始まり‐お肉
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俺は町の付近にある草原で、まったりと狩りをしていた。急所を的確に太刀で攻撃し、目の前にいる狼の体力ゲージを一気に減らす。相手がそれにひるんだところにさらに追い打ち。目の前の敵は、あっけなく砕け散った。残ったアイテムは毛皮。
狼の正式名称は《ウルフェン》と言い、lv3の低レベルモンスター。今のように的確に急所――相手の首や心臓、頭など――を攻撃すれば、lv1と負けている俺でも簡単に勝つことが出来る。もっとも、大抵の人はリアルなモンスターに驚いて冷静でいられないのだが、βテストで慣れた俺にとっては大したことは無い。墓フィールドでゾンビ相手に戦ったときに比べればこんなもの、とまで思ってしまう。
そんなことを思い返しながら、群れで襲ってきたウルフェンを半ば自動的に切り倒す。
戦闘が終わったとき、頭の中で音が響いた。
「あ、レベルアップしたのか」
いつの間にか、lv2に達していた。
技能一覧を見る。スキルポイントがレベル上昇に伴って1増えていた。俺はこの1ポイントを使い、補助技能の“力上昇”を取る。技能には熟練度があり、長い間使うことによって――それとレベルアップなどの経験値を積むことによって――その技能自体のレベルが上昇する。技能のレベルが上がれば、その分効力も強くなるので、この先使うような技能は早めに取っておいた方が良い。
ちなみに、技能には一つの主武装と二つの補助武装の技能以外、個数制限はない。趣味のスキル、生産系、それと補助系などはいくらでもとることが出来るのだ。それでもスキルポイントを消費するので、いくつも適当に取るわけにはいかない。また後々とれる強力な派生技能――技能のレベルによって取得可能になる上位技能――などは取得するのに多くのスキルポイントを使うので、無駄遣いはできないのだ。
できれば料理の技能より初期技能に力上昇を入れたかったのだが、それはいまさら言っても仕方がない。どうせlv5までは簡単に到達できるのだ。
それに、料理スキルがあれば、こんなふうに楽しく遊ぶことが出来る。
「さっきとった狼の肉、焼いて食おうか」
転がっていた数本の枝を集め、初級火魔術の“火花”で燃やす。そして、料理技能の欄から加工:肉を選び、目の前の焚火で焼く。
少し待ち、一枚取ってみると《こんがり焼けたウルフェンの肉》と書いてあった。すぐさまほかの肉も火から離す。数本《真っ黒に焼けた~》や《炭となった~》と書いてあったが、それ以外は十分良く焼けているようだった。
「ん、けっこううまい」
ほおばってみると、それなりに美味しい味が広がった。初期のモンスターでこれなら、もっと高レベルのはどんな味がするのだろうか。少し楽しみになり、このスキルを入れた兄に、今回は心から感謝した。
時計を見ると、六時の二十分前だった。そろそろ町に戻っていた方が良いかもしれない。
そう思い、俺は焼けた肉をアイテムイベントリにしまって、町へ向かって移動し始めた。