始まり‐ステータス
その声が聞こえて俺が目を開けると、そこは俺の馴染みの空間だった。VRの初期空間である。
目の前には空中に浮いたキーボードとディスプレイがある。入力装置だ。βテスト時にも使ったので覚えがあった。
「さてと、プロフィールを入力するか」
名前は昔から使っている“レイ”にする。昔から使っているアバターネームだ。
性別は♂。その他の数項目も埋めていく。
その一番下に、各種番号、という項目を見つけた。先ほど兄から言われた番号をそこに打ち込み、決定ボタンを押す。
『――項目・アバター・各種技能決定が終了しました。ゲームを開始します――』
「技能まで決定!? たく、せっかく考えてあったのに……。いや、あの兄貴の事だから、俺の考えてた技能なんて御見通しなのかもしれないな……」
そう言っている間にも、視界は白くぼやけている。ゲームの開始の合図。
その懐かしい感覚に胸が高鳴る。
「――ま、いいか。さてさて、それでは存分に楽しませていただきますか……!」
その言葉と共に、俺は異世界へと旅立った。
◆
「で、これは一体何の冗談だ……?」
そして、俺が最初に発した言葉がこれである。
理由は単純。それも他人から見ても確実にわかることであった。
簡単に言えば、アバターの容姿がアレだったのである。
“美少女”であったのだ。
おそらく百五十と幾らか。現実の未来と同じ程度の身長だが、その黒――と言うより漆黒――の髪は腰に届くほどまでに伸びている。さらに鏡で見たところ、目など顔の各種パーツも完全に女物にしか思えなかった。
理由は確実にわかる。兄だ。
あのコードを言うときに言っていたではないか。「アバターの設定もしておいた」と。
つまり彼は、こうして弟をいじるためだけにこのアバター含めあの番号を渡したのだろう。
しかもここまで造形が良い物を。
一体、これを作るためにどれだけの時間をかけたのだろう。おそらく、余裕で一月は頑張っていたと思われる。この悪戯のためだけに、だ。
今頃、俺がこうして驚いているのを想像してニヤニヤでもしてるのだろう。
「たちが悪すぎんな、全く」
しかしアバターの変更は金がかかる。別段これで困るわけではないし――プロフィールの性別項目は♂になっていたので女子っぽい男子のアバターなのだろう――せっかくの兄のプレゼントだ。
ある意味、こんな美少女のアバターなら注目も浴びるかもしれない。――良い悪いは置いといて。
「あ、そういえば俺の技能ってどうなってんだ?」
技能。それは、このゲームで使う要素の根幹である。
技能には“片手剣”や“弓”、“魔術”などの攻撃系、“素早さ上昇”“力上昇”などの補助系、“料理”“裁縫”などの生産系の三系統がある。プレイヤーは、このうち五つを初期に選び、活動するのだ。
他の物に変えたい時、新しい技能を取得したい時は、レベルアップなどでもらえるポイントを消費して取得する。
故にこのゲームでの初期の技能選びは、とても悩まれる要素の一つとなっている。
そして俺はその重要な部分を、あの兄に任せてしまった。
さすがにここでふざけるとは思えないが……。
と思いメニューウィンドウを開き、ステータスを見る。
「やべえ……ふざけてやがる……」
そして愕然とした。俺は見てはいけないものを見てしまったような気分になる。
いつまでも町の中心地でそんなことをしているわけにもいかないので、路地裏の少し暗いところに移動して、メニューを確認する。
そこにあった技能は、
《武器:太刀》《魔術:炎》《|素早さ(SPD)上昇》《威力(ATK)上昇》《生産:料理》
の五つだった。
確かに組み合わせ事態は悪くない。主武装に太刀などの近接系、補助武装の片割れに魔術を使うのは、近接系の一般的と言われる選び方だ。補助技能の二つのうち、《威力上昇》はあまり選ばれないが、それでも良い部類に入る物だ。早めに高い威力を出したいならば、とても良い選択と言える――と、全て掲示板に書いてあった。料理を選んでいるのは良くわからないが。
そう、一般的なのだ。組み合わせの種類的には。しかし、実にふざけている。何故か? 理由は簡単だ。
初期技能で選べる技能の中に、太刀の技能は存在しない。
βテストのときから存在をうわさされていたが、その取得法は結局解き明かされなかった、刀系技能だ。
さらに言えば、炎属性も初期では選べないものの一つ、火属性の上位派生である。
「(そういえば、“絶対に刀技能とってやるからなー”とか兄貴に言ったなあ……。いや、刀使うの憧れてはいたんだけどさ……。――なんか違くねえ?)」
兄は、それをゲーム開発者の権限で無理やり叶え、そしてその代償として俺の容姿をこんなんにしたと言うわけだ。
いやはや、苦笑しか出てこない。
「まったく、面白いことをしてくれるじゃないか……」
兄ならば、こんなこといとも簡単にやってのけるだろう。製作者だから、と言う以前の話だ。たとえば、これがばれたら俺が困るとか、そんなの全く考えてない。
そしてなぜやったかと言えば、こう答えるのだ。「面白いから」と。
「昔、某アメ○カの中枢部をハッキングした時も、そんなこと言ってたな……」
面白い兄を持ったことを、実にうれしく思う。