説明
「早速ですが、こちらでお過しいただく為の簡単な5つのルールを示した説明書です」
さり気なく私の目の前にスゥーと差し出した。それはそれはドラマでもよく観る高級レストランでウエイターがメニューを差し出すような繊麗された動きである。
「ありがとうございます」
「それでは、簡単ではありますがご説明させて頂きます。1つ目、携帯スマホやパソコン等の通信機器はお預かりいたします」
えっ、と心のなかで思いながらも、はい、と答え応対した。
「2つ目、お部屋内の備品等はご自由にお使いください。又、ご使用後、酷い状態であればご請求させて頂きます。3つ目、何かございましたら入り口横のインターフォンでお呼びください。4つ目、出入りはご自由になります、貴重品類はお持ちください。そして最後の5つ目は他のお部屋以外の当施設でのご利用も自由となります」
と本当に簡単にかつ、とても聴き心地の良い説明でお話頂いた。
「と言って内容でのルールですが、何かご質問等ございますか」
「はい、ありがとうございます。そこまで細かいルールや制約制限が少ないですね。ただ、通信機器は使えないのですね」
「山下様がおっしゃる通りご心配になるお気持ちは物凄く分かります。しかし、当施設のコンセプトは非日常を体験して頂き、心と身体のリセットになりますので、何もかもを忘れて過ごして頂くことを考え、この様な制限を設けさせて頂いてます」
真剣な眼差しで私の方を見ながら、初めてお会いした時と同じように丁寧な口調だ。この対応もサービスの一つだろう。
そして一番気になった、他の施設もとい自由に使える部屋は何なんだろうか。
「有難う御座います。まーあのー、ルールは守らせて頂きます」
「山下様、そう言って頂き有難う御座います。」
「一ついいですか」
「はい、何でしょうか」
「所で他に行き来できる施設、あー場所、いや部屋ですかね、どんな所ですか」
そう思い間髪入れずに、少し食い気味な感じになりながら疑問を伝えた。
「そうおっしゃると思いましたので、こちらの施設内の案内図でご説明させて頂きますね」
龍崎さんはA2サイズのラミネートされた案内図を見せてくれた。建物を見たとき、とても奥に広く感じていだが、予想通り広そうだ。
「こちらをご覧ください。今いるのは受付ロビーになります。そしてBAR、山下様がこれからお入りになられるお部屋は5つあります。さらに浴室サウナマッサージチェアーが付いた場所が御座いまして男性と女性に分かれております」
サウナもあるだと。驚きと嬉しさで顔が綻びそうだ。
「あーサウナもあるんですね」
「はい、御座います。男性女性とで分かれてました、時間内なら何度でもご利用可能です」
「ほんとですか?」
「サウナお好きなんですか?」
「はい、今流行りのサ活をしてまして、お気に入りのサウナを探している最中です」
今、流行りのサウナたが、そこまで好きではなかったのだが、とある先輩と行き正しい方法で行い、続けてみたら身体が少しばかり良くなった感覚になった。その為、気付いたら様々なスーパー銭湯や町銭湯に行くようになり、休日は結構な頻度で通うようになっている。自分が好きになればとことんハマるタイプだと思っている。
「なるほど、では当店のサウナや湯船でゆっくりして頂いても構いません。ちなみにタオルも常備してます」
「有難うございます。是非使用します。あ、いえ…整いたいです」
「そんなにお好きなら、サウナで整えてから、BARで1杯も良いですね」
「あー確かに。それも良いですね」
「それもこれも、我々はお客様の為の施設なので本当に自由です。なので時間内でルールを守って頂ければ本当に自由です」
そう聞くととても良い所なので勘違いしてしまいそうだが、あくまでも、私自身の行動が左右しそうだなと感じた。
「了解しました、ルールを守る事が当たり前の事ですよね、ハッハッー」
何か変な笑いになってしまった。顔は笑顔を保っているが大丈夫か。
「山下様の様にそのようなお気持ちで来られる方は嬉しい限りです。是非とも心を満たされて頂きたいですね」
有り難うございます、と答え、その反応は、とてもにこやかなお顔でおっしゃっている。こちらまで嬉しくなる気持ちだ。と同時に早く体験したい感情と、少しばかりの恥ずかしさがある。
「では早速ですが、通信機器をお預かりしてよろしいでしょうか。あ、もちろん厳重に管理させて頂きますね。山下様自身で電源お切り頂いても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
とポケットからスマホを出して電源を切り、龍崎さんに渡した。龍崎さんは受取りますねと言いながら、スマホ専用ロッカーの方へ向かい、
「では本日のお部屋ですが、3番部屋でございますので、こちらの3番にて保管させて頂きますね。ちなみに、暗証番号は山下様の携帯番号でございます」
