訪問
とあるビルの半地下にある、居酒屋で新入社員の歓迎会が開催されている。18:30から2時間ほどだ。予定通り終われば21時前、本日の目的は昨日行く予定に立てたBARに行こうと考えている。検索エンジンで見た時間は20:00から02:00と記載していたので、多分可能である。2次会がないことを祈るが・・・
歓迎会は、予定通りの時間で解散となった。良かったと思った。なにせ本日も、圧で圧を制圧するかのような精神論の飲みとなり、新入社員はと言っても、3人しかいないのだが。萎縮しており、上司の愚痴と武勇伝のオンパレード、私がたまにフォローする流れだった。上司がトイレに行くとすかさず、
「気にするなよ、田中さんも上から下から家族からのモーレツな依頼を捌いていて気が休むところがないからな。適当に流せと、よく言うけど、それですぐ対応できひんと思う、やけん休むときは全力で休んで遊べ。それが俺の解消法やけどな」
「そうなんですか?でもやっぱりきついっすよ」
「まーね、まだ本格的に仕事してないのに、田中さんの言い方はないよな」
といいながら、ビールを飲む。
「でも、独り立ちまではやってみようや。俺も、至らないかもやけどフォローするけん」
「はい、分かりました。とりあえずやってみます」「うん、とりあえずな」
そんな、ありふれた慰めの言葉をかけながら、歓迎会は進んでいった。
歓迎会からの帰り道で、BARに向かう最中、改めてスマホで住所を確認して向かった。マップには店名はなくビューでもそれらしき建物はないようだ。新しいのかもしれないと思った。前日の様に、怪しいかもと考えた。もし、ヤバそうなところなら、帰ろう。
しかしながら、少し浮き浮きしながら歩いている自分もいるのでこそばゆい感じで変な気分だ。
最寄りの駅に到着し、改札を抜けて左に曲がって駅の外に出ると、目の前はロータリーとなっており、左に行くと公道、右に行くと民家であり、駅前は閑散としている。住所を便りに歩いていくと民家がある方だ。
知らない場所ではないが、余り行くことがない方面なので、少々不安な面もある。私が住むところよりは少し都会だが。
スマホ地図を便りに歩くこと5分、目的の場所に到着した。
「うーん、ここやけど、それらしき建物はないな」
見当たらない。クリーニング屋と、その他はマンションや工場の敷地、道路挟んで民家だけだな。これは、隠れ家かもしれないな、又は予測した通り怪しいかもしれないなと頭の中でグルグル駆け回っている。
キョロキョロしながら目を凝らしスマホを見ながら、見てみると細道がある。たまに正しい住所を打ち込んでも少し離れていることもあるのでここでは無いかもと思った瞬間、クリーニング屋の横の細道が怪しいと睨み、私は腕を組みながら考えて
「向かおう」
自分の直感に信じて細道を歩き始めた。
すると、一階建ての縦に長い平屋が見えた。正面の黒いドアに、DDと小さく書いてあり、「ここか」と小声でつぶやきながら、改めて周りと建物を確認した。
目を凝らすと平屋の建物はまだ新しい感じで奥に5部屋程あるのかなと思えた。だが、直感を信じたんで、意を決して呼び鈴を鳴らした。
しばらくすると正面の黒塗りの重厚感があるドアが開いた。
中から、背の高い男性店員が現れて
「今晩、ようこそお越しくださいました。中へどうぞ」
高級レストランや高級ホテル等でよく見るウェイターの格好と仕草で迎い入れてくれた。
好きな俳優の声質で渋味をきかせた心地良い声量の男性店員だなと感じた。言われた通り入ることにした。年齢は30〜40代といった感じだ。
「はい、失礼致します」
通されて中に入るとそこは、会社の待合室のような作りになった部屋で、カウンターがあり、高級感溢れる一人掛けソファが3つあり、壁は白を基調した内装で所々に木目調の素材をあしらった落ち着きある空間。ウェイターが奥の灰色の為にソファの横に付き、丁寧な仕草で
「こちらのお席へ、お座り下さいませ」
「は、ハイ」
指示された通りに小走りでソファへ腰掛けた。
「いらっしゃいませ、とても悩まれてお越しになられたと感じました。分かりにくかっかと思いますが、ご足労頂きありがとうございます」
にこやかな笑顔で、私を対面にして深々と頭を下げた。顔を上げて
「BARandCafe DDへお越しいただきありがとうございます。当店の店主ならびにドリームドラゴンの代表をしております、龍崎 流夢と申します」
丁寧な言葉遣いとスッと名刺を差し出され、こちらも思わず両手を出して受け取り
「あっ、頂戴致します、山下翔人です、宜しくお願い致します」
