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コマーシャル・イノベーション

「コマーシャル・イノベーション。直訳すると広告革命というが、レビュー業界では既存の商品から隠れたニーズを引き出す事を意味する」

「ふーん?」


 二人は興味津々な様子で、じっと聞き耳を立てている。

 このまま無視する訳にもいかないので、たとえば、と口に出した。


「柔軟剤を買うのは、別に主婦だけに限らないというのは理解できるな?」

「まぁ、一人暮らしの男の人でも買う人は居るだろうね」

「そうだな。そして女子高生も買う、ソレが重要な要素だ」

「わぁ。男子の馬波が言うと、途端に変態チックに聞こえるね」


 心外である。

 だが話の腰が折れるので、今は反論はしないでおこう。


「御舘はどんなレビューを書いたんだ?」

「えーと。クラスメイトの評判や、体操服だと運動した後にどんな香りになるかって」

「……運動した後にどんな香りになるか、か。素晴らしいな」

「馬波、それ匂いフェチの変態に聞こえるからね。マジで」

「他意は無いぞ。その女子高生らしい意見が、隠れた需要に繋がったと言っている」

「隠れた需要って、ますます怪しい響きじゃん」

「わかった、言い換えよう。共感を覚えたんだ。羨ましくなったとも言う」


 そう俺が口にした瞬間、御舘があっと声を出した。

 どうやら、正解を導き出したようである。


「……もしかして、私のレビューを支持してくれた人達って同世代の子なの?」

「まず、間違いないだろう。女子高生は新しい物好きで、匂いにも敏感な生き物だ。制汗剤のCMで出てくるのは決まって学生だしな」


 我ながら、説得力がある説明だと思った。

 しかし春日居には納得しにくい物だったらしい。


「制汗剤は自分でも良く使うから買うけど、やっぱり女子高生が柔軟剤を積極的に買うとか想像しにくいんだよね」

「実際に買うのは、主婦が断トツだろう。けど、柔軟剤は家族で使えるからな。娘が母親にコレ買ってと言いやすい商品だ」

「まぁ、それなら納得かも」


 それは結構。コチラも補足しやすいという物だ。


「主婦からしたら新しい柔軟剤を買う前に、子供の感想が聞けたという側面もある。実際に買ったという同年代の娘の意見は求心力があるんだ」

「それが、麻美のレビューランキングが上がった理由ってわけ?」

「あぁ。本来は柔軟剤と女子高生という関係は、利益に結びつかない。けど体育の授業での使用感、クラスメイトに評判だという学生らしい感想が、女子高生という新たな客層の関心を引き寄せたんだ」


 そして、これこそがネット通販の売り上げが爆発的に伸びた最大の要因だ。

 レビューという形で消費者自らが市場を開拓する、コマーシャル・イノベーション。

 消費者生成メディアが生み出した、まさに金の卵である。


「他の例題を上げると、女性用の化粧品はスキンケアに悩む男性側からのレビュー需要がある。最近はテレビゲームも高齢者のレビューが切っ掛けで、老人達のコミュニケーションツールや認知症の予防対策として注目されているな」

「……へー」


 と、二人が同時に同じ感想を呟く。

 さらに言えば、俺に感心しているような様子も見受けられた。


『うむ。この状況、悪くないな』


 とは欲望サイドの個人的感想である。


「その感じだと、馬波もレビューやってんだ?」

「いや、たまたまネタを仕入れていただけだ。親が通販に詳しいからな」


 ……危ない危ない、調子に乗らないようにしよう。

 これでは仕事に私情は挟まないと言いながら、私生活に仕事を持ち込むサラリーマンではないか。


「じゃあ説明も終わったし、俺は先に行くぞ。御舘達はゆっくりすると良い」

「えー、もっとその手の話を聞きたいし。一緒に行こうよ」


 えぇい、ガシッと腕を引っ張ってくれるな春日居よ。

 これ以上レビューについて分析と解説を始めたら、俺がレビュリストだとバレるではないか。


「……じつは、それ以上の情報は知らないんだ」

「えー。あたしもレビューしてるし、色々と参考にしたいのに」

「なら俺よりむしろ、御舘の意見を聞く方が勉強になるぞ」

「え?」


 突然の指定に戸惑う御舘。

 ソレを見てすまない、と心の中で謝る。


「実際にランキングを上げた人間の解説は、最高の見本になるだろう?」 

「あー、なるほど」


 納得して、すぐさま腕を解放する春日居。

 物わかりが良くて、大変に結構だ。


「じゃあ早速、どんなレビューしたのか見せてよ。麻美」

「あ、うん。ちょっと待っててね」


 御舘がスマートフォンを操作する様子を見つつ、俺は二人から離れるように前へと歩を進める。

 その輪に不参加なのは惜しいが、俺は放課後に向けて鋭気を養いたいのだ。

 なにしろ朝と昼を過ぎれば、夜からは新しい環境に慣れなければならない。

 ――俺は暢気にもそう思っていた。

 しかし新しい環境は、すでに朝から始まっていたのだ。

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