦にとっては些末な事だった。腰が抜け、ズリズリと床に腰を下ろしながらも、両手を前に突き出して必死の抵抗を試みる。
「ご、ごごごめんなさい! その、わ、悪気はなくって、あの、暇だったので、つい!」
「はぁ? 暇だったらヒトンチ覗くワケ……? どういう教育受けたらそうなるんだよ……」
「へ? ひ、ヒトンチって……人ん家?」
おずおずと顔を上げる。
そこにはスウェット姿の黒いミディアムヘアーの少女が呆れ顔で立っていた。
睦と目が合うと、コクコクと小さく2度頷いて肯定のポーズ。そして小さな溜息ひとつ、
「とりあえず、おまえだれだよ」
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