始まり‐とてつもなく面白いこと
「皆さんは、このゲームから自発的にログアウトすることはできません」
その言葉には、誰も声を上げない。何を言われたのか、理解できていないのだ。
「一部の方々は気づいていると思いますが、メニューウィンドウには現在、ログアウトボタンが存在しません。しかしそれはバグなどではなく、私がプログラムした、本来のゲームの通りの設定です」
話が続く。
「皆さんは自発的にログアウトすることはできません。また、外部からネットを切断、外部からの充電がなくなるなどと言った場合、あなた方が着けているIWAが脳を焼き切ります。ただし、このゲームの世界の中で死んだとしても、現実の肉体が死ぬわけではありません。――ああ、もちろんHPが0になった場合は、町に転送されますよ。死の代償はありますが」
なるほど。つまりこれはデスゲームではなく、単純にゲームの中に閉じ込められたと言うわけか。デスゲーム(笑)だな。などと俺は少しずれた思考をしていた。
「あなた方が解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすることです。そうすれば、ここにいるすべての者は安全かつ速やかに解放されるでしょう」
プレイヤーの一部が叫び始めていた。詳しくは聞き取れない。
「ああ、それとこのゲームの特別仕様として、現在のこの時間からゲーム内の時間の進行が一千倍ほど速くなります。こちらの世界で千日たつと、現実世界では一日たつ、と言うわけですね」
プレイヤーはこの言葉に驚いた。無論俺もだ。そんな技術があったなんて、聞いてないぞ。
「ええっと、これで説明事項はすべて終了ですね。じゃあみなさんの健闘をお祈りします」
プレイヤーたちからの声がさらに大きくなる。いろいろあるようだが一番聞こえたのは「なぜこんなことをするんだ」と言う問いだった。
兄もそれが聞こえたのだろう。苦笑しながら言葉を返す。
「何故こんなことをしたのか? そんなの決まっているでしょう――」
俺にはそのあとの言葉が、簡単に予想できた。いつも言っている彼の言葉。
「――面白そうだからですよ」
予想を裏切らず、そういって彼は完全に姿を消した。
プレイヤー達は呆然とし、泣き叫び、怒り、逃げ出す。
怒号が聞こえ、広場はつい数分前まであったにぎやかな雰囲気を一瞬で失った。
十五万もの人が、このゲームに閉じ込められたのだ。
「おもしれえ……! 本当に流石のセンスだよ……!」
しかし俺はそれには含まれない。俺は今目の前で起こったことに震えていた。
こんなに面白いことがあるのに、何故悲観的になる必要がある。最高じゃないか。
俺は喧噪に包まれる広場に背を向け、歩き出す。
ただゲームの世界に閉じ込められただけ。死んでも生き返るなんて、優しい設計じゃないか。それに恐れる必要がどこにある。
風が吹き、長い髪がなびく。俺は顔に笑みを浮かべ、街道を一気に走り抜ける。
ゲームの攻略。それしか生還の道が無いのなら、そこに進んで見せるさ。
兄貴を一発、殴らないと気が済まない。
なんでこんなに面白いことを黙っていたのか、とな。
次章に続く