デート前のやり取り
『完全に自分がデートしたくなってんじゃねーか』
という欲望の声。
それに不安を覚えた訳では無いが一応、念のためだ。
和沙さんには俺の本心を伝えておこう。
「言っておきますけど、あくまでも俺は作戦内容を支持しただけです。出来ればデートという形は避けたかったんですよ?」
「……顔が見えないから確信は持てないけど、現在の絶夜くんの頬はニヤニヤと緩んでいる気がするわ」
「心外です。むしろ、作戦内容にいくつかある問題点を一体、どうクリアするべきか思い悩んでいるくらいですよ」
「問題点?」
「設定だけとは言え、有浦さんには奈緒と同棲していると説明していますから」
「亰花を守る為のカモフラージュでしょう? それくらい有浦も察している筈よ」
「それが問題なんですよ」
「ん?」
和沙さんのみならず、奈緒や麻美も同様に理解できていないようだった。
よろしい、ならば説明だ。
「亰花を庇って、代わりに奈緒が出てきた展開を喰らった有浦さんは、自分が偵察しに来た事がバレたんじゃないのか、と考える筈です」
「……つまり有浦は、自分がスパイと疑われている事を自覚したと?」
「その可能性は充分にあります」
「まぁ、警戒心が高まっている可能性は否定できないわね」
――よし。
ソコまで理解して貰えれば、話は早い。
「じつは先程から、その問題の解決方法を考えていた訳です」
「つまり、有浦の警戒心を解す方法と言う事ね」
「はい」
「是非に聞きたいわ、教えて貰えるかしら?」
興味深そうにしているのは、何も和沙さんだけではなかった。
麻美も奈緒も、亰花でさえ俺に注目している。
そんな状況の中、俺は正々堂々ソレを口にした。
「――ダブルデートです」
「ん?」
「簡潔に言えば、麻美と奈緒もデートに付き添えば良いんです」
そう言い切った俺は、和沙さんの返事を待った。
だが残念ながら、その声を聞くことが出来たのは十秒も経ってからだ。
「……ごめんなさい、絶夜くん。あなたが何を言っているのか判らないわ」
思った以上に鈍い反応だった。
不思議だ。
いったい、何が原因だというのか。
「なんでダブルデートで、有浦の警戒心が薄れるのかしら? もう少し、私に分かり易く伝えてくれない?」
「……有浦さんからしてみれば自分が警戒されいる最中に、俺たちが二人っきりでデートするなんて美味しい状況を、素直にラッキーだと思う訳がない。罠だと思う筈です」
「…………」
和沙さんは再び沈黙した。
おそらく絶句しているのではなく、俺の意見をキチンと考えてくれているのだろう。
その証拠に、和沙さんは俺の言い分にパクッと食い付いてきた。
「たとえ罠と悟られても平気よ。それぐらい有浦はジリ貧なんだから」
「それでも、警戒されるリスクは少ない方が良い筈だ。有浦さんが入手した情報と違う行動をコチラがすれば、自分が得た情報は計画的なものじゃないと有浦さんに印象づけられると思います」
「……その手段が、ダブルデートって言う訳?」
「駄目ですか?」
「少なくても、巻き込まれる人間の同意は必要だと思うけどね」
「むっ」
悔しいが正論ではある。
二人の協力無くしては、成立しない作戦だ。
――そんな風に分析していると、スッと挙手をして自己主張を始める人を発見した。
それは当事者でありながら、ずっと蚊帳の外に居た麻美だった。
「えっと、あのね。私、絶夜くんの言ってる事に賛成したいなって思って。そもそも私が助けて貰ったことが原因だから」
遠慮気味に言いながらも、麻美は俺の味方になると宣言してくれたのだ。
この思わぬ助っ人に、なんというか素直に嬉しい、と感じてしまう。
だって麻美には、ダブルデートをするメリットなんて無いのだ。
それでも賛成してくれたのは、友人の為に勇気を振り絞ってくれたという事ではないか。
「あ、そういう事なら、あたしも賛成。作戦の協力は惜しまないし、みんなと遊べるなら尚更だよ」
「そうか、ありがたい」
同級生にこんな感情を抱くなんて、二週間前の俺だったら想像することも実感することも無かっただろう。
良くも悪くも、人間関係が変化したと言う事か。
親父殿、やはりなにもかもが人生経験だ。
「……和沙さん」
「何よ」
「聞きましたか? 俺に協力者が出来ました」
「……待ちなさい、亰花はどう思っているの。ソレが一番、重要なんだから」
往生際が悪い人である。
しかしそんな文句も、雪のように溶けた。
「まったく構いませんわ」
これが鶴の一声となった。
勝利宣言をするまでも無い、完膚無き圧勝である。
なるほど、今ならあの時の和沙さんの気持ちが理解できる。
そして逆に和沙さんは当時の俺の気持ちを味わっているのだろう。
「決まりですね。ダブルデート、文句ありませんね?」
「えぇ、無いわよ。それが私に協力する為の妥協点だって言うなら、コチラとしても譲歩しましょう」
「……えーと。つまり、あたし達も行っても平気なの?」
奈緒の質問に、俺は無言でこくりと頷いた。
その瞬間、部屋の空気が華やいだのは決して気のせいではない筈だ。
「ところで和沙さん。デートってドコに行かせるつもりなんですか?」
「素敵なオルゴールが一杯ある所よ。こんな事もあろうかと、チケットは亰花の洋服ダンスに収納してあるから、それを見つけて使ってね」
「一応、確認しますけど。チケットって、何枚あるんですか?」
「もちろん二枚に決まってるでしょ。ただしゴールドチケットだから、二枚でも六人は入場可能なのよね」
「なら、麻美と奈緒も行けますね」
「そういう事。良かったわね」
少し刺々しさが残る声で言いながら、和沙さんはぼそりと呟く。
「……まぁ。妹も喜んでるし、仕方ないわね」
独白のように聞こえたその台詞は、素直になれない大人の弱さを感じた。
――まぁ、何はともあれ。
こうして俺と亰花のデートは、突如として決まったのである。
正確にはダブルデートだが別名、両手の花とも言う気がしてならない。
無論、悪い気など微塵も抱かないのだけれど。
※ 次回の更新は未定です ※




