ヘタレ
※ 次の更新予定は6月29日です ※
モグモグとピラフを噛んでいると、春日居がたどたどしい態度で喋りかけてきた。
「えーと。つまり馬波は建前で、ぶっきらぼうな態度をしたって事?」
「はい」
舌先に広がるバターの風味を頬張りながら、俺は素直に答えた。
別に、モテないという言葉が嫌だったからではない。
同棲相手の亰花に悪い印象を与えては、今後の生活に影響があると考えたからだ。
『嫌われたくないもんね』
と同意を求める声が聞こえるが、まったく身に覚えがない。
そんなコチラの思惑など露知らず、俺の言い分を聞いた三人は一斉に反応した。
「意外だなぁ。割と子供っぽい性格してるんだね、馬波って」
「あまり自分を過小評価しては駄目ですわ、絶夜」
「……けど。ギャップがあって良いよね」
三者三様の答えだった。
しかし、なかでも気になるのが御舘だ。
何故なら、熱視線を感じる。
潤んだ瞳でジッとコチラを見つめている、気がするのだ。
「どうした、御舘」
「……卑屈な態度からの素直、良いよね」
「うん?」
「ギャップポイント大幅アップだよ、馬波くん」
「そうか、それは褒めてくれているのか?」
「当然だよ。今のところ、さっきの言動が馬波くんのベストだったと思う」
「……ありがとう」
逆に俺は、お前の態度にギャップを感じている所だ。
なんて口に出したい所だが、泥沼になりそうなので止めておこう。
「友人のあたしから言わせて貰うと、麻美は異性のギャップに弱いんだよね」
「……春日居。そういうの、教えてくれなくて良いから」
知ってしまったら、取り返しの付かない世界にウェルカムする予感がする。
『別名、専用ルートだな』
と囁く変な声を消音にして、俺は決意した。
――そうだ、話を元に戻そう。
御舘の事は嫌いじゃないが、変なフラグが立つ前に会話を終わらせてしまうのだ。
その為にはベストな対応が必要である。
御舘を傷付けず、みんなが事件解決を喜べる展開が望ましい。
まずは、こう言うべきだろう。
「御舘。とりあえず勘違いしないで欲しいが、俺は別に卑屈な男では無い」
「……うん。私も馬波くんの基本は、パラメーターの高い人だと思ってるよ」
「そうか。判って貰えてないようだから言うが、これからは何でも遠慮無く頼ってくれて構わない。そして、きちんとした俺を評価して欲しいんだ」
「……なんでも?」
「あぁ」
「――だったら、たとえば恋の相談とかも、大丈夫?」
「えっ」
つよい。
御舘は押しが強い。
『じゃあ、次こそは頑張ってね。って言って欲しかったんだよね』
と俺の気持ちを代弁する俺の欲望。うん、そうなのだ。
俺の計画では鷹揚に頷きながら、華麗にハンバーグを口に出来ているはずだったのである。
しかし現実は違った。
「変なこと言っちゃって、ごめんなさい。何でもって言うから、限度が知りたかったの」
……なんか強気に攻めてこられた。
どうしよう、断れない。
そんな風に俺が戸惑っている間にも、御舘は瞳をキラキラさせながら語りかけてくる。
「だから、教えて欲しいな」
「何を?」
「貴方の事」
なんだろう、ちょっと良く分からない。
『これって告白なんじゃねぇの?』
そう呟く欲望の声に、すかさず反論する。
――いや、ポエムだと思う。
だいたい他の人間も聞いている最中に、堂々と告白する筈もないだろう。
そう思いながら、チラリと周囲の様子を見る。
するとそこには興奮した春日居と、溜息を吐く亰花の姿があった。
「いやぁ、ストレートな直球でしたねぇ。亰花はどう思う?」
「……胸がチクチクと痛いですわ」
「なんと、ここにもヒットの予感が? もしかして馬波って狙い目なの?」
「……多分、胸が痛いのは先日の湯上がり姿を見られた事を、思い出したからですわ。何でソレを思い出してしまったのかは、自分でも判りませんけれど」
「えっ、どういう意味? ちょっと亰花、それってどういう意味?」
……聞こえない、俺にはなにも聞こえない。
それにコチラへの追求もないようだ。
別名、高みの見物を決め込んでいるのだ。
つまり助けは期待できず、ここから先は自分で解決しなければならない。
望む所である。
俺も男だ、決める所は決めてやる。
そんな覚悟を持って御舘を見つめ、視線が合う。
「…………」
「…………」
相対するのは、耳まで真っ赤に染め上げた同級生。
いかん、このままでは俺の心拍数が上昇してしまう。
発熱したように頬を染める御舘を相手に、俺は努めて冷静にこう答えた。
「俺のことを教えて欲しい、と」
「うん」
「それはつまりメールアドレスと、電話番号の交換という意味だな?」
焦りつつも、俺は制服の中から携帯電話を取り出した。
対して御舘は、リンゴのように頬を染めながら、ゆっくりと首を縦に振った。
「……うん、まぁそれでも良いかな。ありがとう。馬波くん」
よし。
どうやら俺は、正解を導けたようだ。
『まぁ、お前にしては頑張った方だよ』
という優しい囁き声が聞こえた。
うるせぇ、と思った。




