二回目の食事を終えて
――すでに時刻は午後七時半を回っていた。
出前の後片付けも済ませ、俺はソファーで寛いでいる。
一方の亰花さんは、掃除済みの風呂の中で寛いでいるだろう。
と思っていた所にコンコン、と壁を打つ音が聞こえてきた。
音源を確かめると、浴室のドアから白い腕が手招きしているのが見える。
「絶夜さん、ちょっと良いかしら?」
わざわざ風呂場での呼び出しとは嬉しい、ではなく嫌な予感しかしない。
とはいえ
『呼ばれたからには行かねばなるまい』
という欲望の言葉にも一理ある。
一応、ドアの前で声をかけることにした。
「……入っても大丈夫なんだろうな」
「も、もちろんですわ」
ふむ、すでにパジャマに着替えていると言う事か。
『湯上がり姿、楽しみだよね』
という俺の欲望を叩きつつ、ドアを開けた。
開けるんじゃなかった。
「――――」
絶句する。
何故なら目に飛び込んできたのは、女性の裸だった。
いや、正確には亰花さんはバスローブを着ている。
しかし何故かミニサイズで、大事な所がギリギリしか隠れていない。
まず目に付くのは胸元だった。
白い布から完全に浮き出ている二つの盛り上がりに、思わず息を呑んでしまう。
そしてそのまま、湯気の中に含まれた甘い薔薇の香りを吸い込んでしまった。
薔薇の香り、これはシャンプーの匂いだ。
そう感じた瞬間、俺の頭は反射的に正解を確認していた。
水分を含んだ、艶のある金髪が視界に映りこむ。
そして、視線が合った。
――当の本人が、すごく恥ずかしがっている。
そう、耳まで真っ赤に染めながら視線を逸らして、誰が見ても羞恥心で悶えていた。
だというのに何故、俺を呼んだというのか。
「あ、貴方は、どちらの下着を履くべきだと思います?」
「は?」
そう尋ねる亰花さんの両手には、黒いブラと白いブラが掲げられていた。
ほとんど素肌を晒した状態のまま、俺に選択を委ねている。
「な、なんで下着を選ばせる?」
「お風呂から上がったからですわ」
違う。そんなことを聞きたいんじゃない。
「……なんで、そんな格好で俺を呼んだ?」
「い、今の私に合う下着を選んで欲しかったからですわ」
駄目だ、この人。
あきらかに様子がおかしい、たぶん俺と会話をする気が無い。
そんな余裕がないからだ。
堂々と下着を選ばせる態度ならば、ここまで違和感を持たなかっただろう。これは自然体ではなく、演技だと感じさせるのだ。
俺の視線を意識しながら、焦っている様子が丸わかりなのである。
「は、早く選んでくださいな。このままでは風邪を引いてしまいますわ」
「……じゃあ白で」
本音を言えば、どちらでも構わなかった。
ただ裸体のまま、いつまでも質問される訳にはいかないだろう。
亰花さんが風邪を引く以上に俺が困った事になりかねない。
「で、では今から着替えますわね?」
「はい」
――って俺は何を素直に頷いているのだろう。
ここは断固として謁見拒否なのである。
「言う通りに下着は選んだ。だから俺、部屋、出るっ」
錯乱している為、すこしカタコトになったが意味は伝わっただろう。
きょとんとした顔の亰花さんを尻目に、俺は浴室のドアをバタンと閉めた。
あぁ、胸の鼓動がどくどく五月蠅い。
顔も真っ赤になっている事を自覚する。
なにしろ、生で女の子の身体を見てしまったのだ。
もちろん初めてのことである。
『刺激が強すぎだよね』
と、欲望の呟きさえ控えめだ。
それだけ動揺してしまった。それだけ、魅力的だった。
「……女の子って凄いな」
ドアに背中を預けて、酸素を求めるように天井へと顔を上げる。
照明の光が眩しい。まったく、カメラのフラッシュみたいだ。
おかげでさっきの情景が、瞼に焼き付いてしまうじゃないか。




