次の日を迎えて
人生の転機となった記念日から、一夜が過ぎ去った。
現在の俺は昨日からの疲労を残したまま、キッチンテーブルでモソモソと草食動物のように朝食のパンを食している最中である。
ちなみに今の気分は、憂鬱だ。
「落ち着かない、まるで他人の家のようだ」
言葉の比喩ではない。
帰ってきた我が家の風景は、まさに様変わりという言葉が相応しい。
このキッチンルームでも一人用の小さな冷蔵庫が消えて、代わりに三十万円はする大型冷蔵庫が鎮座しているのである。
大は小を兼ねると言うし、先方としては善意からくる行為だったに違いない。
しかし俺が買い込んだ食品が野菜室の隅に追いやられているのを発見したときは、自分の境遇を連想させて切ない思いをしてしまった。
他にもクラシックな黒のカーテンが、モダンテイストなベージュに付け替えられていたり、昨日までなかったソファーが日当たりの良い窓際に配置されていた。
ソファーの対面には、大型テレビやブルーレイの再生機という娯楽もある。
だが何より変わったのは、空き部屋になっていた洋室だろう。
殺風景だった六畳のフローリングは今や花柄のカーペットが敷かれ、高級そうなシングルベッドや木目の洋服ダンス達が澄まし顔で居座っている。
そして、その様子を見て俺は初めて実感できたのだ。
自由で気ままな一人暮らしは、もう終焉を迎えたのだと。
まぁ一度は受け入れたのだ、文句は言うまい。
「ごちそうさまでした」
いつもより早い朝食を済ませた俺は、使い終わった食器をキッチンに運ぶ。
そして昨日から新設された自動食器洗い機に入れた。
……あるものは便利に使わせて頂くが、和沙さんは本当に亰花さんを自立させる気があるのだろうか。それとも、こういう補助なしでは生活できないと言う事なのか。
いや、止そう。どうせ今日の夜には判明することだ。
「さて、そろそろ出掛けるとするか」
思考を切り替えて、俺は玄関へと向かう。
部屋が模様替えしていようが、一人暮らしが終わろうが、平日の火曜に俺が成すべき事は変わらないのだ。
そう、制服を着て学校に行くという日常だけは。