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孤独な想いの終着駅

作者: 亜麻猫 梓

心の整理に使いたかっただけなのでストーリーもへったくれも無いです

   1


―― ガタン ゴトン ガタン ゴトン、


 鉄で作られた大きな車輪が、地面に敷かれた二本のレールの上を転がっている。

 そして、その車輪の上には、やはり鉄で作られた大きな箱がどっしりと乗っかっていた。

 それがいくつも管のように連なって、まるで大蛇のような鋭い眼光を前方に光らせながら、ただひたすら導かれるように前へと走っていた。

 その箱を仮に車両、列車と呼ぶならば、私はその中にいた。

 内装はいたって質素な作りをしている。

 木材の床に木材の座席。それらが車内全てにびっしりと配置されていて、側面には窓ガラスがいくつもあった。

 私はそんな列車の、何号車なのか、一体どこの座席なのかも分からないところに座っている。

 あまり座り心地が良いとは言えない緑色のボックス席のシートから見える景色は、どこまで行っても黒。

 黒一色でしかなかった。

 けれど私は、それを変化の無い退屈なものだとは思わなかった。

 ただ何も考えずに頬杖を付くだけで、全てから開放される気さえした。


―― ガタン ゴトン ガタン ゴトン


 車輪がレールの繋ぎ目を通過するたび、規則的な心地良い音色が自らの鼓膜を刺激する。

 疲れきって動かない身体にはそれだけで眠気を誘う効果が十分にあった。

――このまま寝てしまおうか。

 そんなことを頭の片隅で考えていた。

 だが、ふとそこで脳裏に何かが過ぎった。

 それはほんの少しだけ私の心をチリチリと炙り、もはや慣れてしまった鈍痛を意識させた。

――あぁ、まただ。あの感情だ。

 心の中でゆっくりとそう呟いた。

 そして、静かに目線を自分の掌に向けてみる。

 すると記憶を辿るようにして、全部忘れて完成させまいとしていた、とあるパズ

ルのピースが浮き上がってくる。

 この列車が何なのか、詳しいことは何も知らない私だった。

 気付いた時にはこの車両に乗り合わせていたし、どこから出発していて、どこに向っているのか、はたまたどこが終点なのかでさえ私は把握していなかった。

 だが、最初にこの車両を意識した時、何の前触れも無く隣にいた車掌があることを言っていたのを思い出す。


『この列車は、彷徨い朽ちる時をただ待つだけの、想いを運ぶ列車です』


 今乗っている列車を最初に意識した瞬間の数秒後、前触れも無く左側に立っていた柳の木のような細く背の高い不気味な男がそう言っていた。

 あの時はまだ混乱するばかりで、まともに状況が掴めていなかった。

 だから、慌てて情報を収集しようとして話しかけたのだが、しかしその車掌は私に一瞥もくれることなく去って行ってしまったのだ。

 あとには私ただ一人が取り残されて、他の乗客は殆どいないらしく、まばらだった。

 結局、ここが何であるのかをろくに把握することも無く、さりとて疲れきっていたのもまた事実であった為、特に何をするでもなく今に至る。

 わけだが、

「彷徨い朽ちる想い……ね」

 その言葉の意味するところは刹那的に理解していた。

 それは人である以上避けては通れない感情で、それはまさしく魔法のような、言い換えれば劇薬のような強い感情。

 そう、私は人を好きになっていた。

 だが、強い感情は時として暴力にすらなり得てしまう。

 その果てに辿り着いた結末は、とてもよくあるお話で、誰もが必ず落ちるであろう悲しみの牢獄。

 私はそう、


――大切な人を失ってしまったのだ――


 失ったといっても、何もこの世からいなくなった訳ではない。

 だが、ある意味で一つの世界からいなくなったという点では同じだった。

 この列車のことを相変わらず私は知りえないが、あの車掌の言っていたことがその通りであるならば、私は一度あの時からの全てを振り返ってみるのも悪くないのかもしれない。

 だから、ここからは独りよがりな独白になる。

 それでもいいでしょう?

 どこぞの神様?


   2


不器用な君に恋をした

そう思っているのは私だけ?

無邪気な優しさの中にそんな

ぎこちない光を見たのは私だけ?

でも、私は悲しいかな

君の放つその光は街灯の放つそれだから

私はそんな温かさに寄ってきた

無様な蛾のそれだから

たとえ私が想いを告げずとも

君はいずれ君自信の

防弾ガラスで私を

殺してしまうんだよ


君は誰といても孤独だ

と言っていて

だからこそ嬉しかった

と言ってくれた

それは私も同じだよ

だから私もわくわくしたよ

こんなに不思議な人に出会ったのは

生まれて初めてだったんだ

仲間だと言ってくれた

私と似ていると言ってくれた

私も嬉しかったよ

でも私は違ったよ

似ているとは思わなかった

仲間だとは思えなかった

そう思えなかったのが

全ての間違いだったんだ


君は本物の愛を欲していたね

私もそうだったよ同じだよ

でも、君の求める本物の愛って一体?

本物って何なんだろうね

私の気持ちは本物なのかな?

それとも不純な偽りなのかな?

どちらでも私は構わないよ

君が好きなのに全く変わりは

無かったのだから

でも、ごめんなさい

私はただ全てに謝りたい

謝るほどに君を困らせる

のだとしても

君の平穏を壊したのは俺だから

私はただ自己満足に自惚れる


   3


 言葉にすれば簡単に壊れてしまう関係なんてものは所詮有っても無くてもどちらでも構わないと私は考える。

 過ぎ去った出来事に、受け入れられなかった想いにいつまでも未練たらしく縋るのは愚の骨頂。

 そんな暇があるのなら前を向け。

 言葉にしても、それを虚しく自己が否定する。

 引き摺った時間の長さが私の想いの尺度なら、本気だったことを自分自身に証明するためにもいつまでもずっと引き摺りたい。

 でもそれは自虐でしかなく、生産性の無い上に後ろ向きに歩いている状態だ。

 そんなことではこれから新しく愛することになるかもしれない人を逃すことにも繋がってしまう。

 つまりは、未練と理性の狭間でぐるぐると廻るだけ。

 でも、とりあえずは廻るだけ廻って生きたいと私は考える。

 思考することは人間に与えられた特権だから。


―― ガタン ゴトン ガタン ゴトン


 それは色と呼べる代物なのだろうか。

 見た限りでは、窓から見える景色は黒一色の闇だった。

 しかし、それはあまりにも黒く暗すぎて、それ自体を色と認識するのが何だかおこがましい様な気さえした。

 何時間が経っただろうか。

 私はただぼうっと窓の外を見つめながら全てを思い返していた。

 けれど、外の景色は一向に変わる気配を見せず、相変わらずの暗闇が生み出され続けていた。

「駅に着くには、やっぱり吹っ切れないと駄目なのかな……」

 だとしたら、まだまだ時間が掛かりそうだった。

 私はまた、ふと自分の掌に視線を移してみた。

 カサカサと乾燥した肌は何を掴んでもすべり落ちそうで儚げだった。


 暗闇の中を列車が走る。

 それは数多の彷徨う思いを乗せて、どこまでもどこまでも。


―― ガタン ゴトン ガタン ゴトン


                                (終わり)

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