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明け方とはいえ、鳥の声すら聞こえない深い闇の中。
『内定通知書』が届いてからというもの、何度も読み直すが腑に落ちない。今も頭を切り替えて読もうと、お気に入りの場所にて再度目を通している。それもここに来て3周目の頃だった。
「いや、どうみても怪しいだろうこれは」
思わず大きな声が出て自分で驚く。
彼が生まれ育ったこの鈴城市について、22年間も過ごしてきたということもあり、彼はある程度のことは把握済みだと自負している。ましてや、地元から出たくないという閉鎖的な思考から、地元企業を中心に就活していたことや、親戚の叔父に訊いて回る、役場にまで行ってどんな企業があるのか、と思いつく限り調べていた。
にもかかわらずこの「COF」って会社名は一度も見たことがない。
この通知書の下方に入社式が行われるオフィスの住所が書いてあるのだが、この鈴城市では飲食店や娯楽施設、ファッションビルが立ち並ぶ最も栄えている美澄町になっている。それがどうも胡散臭い。睦は目を細め、その住所をにらみつけながら美澄町を想像散歩してみる。
「あそこか……? いや、どう考えてもあそこに会社のオフィスなんてないだろ……」
これで何度目になるのか、睦はもやもやする気持ちを落とそうとするかのように乱暴に後頭部を搔いた。次いで大きな溜息を吐き散らかす。「あーあ」とつまらなそうな声を漏らし、芝の上に大の字になった。
目を閉じて数秒。秋の訪れを感じさせるような柔らかい少しひんやりとした風が鼻先をかすめていく。
大きく深呼吸をし、弛緩した雰囲気にまかせてうっすらと目を開くと、ふんわりとした月明かりが心地いい。いつまでも眺めていられるな、そう思ったちょうどその時、一つだけふわふわと浮かぶ小さな雲が月と睦の間に流れてきた。
「なんかすっきりしない日だな……」
その元凶に目を戻す。
「大体なんだよこれ。入社式が明日ぁ? どこの世界の企業ですかって話だろ……そのへんのバイトじゃないんだから内定! 入社! なんてハイテンポってありえないだろ普通に考えて。……それに、持ち物は特になし。服装は自由……?」
睦は頭を抱え、絞り出すように祈りの言葉を口にする。
――――どうか、朝になりませんように……