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解決の為の一歩

※ 次の更新予定は6月28日午後12時頃です ※

 しゅらば、修羅場ってなんだ。

 俺が悶々と悩んでいる間にも、現実は構うこと無く進んでしまう。

 なんと亰花が御舘に話しかけたのだ。


「貴方、麻美さんでしたっけ?」

「う、うん。そうだけど」

「良い趣味してますわね、お友達になれそう」

「え?」


 え?


 御舘も困惑しているが、俺も驚いている。

 わからない、亰花の考えている事がまったく理解できない。


「だって貴方も、絶夜を信用した目で見ていましたもの」

「……天保院さんも、そうなんですか?」

「えぇ。出会って間もないですが、絶夜は信用できますわ」


 やめてくれ、聞いている俺が恥ずかしい。


 しかも今時、詐欺師でも使いそうにない文言じゃないか。

 いったい何を根拠に信用しろと言っているのだろう。


「なにせ、たった一晩でわたくしを安心させた殿方ですもの」


 ……なにいってんだ、こいつ。

 コチラの耳が真っ赤に染まる台詞を、平然と口にしないで頂きたい。


「うん。その気持ち、ちょっと判る。私も馬波くんを信じるよ」


 しかも御舘まで同意するって、なんだ。

 これは新手(あらて)のイジりか。

 俺を褒めてどれだけ動揺させる事が出来るか、勝負でもしているのか?


「……そう言って貰えるのは嬉しいが、唐突にどうした?」

「私も天保院さんと同じ気持ちだったから、口に出してみたの」

「そうか」


 いまいち、良く分からない理屈だった。

 それとも理屈よりも感性を優先しているのだろうか。


 ――喜んでいないと言ったら、嘘になるが。


 などと思っていると、亰花がツンツンと指先で俺の肩を突いてきた。


「なんだよ」 

「二人の女の子に頼られたんですもの、ソレに応えるのが男の役目ですわ」


 ずいぶんとピンポイントな役職があったものである。

 だが言われるまでもない、ここで御役御免など認めるものか。


「それで御舘。レビューの盗作を放置している、悪質なサイトは何処なんだ?」


 悪を討つべし。

 そんな鬼退治を目指す桃太郎のような心境で、俺は御舘に情報を求める。

 しかし助けを求めている筈の御舘は、実に言いづらそうに口を開いた。


「あのね、リピート・ネットって会社なの」

「――なん、だと」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の足は泥沼に嵌まったかのように停滞した。

 あまりにもショックだったのだ。

 正直、聞きたくなかった名前である。

 相手が巨大すぎるのだ。

 これでは鬼退治どころの話ではない、邪神討伐といった方が相応しい。


「あら。どこかで聞いた名前ですわ」


 驚愕に歪む俺を尻目に、亰花の暢気な声が聞こえてきた。

 それを二重の意味で苦々しく思いながら、俺は絞り出すように答える。


「……亰花も、リピート・ワンという名前くらいは知っているだろう」

「さすがに知ってますわ。街でよく見るコンビニエンスストアですもの」

「なら話は早い。リピート・ネットは、そのコンビニを経営する会社が立ち上げた、あらゆる生活雑貨を扱う通販サイトの名前だ」


「……それって、大手ではありませんの?」


「業界で十指に入る大手だ。全国に一万二千店舗あるコンビニで配達物を受け取れるシステムの利便性と、関連グループの店でも使える用途の多いポイントサービスを武器に、サイト開設からたった三年で会員数は二千万を超えている」

