八月‐某日
俺の兄が突如宣言したデスゲーム(笑)――ログアウト不可だがゲームの死≠現実の死のVRMMO――が始まってから、一か月弱が過ぎた。
この世界に囚われた十五万もの人々は、大まかに4つの部類に分かれた、と思われる。
まず一つ目は、俺の属する「先発組」と呼ばれる奴らだ。
これは、ゲーム開始当日、もしくはその次の日には《オリジン》を出た者たちだが、総数はおそらく1万にもいっていないだろうと思われる。その大半が、βテスト経験者だ。βテストとの差異があるかなどを逐一確認して、情報を流しているパーティもあるらしい。
そして、その情報などをもとに狩りなどをして生計を立てたり、先発組に追いつこうとパーティの力を伸ばしたり等々……理由は様々だが、現在先発組より多少遅れて攻略をしているのが二番目の「後発組」。
すでにギルド――まだギルド結成はできないのであくまでも「ようなもの」だが――を作り、大人数で行動するグループもあるらしい。
後発組は現状、すでに四万人は超えたと言われていて、現在もその数を増やし続けている。
三番目は、街の中で「暮らす」者たちだ。
このゲームにあるすべての町や村には、大小さまざまな、いわゆる“お使い系”などの戦闘を必要としないクエストが多数存在する。特に東端の大都市である《オリジン》には、それこそ無限とも思える数のクエストが存在する。複数こなせば、少なくともその日は宿屋で泊まり、三食食べることも――もちろん安いものだが――できなくはない。
それに加えて、街にいる生産食NPCに、所謂「弟子入り」した純生産者プレイヤー――戦闘能力を持たない完全な生産者――もこの枠に入っている。
彼らはPC・NPC関係なく良い関係を築き、この世界を「暮らしている」といえる。
生産者含め、およそ三万人程度。
そして四番目は、言ってしまえば「その他」だ。
宿屋にひきこもり、外からの助けをひたすら待つ者。それに加え、最近はNPCを見下して問題を起こしてクエストが受けられなくなったもの、複数での恐喝などで金を奪い取る奴らなど、治安などにも問題が出てきている。
もっとも、オリジンにはかなり強力な騎士団が常駐しているため、そんな奴らが締め出されるのも時間も問題かと思われるのだが……。
さて、そんな現状を説明したわけだが、俺たち先発組の攻略は……実のところ、あまり進んでいない。
――そう、この現状を一言で言えば「広すぎる」のだ。
具体的な比率は分からないが、ちょっととなりの村に行くのにでも数日はかかるほど。βテスト時より十倍広がっていると言われても十分信じられるほど、この世界全体が広くなっているのだ。
いや、本当に十倍は広がっているのかもしれない。
βの時は、二週間あれば例の“塔”にたどり着くことができた。
しかし現状は、まだまだ序盤もいいところであり、RPG風に言えば、せいぜい「二番目の町」くらいの場所だ。
βから多少なりとも変更があるのは、MMOでは必然と言えるが、流石にこの現状は全く予想できなかった。
それに加えとある原因で、「先発組」の中でも最先端を走っている、数パーティとソロ数名の総勢十五名(俺含む)は、オリジンから西に少しばかり行った小都市にて足止めを食らっていた……。