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5、死闘

「……ちっ」

 真美子は小さく舌打ちした。

 最初の停車駅は通過した。

 不便な先頭車両からは、やはり乗客はほとんど降りなかった。むしろライバルが増えたくらいだ。そういえば、終点の本越駅も出口は一番前にあったはず。まさか座っている人どもの狙いは、そこか? 

 だとしたら、八丁駅下車をのんきに期待するのは危険だ。やるべきことは、座っている人間の中から、八丁駅で降りる乗客を見つけ出し、その前に移動すること。この際、間違って本越駅まで行く人の前に立ったら、終点までに立ち続けることになる。読みが試される。もちろん移動の際には、新たに加わったライバル(立った乗客)を上手くけん制して、好位置を確保しなくてはならない。

 ライバルのいない座席の一列の前に立って、真美子は目の前の乗客を観察する。

 子連れの母娘。靴を履いたままひざ乗りで外の景色を見ているガキが気になるが、彼女らは一セット。もし降りるとすれば、大スペースだが、自分ひとり座れれば良いので、あまり意味はない。

 その隣は、子供の愚挙を快く受け入れている(ていうか爆睡中)の中年男性。この爆睡ぶりを鑑みるに、次の次の八丁駅で目覚めるとは、考え難い。

 その隣は、女子高生三人組。奇妙な言語でお喋りしている。休日で部活帰りとも思えないが、なぜか制服姿だ。その制服は、私立本越女子高等学校のものだ。高校生なのだから地元通学とは限らないが、他の駅より、本越駅で下車する確率は高いと思われる。

 その隣は、女子高生の隣に座れて嬉しそうとも恥ずかしそうとも見える表情をしているオタク系。買出しに来たのだろうか。このテの男の行動は、あまり読みたくもない。

 以上、七人がけのシートにしっかりと七人。なんとも望みの薄いシートのような気もするが、他のシートの前には、すでに立ち客が獲物を狙う目で待機している。今真美子がするべきは、このシートを自分のテリトリーとして守ることだ。

 次駅に停車。誰も動くそぶりを見せない。他のシートも同様だったので悔いはない。数少ない乗車客は、ドア前に立ち、新たな脅威にはならないようだ。

 いよいよ次は、運命の八丁駅。そのとき、神経質になっている真美子の元に歩み寄る者が現れた。テリトリーを犯す侵入者は何者かと思ったら、美姫だった。

「えーと、真美ちゃんも座れず、と」

 律儀に審判をやっているようだ。

 とりあえずライバルでないことを確認した真美子は、瞳で美姫を黙らせた。隙なく視線をめぐらし、乗客の一挙一動を見逃さない。

「次は、その……八丁駅だよね。ここ先頭だから、たくさん人が降りるかな?」

 無視していると、美姫の口から意外の一言が発せられる。

「……あたしも、もうちょっと待ってみようかな……?」

 まさか、姫も狙っているのか?

 それっきり美姫は無言。審判をするでもなく、真美子と同じように、目を配らせる。

 次の停車駅を知らせる車内アナウンスが流れる。列車のスピードが落ちる。座っている乗客の一部が、そわそわと動き出す。目を覚ます者もいる。そして――

 例の親子連れが動いた。娘に言い聞かせ、降りる準備を始めている。この駅で降りるのは間違いない。あとは、いつ彼女らが席を立って、その開いたスペースに入り込めるかが、勝負だ。

 電車が止まる。親子連れが席を立つ。今だ!

 後は無意識の行動だった。同じ席を目指し、美姫の髪を引っ張り、服を引っ張られ……後から思うと、これが中年になったときバーゲンで争う未来なのかと思うと、気分が悪い。

「はぁはぁはぁ」

 一人ぶんは幼児のスペースだったので、十分とはいえない広さだったが、二人押し合うようにして席を確保した。もともと七人がけ。女子高生どもが無駄に使っているせいで狭いだけで、問題はない。

 真美子は、隣にくっ付くようにして座っている美姫に尋ねた。

「審判はどうするの?」

「真美ちゃんの勝ち、ということで、おしまい」

「ふふ。まあ、良いんじゃないかしら」

 微笑み会う二人。戦いの後に友情が芽生えた瞬間だった。


まだ、あと一話続きます。

オチは見え見えですがw


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