「まぁ、そうなんですの。ですけど絶夜はさっき、大手はレビューの盗作に迅速な対応をすると言ってましたわよね?」

「……ああ。リピート・ネットほどの企業なら、どんなに時間をかけても三日で対応してくる筈だ。何より、あそこの社員がレビュリストを無下(むげ)に扱うはずがない」

「……馬波くん、なにか知ってるの?」


 勘の鋭い御舘が、探るような視線を俺に向けてくる。

 一瞬、口に出そうか迷った。

 だが言いづらいだけで、隠すような話ではないと自分を納得させる。


「あの会社とは浅くない因縁があるんだ。じつはな、リピート・ネットの設立と同時期にTCMの社員が大量に引き抜かれている」

「えっ」

「まぁ、そんな事がありましたの?」

「会社を一から作るより、ノウハウを知っている人間を取り入れたかったんだろう。だがおかげでTCMの内部は大混乱に陥った。当然、仕事上のライバルで仲も悪い」

「なるほど、ソレが因縁というヤツですのね」

「そうだ」

「あまり仲も良くないなら、もしかしてリピート・ネットは意地悪で御舘さんの対応を遅らせているのかしら?」


 亰花の言葉に、ハッとした表情で御舘が顔を上げた。


「まぁ、可能性は在るかもな。今は幹部となった社員達が、TCMという古巣を嫌っているという話は良く聞く。俺としては、仕事に私情は挟むなと言いたいが」

「じゃあ、レビューを盗作したのもリピート・ネットの人だったりしないかな?」


 そう尋ねる御舘の顔は、とても切迫していた。


「……いや。さすがにソレは無いだろう。個人ならともかく、企業は盗作をして得る利益より、発覚した場合のリスクが大きい筈だ」


 正直、TCMの人材を奪ったリピート・ネットは嫌いだが、レビューの盗作は業界全体に蔓延(はびこ)る問題だし、仮にも大企業だ。

 率先して盗作に走るなんて、品性のない真似はしないと信じたい。


「そ、そうだよね。ごめん、ちょっと動揺しちゃって」


 無理もない話だし、攻める気は無い。

 御舘は今、それだけ不安を抱いているのだ。


「絶夜、早く御舘さんを元気にして差し上げなさいな」

「言われるまでもない、今日の昼間までには話を付けてみせる」

「まぁ素敵。でもどうやって?」

「早速、TCMと連絡を取るとしよう。とりあえず御舘と亰花は先に登校してくれ」

「え、でも」


 御舘が足を止める。

 心配なのか不安なのか。それとも両方か。

 しかしコチラとしても譲れないことがあるのだ。


「俺のみならず親の仕事にも関わる話だ。あまり人に聞かれたくない内容もある」

「……馬波くん、私に手伝える事って無いのかな?」

「無いな」


 バッサリと言い切ってみた。

 だが見栄でも嘘でもなく、本当に無いのである。


「そ、そうなんだ」


 俺の言葉に意気消沈する御舘。

 そこに、ちょうど良いタイミングで亰花がフォローを入れてくれた。


「行きましょう、御舘さん。どうせ絶夜の仕事話は面白くありませんもの」


 そう言って亰花は、御舘の背中を両手でグイグイと押していく。

 一方、戸惑いながら後ろを振り返る御舘は、亰花に質問を繰り出した。


「天保院さんは放って置いて、平気なの?」

「餅は餅屋に任せるのが一番ですわ。それよりもねぇ、麻美さん」

「はい?」

「わたくしと、友達になってほしいですわ」

「と、ともだち。私が、天保院さんと?」

「あら。嫌かしら?」

「ううん、すごく驚いただけ。だって今日で一番、嬉しい出来事だよっ」

「そう、わたくしも同じ気持ちですわ」

「……こ、光栄です」


 明らかに上擦っている御舘の声。

 俺の位置からでは確認できないが、きっとその表情は照れているに違いない。少なくとも、良い気分転換になった筈だ。


「亰花、ありがとう」

「礼には及びませんわ。わたくしは、自分の為に行動しただけですもの」


 亰花は御舘に密着したまま、素っ気ない態度で答えた。

 その格好はコチラに尻が突き出ていて、妙に扇情的(せんじょうてき)に映っている。


『亰花、ありがとう』


 そんな欲望の声が、聞こえた気がした。

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