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電話にて

※次の更新は6月28日午後5時に予定しています

 御舘と亰花が行ってから約三分後、俺は携帯電話の着信ボタンを押した。


「――という訳で友人がレビューを盗作された。しかも相手はリピート・ネットだ」


 かくかくしかじかと説明を終え、俺は親父殿の回答を待つ。

 電話越しから聞こえる親父殿の声は、とても暗いものだった。


「……やれやれ、嫌だね。絶夜の身の回りでも、こういう問題が浮き彫りになりつつあるなんて」

「その様子だと、レビューの盗作問題は深刻なようだな。親父殿」

「まぁね。盗作と言っても、商品の感想というのは類似しやすい。一流の企業でも断定するのは難しい性で、盗作する側は無実の罪だと言いながら犯行を重ねてくるし」

「当面の間、レビューの盗作は消えそうに無いのか」

「うん。最近はどこも業績を上げるのに必死なのか、ただの手抜きなのか、今回の被害者みたいにレビュー内容をそのまま転載されるケースは、後を絶たないね」

「ん?」


 ――業績。

 その言葉に強い違和感を覚える。

 俺はレビューの盗作は、個人の仕業だと思っていた。

 だがそれなら、親父殿が業績という言葉を使うはずがない。

 業績という単語は、企業の成果について語るときに使用すべきものだ。


「……親父殿、なぜ業績などと言う言葉が出てくる?」

「そりゃだって、盗作の件で一番メリットがあるのは企業だからね。盗作だと気付かれなければ評判の良いレビューが手に入るし、気付かれても盗作されたライバル企業のイメージは下がるし、何より……」


「――待てくれ。まさか親父殿は、レビューを盗作しているのは、ライバル企業の仕業だとでも?」


 ……自分で言っておきながら、なにを馬鹿なことを、と笑ってしまう。

 いくら何でも有り得ない。

 そんなもの、否定して欲しかった。だが。


「業界内では常識だったから、絶夜も知っているかと思っていたよ」

「……幸か不幸か、初耳だ。そして信じられない」

「もちろん個人で行うユーザーも居るよ。でも、そういうのは意外と少ない。残念ながら一部の企業では業者に他社で人気のあるレビューを転載させて、自社のサイトに利用する悪徳が横行しているんだ」

「ありえない。何故、そんなことが」

「これは社内会議で出た推測だけど、レビューの盗作を行う企業の最終的な目的はレビュリストのヘッドハンティングだという説が有力だね」


 その単語を聞いた瞬間、思わず我が耳を疑った。

 ヘッドハンティング。

 優秀な人材を他社からスカウトして自社に引き入れる行為のことだ。


「……レビューの盗作目的が、レビュリストの引き抜き? 理解に苦しむ理屈だぞ」


 何かの冗談にしか聞こえない。

 しかし親父殿の声は真剣だ。


「絶夜は、もし自分のレビューを盗作された場合、どうする?」

「……御舘と同じだ。盗作レビューを掲載している企業に、違反報告をする」

「うん。結果として企業は、盗作されたユーザーと連絡を取り合う口実が出来る訳だ」

「連絡と言っても、盗作した奴のアカウント削除の報告ぐらいなものだろう?」

「その報告を誠実かつ丁寧にして、素早い対応を感謝するユーザーの不安を煽るんだ。『貴方のレビューが、今後も盗作される危険があります。本サイトに登録して頂ければ、より迅速な対応が可能となりますが、如何でしょう?』てね。こうすれば盗作なんてしなくても、人気ユーザーのレビューを自分の所で堂々と掲載できるからね」


「自作自演じゃないか。企業モラルはどこに行った、親父殿」


「道義や道徳より、利益を優先してしまう場合もあるという事さ。それに発覚しない限り企業倫理に問われることもないからね」


 ――発覚しなければ、か。

 逆に言えばリピート・ネットや他の企業が非難されていない現状は、その悪事が発覚していないからだということになる。


「つまり親父殿、ここまでの説明は全て推論に過ぎないと言う事なのか?」

「うん、推論だね。ただし何の根拠も無い訳じゃない。複数のユーザーからの問い合わせを元に、調査した情報を統合したんだよ。ここまで手短に話しているけど、この仮説に辿り着くまで膨大な時間と金を使ったものさ」

「……具体的な推察までは出来るが、裏付けする為の証拠がないのか」

「そういう訳だ。推論で大企業相手にレビューを盗作しませんでしたか、なんて問い詰める訳にはいかないからね」

「その言い方だと、俺が相談した事は親父殿にも解決できないのか?」

「そこは安心して欲しい。リピート・ネットも、企業からの盗作案件を撥ね除ける事はしないよ。我々も勝手にレビューを転載されて迷惑していると回答して、当該レビューは削除されるだろう」

「ほほう。犯人が被害者面して、盗作を隠滅か」

「いくら何でも口が悪いよ、絶夜。怒る気持ちは理解するけど、感心はしないよ。レビューの削除という目的が果たせれば、それで良いじゃないか」

「何を暢気なことを。親父殿、もし推論が正しいならリピート・ネットは、TCMに今回で二度目の引き抜きをしている事になるんだぞ」


 一度目はリピート・ネットの設立と同時に、TCMの社員を引き抜いた。 そして今度は盗作と共に、TCMのレビュリスト達の引き抜きを実行している。

 そんな暴挙、本来ならば許される筈がない。

 ……なのに親父殿は、いつも通りの穏やかさを保っていた。


「うん、社内でもそんな感じで騒がれ始めているね。あくまでも、一部の勢力だけど」

「……親父殿。まるで他人事のように語らないでくれ」

「絶夜こそ冷静になりなさい。僕に連絡をくれた時点で、お前の役目はもう十分に果たした筈だよ」

「いや、まだあるさ」


 むしろ俺の仕事はここからだ。

 そうでなければ、御舘に俺に任せろと見得(みえ)を切った意味が無い。


「……なんだか嫌な予感がするね。言ってみなさい、絶夜」


 有無を言わせない、分厚い重低音の声だった。

 どうやら、コチラの拒否権を認めていないようだ。


「大した事じゃない。他のレビュリスト達にも、レビューの盗作について警告しておくだけだ」

「どうやって?」

「今回のみの特例として、俺のアカウントを使用したレビューを公開するんだ。内容は個人のみならず企業が盗作している可能性について、だ」

「……レビューを使って告発文を発表しようって事かい?」

「そうだな」


 リピート・ネットの疑惑についても記載(きさい)しても良いが、親父殿が慎重な対応している以上、(おおやけ)にする訳にもいかないだろう。

 しかし、それでも十分な効果は得られる筈だ。

 会員数こそ大手に及ばないものの、TCMのレビューサイトの情報拡散力はネットコミュニティーの中でも、上位に位置する。

 さらに言えば、俺はレビュリスト・ランキング三位なのだ。

 それはすなわち、情報拡散能力もTCMの上位三位であることに他ならない。


「レビュー盗作が企業の仕業だと示唆(しさ)すれば、リピート・ネットや業者の抑制には大きく貢献できるだろう?」

「――却下だ」

「え?」


 断言された。

 しかも、まるで被告人に判決を告げるような無感情な声だ。

 ……そんな親父殿の声を、俺は初めて聞いた。

 できるならば、聞きたくなかった。耳を塞ぎたかった。

 だが親父殿の厳しい言葉は、決して止まること無く続いていくのだった。

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