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端原期東方観察府の成立と武綱氏頼の政治的立ち位置 —旧体制官僚の自負と端原集権化の摩擦—

【要旨】 武綱氏頼は、旧大館政権から端原新政権への移行期において、東方観察府という地方行政組織の「継続性」と「崩壊」の両面を体現した人物である。本稿では、彼が果たした密偵協力の功績と、その後に生じた端原直系武士団(培良氏ら)との権力摩擦を軸に、彼の政治的末路が新政権における「地方自治の終焉」をいかに象徴していたかを論証する。


一、 穏健派官僚としての実務的貢献

武綱氏頼の政治史における最初の重要な立ち位置は、**「旧体制内部からの変革者」**である。1月24日の東府潜入作戦において、彼は自らの自警団を用いて端原の密偵を保護した。これは単なる軍事的協力にとどまらず、麻生派の急進的統治に不満を持つ東方の伝統的支配層(奥知呂一門)の意思表示であった。 彼は寺地篤彦らと共に、端原壮真という新興の強権を東方へ引き入れることで、麻生派の暴走を食い止めようとした。この段階での氏頼は、新政権下でも東方の自治を維持・代行する「実務官僚の筆頭」として期待されていた。


二、 官位・役職を巡る階級意識の衝突

氏頼の政治的限界が露呈したのは、2月12日の東方鎮定後である。彼は自身が「奥知呂一門」という名門出身であることに強い誇りを持ち、端原氏に対して副総督への昇進を要求した。 しかし、端原壮真が下した決断は、氏頼を**「培良時久の差配下」**に置くことであった。培良氏は端原の被官、いわば「下臈げろう」の出自である。氏頼が吐露した「なぜ下臈に頭を垂れねばならんのか」という悲歎は、伝統的な家格秩序を重んじる旧官僚と、実力と忠誠度で序列を決定する端原流の軍事独裁体制との、解消しがたいパラダイムの乖離を象徴している。


三、 掃討使としての武功と「不要」の論理

氏頼は、逃亡した逆賊・麻生廣頼を捕縛し処刑するという、新政権にとって最大の軍事的懸案を解消する功績を挙げた。本来、これは政権内での地位を不動のものとするはずの武功であった。 しかし、端原政権の政治史的視点に立てば、廣頼の処刑が完了した瞬間、氏頼の「地方連絡官としての利用価値」は消失したと言える。壮真にとって、旧体制の残滓であり、かつプライドの高い氏頼らは、中央集権化を推し進める上で「目の上のたんこぶ」に過ぎなかった。彼の存在は、端原による東方完全掌握(直轄地化)を阻む壁となっていたのである。


四、 結論:政治的「捨て石」としての武綱氏頼

3月18日の暗殺は、単なる一官僚の死ではなく、**「東方観察府における旧来の自治権の完全な圧殺」**を意味した。氏頼を暗殺した培良時久が、その後、氏頼の傍輩である寺地篤彦らを悉く誅戮し、ただ一人の「裏切り者(姉賀久臣)」のみを赦免した一連の処置は、端原政権による恐怖政治の完成を物語っている。 武綱氏頼は、新政権成立のために多大な功績を挙げながらも、その出自ゆえに新政権の構造的矛盾(家格vs実力)の犠牲となった。彼の政治史的位置づけは、端原壮真が旧体制を「解体・吸収」する過程で用いた、最も高潔で、かつ最も悲劇的な「使い捨ての駒」であったと総括できる。



■ 人名事典:武綱たけつな 氏頼うじより

【解説】 東方観察府の役員代。奥知呂一門の誇りを持つ穏健派の巨頭。端我戦争期、端原軍の密偵を自警団の捕縛を装って府内へ引き入れ、寺地篤彦らの救出に成功するなど、端原家による東方奪還の立役者となった。麻生派の敗北後、宿敵・麻生廣頼を自ら捕らえ処刑する功を立てるも、端原家臣・培良時久(下臈)の下位に置かれる人事に激しく反発。その政治的自立心と旧体制的な階級意識を危険視され、3月18日、培良時久により暗殺された。彼の死は、東方における旧勢力の完全解体と、端原家による地方直轄体制の確立を告げる画期となった。

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