有難うございますと伝えながら、一抹の不安になった。何故かというと、皆さんもそうなるであろうが、仕事中は常にいじらない触らないけれども、ポケットや手の届く所にある為、少なからず生活の一部になっているであろう物だ。特段メールがバンバンくる、電話連絡が頻繁に来る訳では無いが、手元にないと不安になるであろうと思う。
「あー、3番の部屋ですが」少し急ぎで戻ってきて
「案内図の中のこちら、3部屋並んでるBARやロビーに近く5部屋の中でも一番広いお部屋をご用意致しました」
テーブルに置いてある案内図の3番の部屋を指しながら伝えてきた。
「かしこまりました、有難うございます。この3番なのですね」
「ええ、そうです。山下様の前回ご記載頂いたアンケートを元に、リラックスして頂けそうな2部屋選び、本日の予約時間でピッタリなお部屋をチョイスさせて頂きました。お気に召して頂けることと思います」
「あー私にピッタリなんですね。ちなみにどの様なコンセプトでどのくらいの平米なんですか?少し気になるので…」
行ったことはないが、今回は7000円との事なのでこれが安いのか高いのかは分からないが気になる事なのだ。
「えーそうですね、前回山下様が気になり質問頂いた購入方法やアンケートを元に、我々が山下様の本来の人格や運勢とを調べた結果、自然や一人を好むものの皆さんと仲良くしたいや話したいといった性格なのかと分かり、今回は和のお部屋をご用意致しました。平米は20平米です、簡単に言えばビジネスホテルのツインよりも少し広めと言った感じです。…如何でしょうか」
そうだ、色々聞いていて、めっちゃ怪しいと思いつつも流されて此処に来ている。確か数秘術や色彩によると言っていたなー。
「なるほど、20平米ですか。じゃあ一人ならゆったりできそうですね。それに和の部屋なら尚更かもです。…大丈夫です、その部屋で。有難うございます」
そう言うと龍崎さんは鍵を右手に持ちながら、お部屋迄案内致しますと部屋がある通路への入口ドアに向かっていく。その流れで立ち上がり龍崎さんに付いていった。その通路へ足を踏み入れると、そこは高級旅館の様な和を感じさせる廊下となってる。俺は心の中で、期待感とワクワク感の両方が混ざり合う何とも言えない感じになっている。
廊下はショッビングモールのようなタイル張り、壁はグレーを強調した色と重厚な木のドアで趣きのある形だ。
「山下様、こちらが本日のお部屋になります」
と足を踏み入れた直ぐの部屋のようだ、そのまま龍崎さんが説明してくれた。
「左手の先を奥の方の白いドアがございますがあちらは浴室サウナです。又後ろの壁の反対側はBARになっております」
「あーなるほど、かしこまりました。以外とこじんまりとしてますね、あっ、狭いとぃう事ではなくて…」
「いえいえ、おっしゃる通りです。以外と広すぎると落ち着いて過ごせない方が多い為、なるべくならとの思いで設計致しました」
「そうなんですね。でも過ごしやすそうですね」
「そう言って頂けるのは嬉しい限りです」
そう言いながら龍崎さんは、3番の部屋の前でドア横のデジタル錠の蓋を開け4桁の暗証番号を打ち込みドアが開いた。木のドアの向こうにはまるでモデルルームに来たかのような部屋である。もしくはリゾートホテルに来たかのようなとても雰囲気の良い部屋だなと言う感じだ。壁紙はホワイトと少しグレーかかった色合いで、リクライニングチェアーや奥には小上りの畳があり確かに和を感じられる。
「布団や冷蔵庫などもありますのでご自由にお使いください、又、何か御座いましたらこちらの専用電話にてお話しくださいませ」
「はい、かしこまりました、ありがとう御座います」
「サウナや浴室もご自由にお使いください。ちなみにBARの際はご一報下さいませ。如何せん我々も色々動いておりますゆえ」
「はい、その際はご連絡させて頂きます」
「有難う御座います。他に聞きておきたい事や、ご不明点等は御座いますか」
「いえ‥、特にはありません」
「かしこまりました。では今から7時間ごゆっくりと素敵なお時間をお過ごし下さいませ」
バタンッ、ドアを閉める音が鳴り龍崎さんは出ていかれた。1人になり、改めて部屋内を見渡し悪くないなと思った。そして、鞄の中から飲み物とつまみとおにぎりを取り出し冷蔵庫に入れた。ビジネスホテルでよくあるタイプの小さな冷蔵庫だ。このタイプの冷蔵庫を見ると旅行に来た気分になる。そうこう考えながら後6時間ちょいどうしようかと悩みだした。ここに来る際は、酒とつまみで何も考えず、好きな曲を聴きながらゆっくり過ごしBARで軽く呑もうかなと考えていたが、まさかのサウナがあるとは……
しかし、いざここでの過ごし方は以外に難しいかもしれない、そんなことを考えている最中も刻一刻と貴重な時間は削られていく。
そこで出た結論は、2時間サウナで整いその後BARで呑むで決まり、早速動き出した。タオルはあると言っていたな
「うーん、サウナハット持ってきてなかったな。でもええか、初めて入るサウナやからちょいとワクワクするな」と独り言のようにつぶやきながら、ペットボトルの水を取り出し一口。その後素早い動きでサウナへ向かう準備をしていた。




