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 雲一つない快晴な上に日曜日ともなると鈴城市で唯一の繁華街ともいえる美澄町は、老若男女様々な人が行き交い、にぎわっていた。

 その弛緩した雰囲気にポツンと場違いなスーツがうろつけば目立つのは当然だ。

 不思議そうな視線をチクチクと背中に感じながら、半ば逃げ込むようにエレベーターに飛び込み地下2階のボタンを押し、壁にもたれかかって一息。


「はぁー……なんだかこれだけで疲れたな」


 扉が閉まるのを確認し、ふと腕時計に目をやる。

 現時刻は8時30分。

 指定された時間より30分早い。


「うん、まぁ初日だしこんなもんだろ」


 そう言っている間にポーンと軽快な電子音がエレベーター内に響き、目的地への到着を知らせる。


「き、緊張するな……」


 ゆっくりとドアが開き、COFのオフィスへと続く廊下へと出る。

 人の気配はない。

 

「……早すぎたかな?」


 電気は点いているが、物音ひとつなくその無音が睦の不安をもう一層掻き立てる。


「すみませーん。内定通知を頂いた者なんですけどー……どなたかいらっしゃいませんかー?」


 返って来るのはわずかに反響する自分の声のみ。

 冷たい汗が背中を伝う。

 

 ――――咲の言うようにおかしな企業かもしれないし引き返すか? いや、でもせっかく来たし……


 帰りたい気持ちとどんな企業か覗いてみたい気持ちがせめぎ合い、エレベーター前を2往復3往復。時折立ち止まっては3、40メートルは続く長い廊下の先を睨んでみる。


 ――――ああーもう。


 背中を丸め、誰もいないはずの廊下を足音を殺して進む。

 エレベーター前にすぐ備え付けられた受付カウンターには2名分の椅子と筆記用具が置かれていたがもちろん人はいない。すぐに視線をさらに先へと向け、さっそく一つ目のドアにたどり着く。


 ――――わずか数歩なのになんなんだこの疲労感は……


 自分は泥棒などには向いていないなと心の底から思いながら、一呼吸。ドアノブに手を掛けると簡単に開いてしまった。


 ――――えええ、うそだろ、開いちゃったんだけど……


 恐る恐る片目で覗き込むとそこには――――


「誰も……いないな」


 よくよく見てみるとドアには『入社式会場』と書かれた張り紙があった。

 肩をなでおろし、中に入るとまた不安に駆られるような光景が広がっていた。


 ――――だだっ広いホールに椅子が……2つ……僕のほかに1人だけ!?


 睦は眩暈を覚えたが、こんなところで行き倒れる訳にはいかないとすんでのところで踏みとどまる。スクリーンと演説台とそれらの方を向くように設置された椅子2脚だけということを確認した睦は、広い部屋に自分一人だけということに居心地の悪さを感じ、そそくさと出てしまう。


 ――――あぁー……もう、早く誰か来ないかな……


 一人、静寂に包まれた廊下でうなだれていた。


 

お読み頂き有難う御座います。

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