「山下翔人様ですね。本日はどの様な御用でしょうか?又どのドリンクをお買いなられたかをお聞かせいただければ嬉しいです」
ん、なんで分かるんだ?確かに代表の言う通りめっちゃ悩んで来た事とか、と2、3秒ほどだが間が空いたのを代表は見逃さず
「失礼ですが、今何で分かるんだと心の中で思われたかと存じ上げます」
「えっ、あっ、そ、そうです。なんで分かるんですか」動揺した
多分、顔は焦っている表情をしていることだろう。私は顔に出やすいと昔から散々言われているから。こればかりは性格の問題なのかも知れないが。それで、いらぬ失敗は多々あるのだから。
代表は、目を真っ直ぐこちらを見ながら軽い笑みを浮かべ
「いえ、こちらにご来店頂くお客様はみな山下様と同じ様な表情や仕草を致しますゆえ、分かるのでごさいます」
「あっそうなんですか?何かすみません・・」
「山下様、そんなに謝ることではありません。私が要らぬ事をお伝えしたのが悪いのでこちらこそ大変失礼致しました」
「そんな、私もつい態度に出るのですみません」
「とてもお優しい方なのですね」
とこんな不毛なやり取りをして、気を悪くしたら申し訳ないなと。
そんなやり取りをした直後、代表がカウンターからバインダーとボールペンを持ってきて、私の前に置き
「では、山下様、本題に入りまして、当店のコンセプトとご使用のルールや流れをお伝えさせて頂きます」
そうだ、それが一番の目的なのだから、自販機とドリンクとこの店舗の意味を知りたいのでこちらに来たのだ。
「はい、お願い致します」
そう答えた後、代表が私の手前に座り、先程とは違う喋り方となり
「失礼致します。先ず始めに当店のコンセプトですが、お悩みであろう方々に、気持ちをリセット、モヤモヤしたまま日々過ごされておられて、ストレスを溜められてい方々に、前向きになって頂き、世界を変えて欲しい、自身の人生をもっと華やかにしてほしいとの思いを元に、リラックス出来る場を提供したい。という私が銘を受けて作った、まぁ簡単に言えば非日常体験を行って頂きたい」
堂々たる口調で、又聞こえがすこぶる良いテンポで話されているのでスゥーと言葉一つ一つが入ってくる。何か心地良い感覚になった。
「そして、その様なお悩みの方々が当社が作った自販機で購入して来て頂けるようにお願いし、全国に配置させて頂きました」
「えっそうなんですか?御社があの〜、えー少し変わった自販機を設置されてんですね」とお相手に失礼のない様にお伝えしようと思ったが、ついつい本音を言ってしまった。
「山下様、変わった自販機との表現はあってます。その通りですが、購入したいと思った瞬間は惹かれませんでしたか?」
にこやかなで心地良いトーンだが、私の心の中を見透かされたかのように真に迫る強い雰囲気を感じ
「あのー、・・はいその通りです。突然喉が渇いた感じなり飲みたくなりました。何なんですか、この感覚は?」
「我々が、お悩みされている方に、感じていただけるように少しばかり念を入れてお作りしたドリンクを販売しております」
「えー何ですか?念?・・・何か怪しさしかありませんが・・」
もうめちゃめちゃ怪しすぎる。念とは何ぞやと思いたくなり、この場から離れたくなった。その瞬間、持っていた鞄を手に取ろうとした
「山下様」
言われて、ハッとし代表を見た
「今、この場所から離れたくなりましたよね。賢明な判断です。怪しいなと思えば、逃げる事は悪い事ではないので、難しければこのままお帰りになられて頂いても結構です。私は山下様を追い込むつもりは全くありませんので」
そう言われて、変な気持ちになりかけたが、少し落ち着いた。
「はい、龍崎さんのおっしゃる通りです。怪しすぎると思いました。でも・・・・気になり・・ます。なので、本音をお聞かせいただけますか」
「ありがとうございます。我々の事について、私がお伝えした通り嘘偽りなくお伝えさせて頂きます。私と致しましては、山下様のより良い人生になれるようにサポートしたいと思っております。長くなりますので、お飲み物をご用意いたします、お好きな物をおっしゃって下さいませ。BARですのでアルコールも数多くございます、又ソフトドリンクも可能ですが、いかがなさいますか?」
明日は土曜日で休みだ。なんしかBARandCafeなので、呑むつもりだったので
「では、ハイボールを頂けますか?よく飲むのはジムビームなのですが、ジムビームはありますか?」
「はい、ご用意出来ます。早速ではありますがご用意致します」
そう言うと、代表は立ち上がり会釈をし、カウンターの奥へ向かった。




